第9話

さらに奥へ進んだ。

広い空間に出る。

小学校の校庭くらいはあるかも知れない。

しかしあくまでも洞窟なので、地面も壁も天も全て岩。


「ここ、いるね」


先生が辺りを見渡しながら言った。


「どこかなあ」

「あの、いるって何がいるんですか」

「悪魔」


ついに、ラスボスの登場ですか。

ゴクリ、と唾を飲み込む。


なんか緊張する。

杖を出して、構える。

先生も懐に手を入れていた。

背中を合わせて周囲を警戒。


と、その時だった。


勝手に、私の体が動いたのだ。

意思と違う行動を始めた。


…?!


杖の先を先生の方へ向けて、


ーーフィアンマ!


炎魔法を放った。


……え?


アリス先生は咄嗟に防御結界で防いだ。

そして、目を見開いて言った。


「…助手ちゃん・・・?」


「アクア!」


今度は水魔法を先生に向けて放った。

あれ、なんで?!体が勝手に。

先生はまたもや防御する。


「どうしたの助手ちゃん、怒った…?」

「怒ってないです!体が勝手に…!」


パシッと先生が杖を持つ私の腕を掴んだ。

なおも私は魔法を放とうと腕に力が入っているが、先生の方が力が強い。


「パワー魔法だよ。魔力を体の一部に集中させて力を強化する。…で、助手ちゃんの体は勝手に動いてるんだよね」

「はい」


先生は不安げに首を傾げた。


「…一応確認だけど、それは、助手ちゃんの意思じゃないんだよね?」

「はい、もちろんです」


アリス先生はホッと息をつくと、杖で私の頭をポンと叩いた。

体の力が抜けていく。

勝手に体が動く事はなくなった。


「…これは……」

「助手ちゃんは操られてたんだよ」

「え? 誰にですか…?」

「悪魔だよ」


先生はそう言うと、近くにあった大きな岩の前へスタスタと歩いていき、杖先を向けた。

ぼかああああん

と岩が炸裂する。

中から、一人の男が出てきた。

若い。10代くらいかもしれない。

長いロン毛に、頭には黒い山羊のような角の生やし、黒いマントを羽織っている。


先生が言った。


「悪魔見っけ」


男はじっとアリス先生を睨むと、口を開いた。


「くっく…。ここまで辿り着いたのはお前らが初め………」


どかああああん


男が言い終わる前に、男の地面から爆発が起こった。

男の体は大きく跳ねたあと、ドサっと地面に叩きつけられた。

やったのは、杖を向けるアリス先生。

わあ、有無を言わせない気迫。

アリス先生は倒れ込む男の体を足で踏み躙った。

容赦ない。


「君はプート・サタナキアだね。文献で読んだ事があるよ。女性の体を自在に操る能力を持つ悪魔。あってますか?」

「…ぐっ…………なぜ…貴様は女なのに操る事が出来な…」


アリス先生が氷の弾丸を男の顔面に放った。

男の「ゔっ…」という低い呻き声が聞こえた。


「先生は質問に答えない子が大嫌いです」


…完全に先生モードに入ってる。

いやむしろこっちの方が素なのかな。


「『はい』か『いいえ』で答えてください。君はプート・サタナキア?」

「………そうだ…」

「村の女性達をさらったのは君?」

「…ああ………」

「攫われた女性達はどこにいるの?」

「………」


男は黙り込む。

先生がもう一度尋ねた。


「女性達は、どこですか?」

「………」


なおも、男は黙秘。

なんで何も答えないんだろう。


「あ…」


ふと、ある可能性が頭に浮かんだ。

ものすごく突飛な可能性。

だけどもしかすると、もしかするかも。


先生が男への詰問(?)に気を取られているるのを確認。

こっそりとその場を離れた。

先生がいる場所とは逆方向を向いて、しゃがみこんで、ポケットからから魔法の手鏡を出す。

パカリと開いた。


よし…。

とある事を確認するために、小声で語り掛ける。


鏡よ鏡ーー


***


「これで最後だよ、女性達はどこさ」


アリス先生は杖を男の顔面に向けて、脅すようにして尋ねた。

しかし、男が答えることはない。


先生は「はあ…」と息を吐いた後、力無く杖をプラーンと下げた。


「脅されているにも関わらず答える気なし、ですか…。さてどうしよう。一度村に連れ帰るか…」


私は先生の方へ駆け寄った。

先生は私に気づき、こちらに顔を向けた。


「…助手ちゃん? どうしたの?」

「あ、えっとう…」


先ほど浮かんだ突飛な可能性。

鏡で確認すると、なんと当たっていた。


…どう説明するのが良いかなあ。

そのまま言うと、「なんで分かったの?」って聞かれそうだし…。

鏡のことは言えない。


うーん、ちょっと遠回りになっちゃうけど、質問という体でいくか。


「先生、この人の言ってる事って正しいんですか?」

「…どう言うこと?」

「悪魔って、嘘を言うイメージなので…」

「嘘…」


先生は顎に手を当て、考える素振りをした。

うんうん、と頭を縦に動かしている。

男の人との会話を脳内で再生しているのかもしれない。


先生は何か閃いたように言った。


「そうか…そう言うことか…。…いや、まだ決まった訳ではないが…」


このやり取りだけで私の言いたい事が伝わったのかな。


先生は男の側にしゃがみ込んだ。

男は黒いマントの下にシャツを着ている。

先生はそれを両手で掴み、ビリビリと裂いた。


「やはりそうか……」


先生は私の方へニヤリと笑いかけた。


「やっぱり君は優秀な助手だよ。助手ちゃんのお陰でこの件は解決に向かいそうだ」


えへへ。

褒められちゃった。

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