朝活はゲーム

 気がつけば僕は布団の中にいた。時計は6時半を指している。

「……早く起きすぎたな」

 僕はそう思い、布団の中に潜って目をつむった。

「こら、二度寝するな」

 唐突に優莉姉さんの声が飛んでくる。僕は慌てて身体を起こした。

「!?」

 声にならない驚きに、優莉姉さんがさらなる驚きを追加する。

「今からゲームするよ。朝ご飯前の朝活ってやつだね」

 僕は驚きのあまり返す言葉が出なかった。

「……優莉姉さん、小説は?」

「ちょっと書き出しができたけど、それより取材が足りなかったからね。ゲームしながら取材しようと思って。『Blitz of War』っていうゲームなんだけど、やってくれる?」

「ブリッツオブウォーか、僕レベル27だよ」

「分隊組もうよ。英二のパソコンもあるみたいだし」

「わかった、やるよ」

 僕はいつの間にか枕元にあったパソコンを起動し、ウォーブリッツを立ち上げる。

「Wi-Fiはつないである?」

「忘れてた」

「パスワードはunkoa……」

 僕は淡々とパスワードを打ち込み、Wi-Fiにつなぐ。unkoに反応しない僕に失望したような目を向けて、優莉姉さんがボソリとつぶやく。

「汚いなあ」

「何が」

「汚いネタで笑わないのは汚いわあ」

「どういうこと!?」

「さて、空戦か陸戦か海上戦どれで行く?」

「じゃあ空戦で」

「おお、奇遇だね。私は空戦しかやってないんだ」

「ええ……」

「まあそれはそれとして、バトルレートはどれぐらいで行く?」

「2.3上限で」

「わかった。じゃあ分隊に招待するからユーザーコード教えて」

「はあい」

 僕がユーザーコードを伝えると、即座にフレンドに追加された上分隊に招待された。僕が両方承認すると、優莉姉さんはニコニコしながら言った。

「どこの国で行くの?」

「ソ連」

「おお、分かってるじゃん」

「そうかな?」

「ソ連機はやっぱりミグ系列よりポリカルポフだよね?」

「そうだね」

「よし同志だ、私は日本機で行くぞ」

「頑張って」

 僕と優莉姉さんが準備を完了し、優莉姉さんが「出撃」を選択する。試合マッチはすぐに始まった。

「英二、どうする?」

「僕は低空域でバトる」

「じゃあ私も低空域で」

 優莉姉さんはそう言うと、双発の重戦闘機で高度を下げる。日本の試作戦闘機だ。

「さて、どうしてやろうかな……」

「まさかそいつで……?」

「うん、あの敵機の群れに突っ込もうか」

「ええ……」

 優莉姉さんの重戦闘機は、敵機の群れに突っ込んでいった。

「よし、クリティカルヒット」

「もう!?」

 優莉姉さんの重戦闘機は激しく銃弾をまき散らしながら、複葉機を追いかけている。

「えええええええ」

「そんなに見とれてると落とされるよ」

「わかってるよ」

 僕は格上の戦闘機「スピットファイア」のコックピットに照準を合わせ、撃ちまくった。

「おお、うまいね」

 僕が敵機を撃墜したのを見て、優莉姉さんは笑いながら言う。


 試合マッチが終わったとき、優莉姉さんはチーム内で1位だった。

「10キル、5キルアシスト……まあまあかな」

「すごいなあ……ちなみにレベルは?」

「50」

「すごい」

 僕はそのあとも優莉姉さんにはどの数値でも敵わなかった。

「さて、朝ご飯にしましょうか」

 優莉姉さんがそう言ったのは、8時半を回った頃だった。朝ご飯はお茶漬けに豆腐と、極めて省力化されたものだ。

「まあ普通な味だね」

「そんなこと言わないでよ、お茶漬けは昨日の出汁が入ってるんだから」

「そうなんだ」

「まあ美味しく食べていただければ幸いだよ」

 僕は優莉姉さんと一緒にお茶漬けをすすりながら、出汁の風味を探していた。

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