愚かさと戦争とは
「さて、朝ご飯が終わったところで英二くんに少し面白い話をしてあげよう」
優莉姉さんはそう言いながら洗い物をしている。
「どんな話?」
「戦争と愚かさについての話」
「つまらなさそう」
「なんでよ」
「だって戦争なんて関係ないじゃん」
「私達のいる日本だって戦争をしたことがある国だよ?」
「でも昔の話でしょ?」
「そんなことないんだよ……それに、人が戦争について学ばなければ戦争はまた起きる。これは歴史が証明している」
「……どういうこと?」
「戦争ってどういうものだと思う?」
「国と国との交渉が決裂した結果発生する争い……じゃないの?」
「よかった、認識は合ってる」
優莉姉さんは胸をなで下ろした。
「いいかい、英二くん。戦争というのは我々がかろうじて、たった一世紀にも満たない間だけ回避して来られた身近なものなんだ。我々が生きている間は、まだ戦争が我々に襲いかかっていないというのも、我々が幸運だからそうなっているに過ぎない」
「へえ……根拠は?」
「私たちはアメリカという世界で最強格に入る国の庇護下に入っているから戦争を免れているのであって、そうでなければ日本などという戦略的には最前線にある国など一瞬で他の国の餌食だ。それに我々は自分たちの住む土地を守る兵力さえ満足に持ち合わせてない。それは知ってるよね?」
「……たしかに」
「で、私が思う愚かさは戦争を含む『かつて経験した禍』を再び起こさないために、そして禍が起きてしまったときに備えて多くの意見を有用か不要か見極めながら精査するという当たり前のことをしないことだ。教えられたことだけやるという消極性、そして愚かさは戦争しか招かない」
「事なかれ主義が愚かってこと?」
「事なかれ主義は非常に愚かだね。でもそれ以上に愚かなのは昨日も言った、ロボットと化した正しい事実に基づいて理性的な対応を取らず、考えもしないで正しいかもしれない主張を間違いだと断罪して踏みにじる人々……いや、人でなしよ」
「……その人でなしに親でも殺されたような言い方だけど……」
「親じゃなくて
「……」
「まあいいや、そんな感じで人が心血注いだものを蹴飛ばすような不寛容に対して寛容であってはすぐに争いが始まるってこと」
「……ナチスとかみたいに?」
「ナチスはわかりやすい例だね。まあそんな感じで、やってはいけない表現をむやみやたらに押し通すから専制政治や独裁政治、そして争いが生まれるんだよ。人が二人以上いる以上、考えも違えば表現したいものも思想も、何もかもが多少は違う。それぞれの持っている能力も違うだろう。それをみんな一緒にだなんて虫がよすぎると思うよ」
頭の中で何かがつながったような感覚があった。
「そうか、それだ」
「違うよ、英二くん」
僕の言葉と同時に、優莉姉さんが僕を厳しい目で見る。
「そうやって何でも鵜呑みにしないで、考えるんだ。その情報が自分の知っている知識で理解できるかどうか、新たな知識を必要とするならその知識は理解できるのかってことを。そして理解した情報は正しいかをね」
僕は考え、1つの結論にたどり着いた。
「……この情報を否定できる正当な理由は見当たらないから僕は信じるよ。これで説明できないことは今のところ身のまわりでは起きてないし」
「そうかい。私はそんな風に考えてると周りが馬鹿にしか見えなくなって嫌なんだけどね」
「……」
「だから普段の私は、平和ボケした考えをしているという点ではいたって一般的な普通のJKだよ」
「そうなの?」
「うん。私が高校でどう思われてるかは分からないが、周りの反応から察するに不思議で面白いことを稀に言う読書好きといったところかな」
「へえ」
「さて、もうすぐ13時半か。着替えた方が良いね」
「え?」
「一日中家の中というのも嫌だろ?私はとある友人と14時から遊ぶことにしてるんだ。英二くんを連れて行かせてくれとも頼んだよ」
「え……?」
「言ったとおりだよ」
と、そのときドアホンが鳴った。
「和藤です。杉山先輩」
「ああ、噂をすればなんとやらだね。すぐに着替えてくれる?」
「わかった」
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