夕食は唐突に質素

 風呂から上がってリビングに戻ると、優莉姉さんは夕食を机の上に並べていた。

「夕飯できてるよー」

 優莉姉さんはそう言って、さつまいもと豆の煮物、ふかしたかぼちゃを僕に見せた。

「美味しそうでしょ」

「……タンパク質は?」

「豆」

「ご飯は?」

「炭水化物の塊みたいなものに更に炭水化物をつけるとか正気?」

「モサモサしない?」

「そのために汁物がある」

 優莉姉さんはそう言ってとろみのある褐色の汁を持ってきた。

「鰹昆布のおすましだよ〜」

 僕は絶句した。優莉姉さんは平然と椅子に座り、箸を持った。

「これで終わり?」

「うん、これだけあればお腹もいっぱいになるでしょ」

 僕は諦めて椅子に座り、手を合わせて箸を持った。

「いただきます」

 さつまいもを口に運ぶと、さつまいもは口の中でとろけるようだった。

「!?」

「ほら、美味しいでしょ?下準備したかいがあったよ」

 僕の頭はバグっていたに違いない。

「なんですかこれ」

「さつまいもだけど?」

「どうやって煮たの」

「炊飯器。それをさらに煮た」

 僕は煮物をあっという間に完食してしまった。

「かぼちゃも美味しいよ」

 僕はかぼちゃを口に運び、再び絶句した。均一に柔らかく、しっとりしているのである。僕はゆっくりかぼちゃを食べながら、すまし汁を口に含んだ。夕食を食べ終えたとき、僕はこれから8日間の食事がようやく楽しみになった。

「じゃあ、さっきの続きといこうか。まとまったかな?」

「あっはい」

「じゃあ夢を書斎で」

 僕は書斎に向かいながら、頭の中で喋ることを考えた。そこへ優莉姉さんが質問する。

「君の夢は、過去を変える系統の夢かな」

「うん」

「じゃあ、聞かせてもらおうか」

 優莉姉さんは書斎の戸を開けて言った。僕は書斎に入ると、話を始めた。

「僕は、過去を変えたい。できれば過去を変えて、生き方をもっと考えて今まで生きてきたかった。それが僕の夢」

「叶わないんじゃない?」

「え?」

「その夢は叶うの?」

「叶わない」

「なら夢とはいえないね」

「……え?」

「英二くん、突然だが夢ってどういうものだと思う?」

「夢?」

「そう、夢」

「叶えたい願いのことじゃないの?」

「叶わない願いを叶えたいと思えば叶うの?そうじゃない。君の話は過ぎた日々を戻すような、叶えられない願いだけ。君は空想を握って、夢を追ってくれ。さあ夢を語ろうか、英二くん」

「は?どういうこと……?」

「言ったままだよ。英二には決定的に足りないものがある」

「……なに?」

「空想だよ。空想がある限り、人は夢を持っていられるのさ。自分の未来を空想してごらん」

「空想……」

「10年後君は何をしていたい?そして、どんな世界に生きていたい?」

「……」

「過去を悔やんでも戻らない。でもこれからを変えることはできるからね。これからの生き方を考えれば、自然と夢は英二の前に現れるよ」

 優莉姉さんはそう言って、パソコンを開いた。

「今日の取材は終わり。今から私は英二くんのような主人公がいる小説を書くから、英二はそこらへんの本を読むか寝るかするといい」

「わかった、考える」

「何を?」

「優莉姉さんが言ったこと。答えがいつ出るかはわからないけど、将来何をしたいか考えてみるよ。それから、今何をすべきかってことも」

「よーし、その意気だ」

 優莉姉さんは嬉しそうにキーを打っていた。

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