契約履行の確実性
「わかった、取材、受けるよ」
僕が細切れの言葉で優莉姉さんに言ったのは、宿題が終わって30分後のことだった。
「ありがとう。じゃあ契約条件は守った上で取材を始めるね。英二くん、5分あげるから君のアピールポイントをプレゼンしてくれる?」
言われて僕は言葉に詰まった。
「なんでもいいよ。何かができるとか夢はなんだとか」
「普通の人より少し勉強ができる、夢はない……以上だな」
「……へえ」
「どうしたの」
「夢はない……本当に?」
優莉姉さんは疑いの目を向けてきた。
「ほんとだよ……」
「なんで?じゃあ将来何になるつもりなの?」
僕は将来のことを考えて生きているつもりだ。そして、答えは一つに決めている。
「会社勤めで働いて、安定した収入を手に入れて生活したい」
「逃げたね」
優莉姉さんは食い気味に言った。
「そんな風に平々凡々とした夢は、君のような頭がいい人間が持つものじゃないよ」
優莉姉さんの言葉に、慌てて僕は反論する。
「だって、それ以外に安定した生活なんて……」
「安定してるのが偉いって、誰が決めたの?」
「ニートにはなりたくないし」
「なら企業に所属せず人を使えばいい。高いレベルの大学に進学して、企業の中核に入ってもいい」
「……」
「なに?大それたこととかやってみたいとは思わないわけ?」
「思う……のかな」
「誰でも一度は思うでしょ。それに、英二くんは今の生活に不満すらないの?」
「ないよ」
「嘘だ。さっき言ってたよね、『みんなはいいよなぁ』って」
「……まあ不満はあるよ」
「なら夢もあるでしょ」
「なんでそうなるの?」
「夢は不満から生まれるんだよ」
「……まあ夢もあるかもしれない」
「なら話して」
「……」
「まあいいや、ちょっと夕食の下準備とかしてくるね」
「わかった」
僕は書斎で一人、考え込んでしまった。優莉姉さんはすぐに戻ってきて言った。
「お風呂入る?」
「早くない?まだ……5時?なんでこんなに時間が……」
「英二が悩んでたからだよ」
「悩む……?」
「うん。英二はたぶん今日、初めてロボットじゃなくなったんだ」
「ロボット……?」
「うん。大半の人は社会に順応したふりをして、事なかれ主義かつ無信念無感動で論理すらろくに知らずに動くロボットなんだ」
「……ひどい言いようだね」
「まあ事実じゃん?君の周りの人の中に、少しでも自分の言葉で自分の主張を論理的に説明してる人はいる?いないよね?生徒会選挙だってテンプレートをなぞったような演説をするだけじゃん?それはつまり、皆が前例のあることやプログラムに組まれたことしかできないロボットだってこと。せっかくの創造性を無駄にして、ただ生きているだけの人が多すぎる。こんなだから、世の中が停滞するんだよ……ごめん、個人的な恨みを長々と話しちゃったね。お風呂入ってきな」
「はい」
「お風呂で考えれば少しまとまると思うから、将来について話してみて」
その言葉を聞いた僕は、リビングで着替えを取って風呂場に向かった。風呂場では、お湯の張られていない浴槽が僕を待っていた。
「お湯、沸かすか……」
僕は給湯器を起動した。風呂が沸くまであと9分という表示が出る。僕は服を脱いで、シャワーを浴びながら考えた。
――このままは嫌だ。過去を変えたい――
石鹸で体を洗い、沸いた風呂に浸かる。熱めの湯が僕を包み込んだ。
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