48.ねた?



琥珀は今、自分の部屋のベッドの上に服を並べている。


クリスマスの服装どうしよう……!?


と、琥珀はお悩み中なのです!!




フリーサイズのちょっとぶかぶかシャツ風ワンピース?


それとも寒くても大丈夫なもこもこトップスにスキニーとか。


でも琥珀的には黄色ワンピも好きなんだよなぁ……。




琥珀はとっても悩んでいました。




あ!でもまって、結局コート着るから、もしかしてほぼ見せないのでは……うぅ、琥珀わかんない。


どれがいいかなぁ。




そう悩みをみっちょんに伝えたら、みっちょんには「多少寒くてもファッションは可愛さ優先よ。初デート、キメてきなさい」なんて……アドバイスをもらった。


お、女の子ってたいへんだぁぁぁ!!






しかしクリスマスイブ当日の朝、うちの目の前には腕を組んだみっちょんが来ていた。


なにやら旅行用のキャリーバッグを携えて。




「ほら支度するわよ。私が琥珀のとびっきりの可愛さ引き出してあげるわ」


「……み、みっちょんさまぁぁぁぁ!!!」




なんとみっちょんがお仕度を手伝いに来てくれて、琥珀は涙目になってみっちょんに訴えかける。


服一つでこんなにも悩んでいた琥珀は、ほかの飾りなんてものにまで頭が回っておらず、部屋の中に入った瞬間にみっちょんにため息を吐かれてしまった。




「そうねぇ、琥珀は黄色が似合うからこのワンピースでいいんじゃないかしら。これにタイツを合わせて……うん、これでブーツと合わせてもよさそうね」


「……サクサク決まっていく……琥珀あんなに悩んでいたのに」


「首元はマフラーするとして、コートは暖かさと可愛さを兼ね備えたベージュのコートにしましょう」


あんなに悩んでいた服装が一瞬で決まりました……。


さすがみっちょん!!!




「はい着替えて!」と服を渡されると、みっちょんは着替え終わるまで廊下で待っていてくれた。




着替え終わった今日の琥珀は黄色のワンピーススタイル。


胸の下がちょっとキュッとしまっていてかわいい。


胸元には茶色のリボンがついている。




次にみっちょんが始めたことというと机の上にどんどん化粧品を並べていくこと。




「顔は洗ったわね?」


「洗ったよ?」


「じゃあ左のものから順番に使って塗っていくから」




そういってみっちょんは最初に自分が説明しながら使って見せて、琥珀もそれを真似て顔に塗りたくっていく。


化粧水、乳液、化粧下地、ファンデーション……こ、こんなにお顔にべたべたに塗り込むものなのか……女の子って大変だ。


眉毛を整えて、アイシャドーして、ビューラーという道具を使ってまつ毛を上げて、マスカラを塗って、そしたらチークを頬につけて……メイクってやることがいっぱいで、慣れていないとちょっと疲れてしまう。


ていうかビューラーが怖かった!!


ちょっと痛かった!!




最後にグロスを塗って……唇がツヤツヤになりました。


鏡に映った琥珀はいつもよりなんだか、幼さが薄まったような気がします。


お、おとな風に見せかけた琥珀ちゃんが出来上がりました……。




「はい次、髪やるわよ」


「髪!!」




みっちょんは「巻くのとストレートどっちがいいかしら」なんて悩み始める。


琥珀は普段なにもつけていないストレートで、大抵ハーフアップの髪型をしている。




「んーでも琥珀は巻かない方が琥珀っぽいかしら」


「琥珀っぽい?」


「うん、まっすぐが似合うわ。アイロンかけましょう」




そういってみっちょんは、櫛を通してから琥珀の髪にヘアアイロンを当てていく。


アイロンを当て終わった琥珀の髪は見事にストレートヘアになっていた。


いつもよりまっすぐだ……!!!




「琥珀はハーフアップが似合うわね。うん、上はお団子にしてみるとか」


「お団子!!」


「緩いみつあみも捨てがたいわ。サイドから編み込んでいって結ぶもよし……長いと色々出来るわね」


「はわわ」



結局、サイドから緩いみつあみをして後ろで縛って、茶色のリボンを飾った。




「さて、ここからよ」


「まだあるの!?」




みっちょんの持ってきたキャリーバッグから出てきたのは、ジュエリーボックス。


その中から、いくつか琥珀の胸元に、ネックレスを当てていく。




「これはちょっとシンプルすぎるかしら。これはかわいすぎね、こっちは――」




どうやら貸してくれるご様子!?




「赤……うん、赤の石が似合うわね」


「待ってみっちょん貸してくれるの!?」


「えぇ。はい次耳出して」


「……イヤリングもするの!?」


「するわよ。どれがいいかしら、ハートにリボン、あぁ薔薇なんてのもあったわ」


「ひえぇ」


「でも……うん。琥珀は黄色の石が似合うわね」




そういってみっちょんはひし形の黄色い石が埋め込まれたイヤリングを付けてくれた。




「次、手首—―は、もう決まってるわね。」




そう言って、琥珀の小さなジュエリーボックスを見るみっちょん。


そう、そうなの。


今日も琥珀は、この大事な大事な、黒曜と琥珀のブレスレットをつけるの。




「へへへ」


「うん、可愛いわ。」




気付けば、支度に二時間くらいかかっていて、すっかりお昼を過ぎていた。


みっちょんも何やら、琥珀が着飾るのと同じように自分を着飾っていて……そこで琥珀は、ピンとくる。




「もしかして、みっちょんも今日おでぃと……?」


「あー……まぁ、そう、うん。イブだしね」




照れくさそうにそう言いながら、ツンとした態度のみっちょん。




頑張れみっちょん、頑張れいおくん……!!


可愛く仕上がったみっちょんは普段よりももっと可愛くて。


琥珀はお化粧が落ちちゃわないように抱き着いた。




お互い、頑張ろうね!おー!!

















それから咲くんが迎えに来たのは15時頃だった。


玄関を開くと冷たい風がひゅるるっと入ってきた。


冷たさに目をギュッと瞑ってしまったけれど、ゆっくりと目を開けたその先。


黒いコートを羽織った咲くんが、琥珀の好きな優しい目元をした咲くんが、そこにいた。


琥珀は今日のおめかしした自分を見せるのに、ちょっと緊張してしまう。




「こんにちは、琥珀ちゃん」


「こ、こんにちは」




ふふっと笑った咲くんが、琥珀の目線に合わせて少ししゃがむ。




「今日、かわいくしてくれたんだね」


「!!!!」




真正面からそんなことを言われてしまったら恥ずかしくて仕方がないのに、咲くんはそういうことをするっと言ってしまう。




お顔に手を当てて隠そうとしたけれど、そうだ、おめかししてるから粉付いちゃう、危ない危ない。




「琥珀ちゃんの可愛さをじっくり見ていたいところだけど……ここじゃ寒いから。車に入ろうか」


「は、はいっ」




そういって手を差し出す咲くんの手に、琥珀は手を重ねる。




「なんだか今日、緊張してる?」


「き、緊張してるっ」




咲くんを見た瞬間から、今日は恥ずかしくて仕方がない。


どうしちゃったんだろう、琥珀。


どきどき、どきどきするの。




プレゼント、ちゃんと持った、忘れ物ないね?大丈夫。


よしっ!!




琥珀は気合いを入れて、咲くんと共に車に乗り込んだ。




「大丈夫だよ」




車がゆっくりと動き出す。


真っ直ぐ前を向いていた咲くんが、こちらを振り向くと、少し首を傾げて。




「俺も、琥珀に負けないくらい緊張してる」


「………………う、うそだっ」


「嘘じゃないよ」


「咲くん、いつも通りに見えるもんっ」


「俺の為にこんなに可愛く着飾ってくれた彼女が隣にいて、緊張しないわけないでしょ」


「ひゃぁ」


「ふふ。俺の琥珀ちゃん」


「……さ、咲くんも琥珀の咲くんだよっ」


「なにそれ、すごく幸せなんだけど」




恥ずかしいを通り越して、琥珀は放心してしまいましたとさ。


後ろでいちゃいちゃしてしまって、運転手さんには申し訳なく思っている。




車はあまり遠くまで行かなかった。


近くの大きな公園へと向かっていく。


今日はキッチンカーとかも来ているらしく、琥珀はわくわく、わくわくしていた。




公園には人がたくさんいて、男女のカップルが特に目立つ。


イルミネーションはまだついておらず、電球が木に絡みついているのが見えた。


電球っていっぱいついてるんだねぇ。


これが夜になると灯るのか。




キッチンカーも出ていて、ホットドッグを売っているみたいだった。


それ以外にも焼きそばや、チキン、ケバブなんかの売店も出ていた。




「なにか食べる?」




咲くんが聞いてくれる。


そうだなぁ、夜まで時間もあるもんね。


何か食べたいなぁ……。




「うーん……」


「あっちでチュロスなんかも売ってるみたいだけど」


「え、本当!?」


「ふふ、行ってみる?」




チュロスにころりと心を惹かれてしまった琥珀は、なんとちょろいのでしょうか。


チュロス売り場に着くと、シナモン味、チョコ味、キャラメル、抹茶なんてのもある!


いろんな味があるんだなぁ。


でもこんなに味があると、琥珀迷っちゃう。




「どの味が好み?」


「うーん……チョコとキャラメルで迷ってるの」


「そうか……。じゃあチョコもキャラメルも頼んじゃおう」


「……え?」




琥珀は思わず咲くんの顔を振り返って、ぽかーんとした顔になってしまった。


何その欲張りセット……!!??




「な、な、な……!?」


「はんぶんこしようよ」


「はんぶんこ……!!?」




さ、咲くんと……チュロスをはんぶんこ……!!?


でもなんて魅力的な提案なのかしら……!!!!


どうしよう琥珀、とってもとってもぐらついてしまう。




「で、でも咲くんの好きなお味とかは……!?」


「ん?どれでも。琥珀ちゃんが選んでくれるなら悩む手間が省けたよ」


「はうっ」




こ、琥珀甘やかされすぎてない!?


だ、大丈夫!?


いいの!?


これっていいの!?




「それに、恋人なんだから」


「ふぇ」


「恋人らしいこと、したいと思わない?」




咲くんがカッコよすぎて、琥珀の胸が撃ち抜かれた音がしました。


琥珀は首を傾げた咲くんの微笑みに胸打たれて、瀕死状態になりました。


か、かわ、かわわ……!!!!




ずるい、咲くんずるいよ、そんなこと言って琥珀のことだだ甘やかしちゃうんだ。




「し、したい……」


「だよね」




ま、負けました。


琥珀、咲くんのきらきらに負けました。






どうしたら咲くんに勝てるのか。


いや、この人に勝つなんてたぶん無理だ、人の心がどう動くのか、よぉーーーく知ってる人なんだもの。


え、これも計算?計算なの?


琥珀の胸を打っちゃう計算?


いや、でも幸せそうな顔している咲くんを見てれば、そんなことどうでもよくなってくる。




琥珀はベンチでチョコ味のチュロスをもぐもぐしながらそう考える。


んむ……おいしい!!!


ほっぺとろけちゃいそう、うまうま。




そして隣でキャラメルのチュロスを食べている、か、彼氏……さん!!


そう!!琥珀の彼氏さん!!!


甘い甘い咲くんが甘い甘いチュロスを食べている……!!!




ちらっと咲くんに目を向けると、琥珀に目を向けていた咲くんが目を細めて見つめ返していた。


うっ……何回琥珀を瀕死にさせれば気が済むんだろう……!!




「ふふ、おいしい?」


「お、おいしい……」




なんて、なんて幸せ空間なんでしょう。


琥珀が半分食べたところで、咲くんがキャラメル味を差し出してくれる。




「はい、交換こ」


「あ、ありがと」




咲くんの言い方も、こう、琥珀の心をギュンてしてくるの。


かわいい、かわいいの。


だめだ、琥珀がめろめろしてどうするんだ、本来琥珀が咲くんのことめろめろにしなくちゃいけないのに。


優しいかんじがこう、琥珀のどストライクなの。


かっこいいとかわいいを兼ね備えてる琥珀の彼氏さん、どうしよう、完璧すぎて琥珀困っちゃう。




「そういえば」




チュロスから口を離した咲くんが、少し言いにくそうに口を開いて言う。




「実は、琥珀ちゃんに……言わなきゃいけないことがあって」


「え?」




チュロスがもう少しで終わりそう……となったそんな頃。


咲くんは琥珀に、そう話した。




「な、なに?」




どきどき、どきどきしてしまう。


嫌なお知らせではないだろうか?


言わなきゃいけないこと、なんて。


小さな不安が、琥珀の中で湧いてしまう。




琥珀は真剣な瞳で咲くんを見ると、地面を見つめている咲くんが、話しにくそうに口を開いた。




「漫画、のことで」


「漫画?」


「俺、話を担当しているでしょう?それで……」




咲くんは漫画のお話を担当している。


それをいおくんが漫画にして、私たちが原稿に手を加えるお手伝いをする、そういう流れで。




そう、咲くんはその漫画原稿の、いっちばん初めに手を付ける人なのだ。




「琥珀ちゃんのこと、本当に好きなんだ。好きだからこそ、になってしまうんだけど」


「え、はわっはわわっ」




つい好きに反応してしまう琥珀は、あわあわとどきどきの中で咲くんのお話に耳を傾ける。


な、なんの話!?


これなんの話なの……!?


と、ちょっぴり混乱していると、少し間を置いてから咲くんは話してくれた。




「お話作りの、ネタに使うことがあるかもしれない」


「……………………ほぇ?」




なん……ねた?


琥珀、ネタに……?


どういうこと……?


琥珀はまた少し混乱する。




「いや、嫌だったらそういうの避けるようにする、でも……俺が本気で好きになったり、本気で落としたくなったりしたの、琥珀ちゃんが初めてで」


「ぐふっ」


「確かに基本描いてるのは少年漫画なんだけど、恋愛シーンも……描くことがあって」


「……」


「その参考に……琥珀ちゃんとの思い出を……入れることがあるかも、しれない」




琥珀との思い出が……咲くんたちの漫画になる……?




「嫌だったら……」


「嫌じゃ、ないよ」




気付いたら琥珀は、考えるまでもなく即答していた。




「え?」


「だ、だってそれだけ、咲くんの心を琥珀が動かしてるってことでしょう……?」




どきどき、どきどきする。


なんというか、わくわくに近いかもしれない。


これは……期待だ。




だってそれって、咲くんの作品作りの一環に、琥珀も入っていくような気がして。


それってすごく、素敵だって、琥珀は思うの。




だって一度作られて発表された作品は、無かったことにはならないでしょう?


それって、琥珀、ずっとずっと咲くんの一部になれるような気がして……。




「いいよ。琥珀と咲くんの思い出、残して」


「いいの……?」


「琥珀だって咲くんの絵、部屋に飾ってるんだよ。もう作品にしちゃってるんだもん。琥珀も、咲くんの作品に入れて」




桜をメインとした、琥珀の描いたあの絵だけれど、咲くんの儚さがなければ、あんなに美しい作品にはなり得なかった。


創作者にとって、そういう感覚って、命のようなものなの。


自分の一部なの。


それを、使いたい……と言われることは、それだけ大事にされているということでもある……琥珀はそう思うから。


大事なものを残したい気持ち、琥珀にもわかるから。




「琥珀も、咲くんの一部にして」




琥珀は咲くんの手を取って、その目を見つめて、そうにこりと言い返した。

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