47.幸せそうだから?



お店はクリスマスムード一色だった。


大きなツリーは夕焼け空をバックにキラキラとイルミネーションを輝かせていて、周りに子供たちが集まっていた。




ショッピングモール!到着っ!!!




「すごいわね、モール全体がクリスマスだわ」




みっちょんも一階から二階を見上げて、クリスマスムードのモール内を見渡す。


琥珀はその一角に見えた看板を見上げて、みっちょんの腕を引っ張って言った。




「ねぇねぇみっちょん!!クリスマスフェアだって!!」




そこには、小さなクリスマスツリーや、棚にはポストカードやスノードーム、リースやおもちゃが飾られていた。


琥珀も目を煌めかせてクリスマスムードを堪能している。


緑と赤でいっぱいなのよ!


テンション上がっちゃうね!!




「キミたち、何買うか決めてあんの?」




リンくんがそう琥珀たちに聞くけれど、琥珀もみっちょんも首を横に振った。


これから決めるのよ!!




「……マジか。女の買い物って時間かかるんじゃ……」


「リンくんめんどくさそう」


「護衛がんばりなさいよね」


「…………はぁ」




お買い物、スタートです!!




とはいえ琥珀はそのクリスマスフェアのコーナーが気になっている。


あ、手袋もかわいいな。


絶対咲くんに似合う……。




でも琥珀、このスノードームも可愛いなって思っているの。


小さなドームの中には小さなクリスマスツリーとサンタさんがいて、雪がきらきらと舞うの。


んんん!!可愛いっ!!!


琥珀一目惚れしてしまった!!!




それに、咲くんと雪……絶対似合う。


というか、どんな景色を背景にしても、咲くんには合うのだと思う。


あの日の、散り際の桜を背景にした咲くんの柔らかい表情が浮かぶ。




色んな景色と咲くんを見たい……。




いや、色んな景色を、咲くんとみたい。


琥珀をその目に映して。


その姿を、琥珀の目に映したい。




「琥珀決めたよ!」


「はやっ」


「みっちょんは?」




と、辺りを見渡していると、みっちょんは絵本か飾られている棚のところで立ち止まっていた。




「……みっちょん?」


「子供の頃、アイツと……こんなような絵本見ながら、ぎゃあぎゃあ騒いでたなぁって……ちょっと思い出しただけよ」




そう言ってちょっと笑ったみっちょんは、「さぁて、私もプレゼント探すか」と、辺りを見回した。




「絵本か……まって、いおくんて絵本読むの?」


「あぁ、今のアイツからは想像つかなそうね。でもまぁ、私の部屋押しかけてきて読むくらいには好きだったと思うわ」




押しかけてたのか!!


すごいな、幼なじみって。


そうだよね、子供の頃の行動力ってすごいものがあるよね。




「まぁアイツ漫画描いてるし、おかしい話でもないでしょ。ちょっと絵本の方がファンシーなだけで」


「みっちょんの部屋にある本っていうと、本当にファンシーなのでは?」


「そうね。琥珀みたいな、ふわふわしたものが好きだもの。あら、いおと正反対ね」




正反対……改めて、よく二人付き合えたな……って思えてしまった。


というか、いおくんが頑張ったんだろうな……。


二人、末永く幸せにと、琥珀は願っています。




文房具を見たり、時計を見たり、雑貨屋さんを覗いたり……みっちょんのプレゼント選びには時間がかかった。


琥珀は一目惚れしたスノードームを包んでもらい、るんるんと、みっちょんのお買い物に付き合う。


ふとリンくんを見ると、げっそりとしていた。


おつかれさまです。


付いてきてくれてありがとうね。




「よしっ」




そうみっちょんが頷いたのは、お洋服屋さん。


深緑と黄色のマフラーを持ち上げて、手触りを確認している。




「マフラーにするの?」


「琥珀、これどう思う?アイツに似合うかしら?」




オレンジ頭というところで、いおくんファッションに合わせるのはなかなか難しい……けれど。




「いいんじゃないかな!?」


「これならまぁ変でもないし、色も合うでしょう」


「いいねぇいいねぇ!!」




みっちょんのお会計の頃、お外はすっかり暗くなっていました。


リンくんは、「女の買い物怖ぇ……」などと、ブツブツ呟いていました。


琥珀たち怖いことはなにもしてないよ!?




帰り道、すっかり暗くなったお外を三人並んで歩く。


今日は月に雲がうっすらかかっていて、綺麗だなぁ。




「リンくんたちもみんなでお買い物に来たりすることあるの?」


「未夜に必要なもんとか、黒曜の飯とか、あと画材だな。買いに行く」


「へぇ!!画材みんなで買いに行くの!?」


「コワモテの男が何人も店に行ったら迷惑だろ。2,3人で行く」


「なるほど」




たしかに、いおくんみたいなお客さんが何人もいたら、お客さん怯えちゃいそうだなぁ。


黒曜のみんなって、その辺のこともちゃんと考えて動いてくれるよね。




「ふふ……黒曜ってみんな優しくて暖かいね」


「たまに言うこと聞けねぇバカも入ってくるけど、咲がすぐ丸め込むから」


「咲くんの得意技だ、ふふっ」




帰りは黒曜に向かって、今日もペンテクやトーン処理の指導を受ける琥珀ちゃんなのです。


みっちょんは黒曜でおやつやご飯を作ってくれる担当になっていて、琥珀はみっちょんの手料理が食べられるのが幸せなのです!




歩いて黒曜に向かっていると、黒曜の前に誰か二人、立っている影が見えた。




「ねぇ琥珀、あれ……」


「…………いおくん?と、咲くん!?」




どうやら二人が黒曜の前で待ってくれていたみたい!!


琥珀はたたたっと駆け出す。


咲くんだ!


待っててくれたのかな、ちょっとお外は寒くはないのかな。


琥珀を見つけて、ふわりと笑う咲くんにまた、琥珀の胸は高鳴って。




「咲くんっ!!」


「琥珀ちゃん、おかえ──」




その時、走っていた自分の足に自分の足が引っかかって盛大に転けそうになった私。


わっ、やっちゃった!!!!


けれど、それを咲くんが走り寄って受け止めてくれて、二人しゃがみこむ。


あ、あぶなかった……心臓がどっくどっくしている。


転んじゃうかと思ったのに……咲くんが、助けてくれた。




「あ、ありがとう咲くん」


「うん、おかえり。琥珀ちゃん」




そうやって咲くんはまた優しい笑みを向けてくれるから、琥珀もへへっと照れ笑いをする。




「へへっ、ただいま咲くん」




後ろからゆっくりと追い付いたリンくんとみっちょん。


「あらまぁ」なんて、くすくす笑っているみっちょん。


「あぶなっかし」と、呆れた表情のリンくん。




そして、さりげなくみっちょんの隣に行って腰を手で寄せるいおくんが、みっちょんの頭に顎をスリスリと擦り寄せていた。


ナチュラルにイチャついている。




「あぁもう琥珀ったら、はしゃいじゃって」


「え!?だって……っていうか今真冬だよ!?二人ともいつから黒曜の外で待っててくれたの……?」


「あー……護衛が、もうすぐ着きそうだっつってたから、出てきた」


「護衛……?」




琥珀はリンくんの方を見る。


みっちょんもリンくんの方を見る




「俺は買い終わった報告しかしてない」


「……もしかして他にも護衛さん付いてきてたの?」




私が咲くんを見上げると、少し頭を傾けて、「そうだね」と、いい笑顔で答えた。


一体私たちが出かけるのに何人動いたんだ……!!


全然気付かなかった!!




「念の為に紛れててもらったんだよ。まぁその護衛も楽しそうに買い物して帰ってきたから、いいんじゃないかな」




護衛さんも満喫していたのね……!!


それならよかったわ!!




「さて、そろそろ黒曜に入ろう。寒かったでしょう?」




そう言って繋いだ咲くんのおてても、ヒンヤリとしていた。


琥珀のおてても冷たくて、お互い冷えていたから、温まるようにギュッと手に力をこめた。


そうだよね、この外の寒さじゃすぐ冷えちゃうよね。




「みんなで温まらないとだね」


「作業部屋床暖にしてぇなぁ」


「入ったらまずは暖かいスープでもいれましょうか」




咲くんの後ろからゆっくり歩いてきたのはいおくんとみっちょん。


床暖!?いいね!!


倉庫寒いもんね!!



「作業してるとマジ脚が凍りそうなくらい寒くなるんだわ」


「それは夜中まで作業してるいおりも悪いんじゃない?」


「いおくんちゃんと寝ないとだめだよっ!!?」


「うぉ、飛び火してきたじゃねぇか!」




琥珀の横から、にゅっと出てきたみっちょんが、いおくんを見上げる。




「寝ないんなら私がその頭寝かせてあげようか?」


「寝技かけられそうですげぇ怖ぇわ。遠慮しとく」




みっちょんの寝技は強そうだなぁ。




「寒いから立とうか」




咲くんが先に立ち上がって琥珀に手を差し出してくれる。


その手を握って、琥珀も起こしてもらった。


本当に咲くんは、王子様みたいなことをさらっとやってのけてしまうので、琥珀はその度に照れ照れしてしまう。




ふと振り返ると、私たちに馴染もうとせず、ぽつんと後ろにいるリンくん。


なにやらぼーっと、私たちをみていた。


なんとも言えなそうな無表情に、琥珀はおいでおいでをした。




「いーから。その中に入っていける神経ないから」


「幸せそうだから?」


「ウザいんだけど」




そう言って彼はひとり、黒曜に入っていこうとする。




「雨林、護衛ありがとうね」




咲くんがそうリンくんに話しかけたところで、リンくんは足を止めて振り返った。




「いや、たいしたことしてないから。少し疲れた」


「雨林疲れたのか?ミツハなんかした?」


「私!?いや、買い物付き合ってくれて普通に疲れたんじゃないの?」


「いや……幸せオーラに当てられすぎたんで」




そう言って雨林さんは先に黒曜の中へと入っていった。


琥珀たち、幸せオーラ出しすぎちゃったかな……?


プレゼント選びの時から、琥珀るんるんとしちゃってたけど……そういうの、リンくんにはキツいことだったんだろうか。


そんなことを考えていると、咲くんが頭をぽんと撫でてくれる。




「大丈夫だよ、雨林は。少し休んだら良くなる」


「琥珀たち、邪魔になっちゃってたかな……?」




いおくんがリンくんの後ろ姿をみながら、目を伏せる。




「いや、ありゃなんてーか、自分の中のもんと戦ってんだろ。雨林の話聞いたか?」


「ちょっと聞いた」


「幸せってもんが当たり前にあるもんだと、アイツは体に覚え込ませねぇといけねぇ。過去受けた悪い印象を、書き換えてる最中なんだよ」


「うん」


「俺らが今感じてる幸せってのが、雨林にとっては重すぎて感じるだけだ。時間をかけて飲み込めりゃ、必要な一歩が進めるだろうよ」




じゃあ、あとはリンくんの問題なのか……。


琥珀はリンくんを思い出す。


リンくんはあまり表情を変えず、淡々としている。


けれど心の中ではきっと、頑張っている人なのだろうなぁと。


それを支えてるのが、咲くんやいおくんなんだろうなぁと。




琥珀は咲くんのまだ冷たい手をぎゅっと握る。




「琥珀も事情を知ったから、ちょっとずつ幸せを教えていきたいのよ」


「琥珀ちゃんも手伝ってくれるの?」


「うん。お茶がおいしいと幸せだったり、絵を描いてる時に楽しかったり、好きなものを大事にすることが小さな幸せになるんだよって、琥珀教えたい」




リンくんは琥珀に、アシスタントに必要な技術を沢山教えてくれて、教えてくれている途中でもある。


まだまだ学ぶことがたくさんだ。


だから琥珀は、幸せの感じ方を教えていきたい。


琥珀、これでも結構、幸せを探すの得意なんだよっ!!




リンくんもいいことで満たされて、それをそのまま受け入れられるようになるといいなぁ。

















「クリスマス、でぇと……?」


「うん、クリスマスイブ、あいてる?」




なんと。


なんとなんとなんと……!!!


咲くんからクリスマスのお誘いが……ありました。




「あ、あいてる……!!」


「よかった。それで、実は夜まで一緒に居たいんだけど……大丈夫かな?」


「……………夜、まで……!?」




どくんどくん、琥珀の心臓が暴れだし、顔が熱くなってくる。


なぜだかわからないけれど。


夜!?よ、夜って……。




「イルミネーション、一緒に見に行きたいなぁって」




そう付け加えられて、琥珀はハッとした。


そ、そっか!!


確かにイルミネーションは夜にしか見られないね!!




琥珀ったら何考えてんだろ……いや、夜二人でって思ったらなんか、なんか大人な感じに思えてきて、恥ずかしくなっちゃって……。


け、決して、やましいことを考えてたわけじゃないんだからねっ!!


いや、ちょっとは……ちょっとはそういう雰囲気で……ちぅ……とか…………なんて!!


なんて妄想が一瞬浮かんでしまったけれど!!




だめだめ、琥珀、心を落ち着けるのです。




「どうかな?」


「い、行きたい!!」


「ふふ、よかった」




ということで琥珀、咲くんと夜のデートの予定ができちゃいました……!!!

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