26.どこにいるんだろう?
正座をしたカラフルな髪の子達、総勢20名ほど。
お揃いでマスクにサングラスをしている不審者さんたち……もとい、黒曜のメンバーズらしい。
私はまだみんなのお顔と名前を覚えきれていないけれど、みっちょんと未夜くん二人にはわかるらしい。
不良さんたち、みんなガラ悪いからかなぁ?
そしてよくよく見ればなぜか、そのマスクには可愛らしいキャラクターがみんなプリントされており……可愛さと不審者が合わさってとてもミスマッチである。
パーカーの帽子を被ってる子までもいて、本当に見た目がみんな不審者さんなんだけど、マスクには可愛らしいキャラのプリントが。
「なんでサン〇オ縛りなの」
「いや、それは赤ちんが……」
「おいやめろ、アイツのせいにするんじゃねぇ。アイツこの日のためにワクワクしながらサン〇オショップまでに買いに……」
「黙れ!アイツがノープランな俺らにわざわざ用意してくれた変装グッズだぞ……。こんなでも大事な形見なんだ……」
死んでないよね????
その赤ちんのマスクは無地だった気がするけど……。
みんなには可愛らしいマスクを配っていたらしい。
ふと思い出すのは、先程落し物を拾ってくれた時の赤ちんの姿。
そういえば彼は今、どこにいるんだろう?
姿が見当たらない。
正座をする黒曜一同に、みんなの前で琥珀もしゃがみ込んでお話を聞いている。
みっちょんは立ったまま無表情で、黒曜メンバーズの姿にスマホのレンズを向けていた。
この光景も撮っちゃうのか、さすがだみっちょん。
怖いもの知らずだ。
そんなみっちょんは、撮った写真を見ながら「いおに送っとこ」とまで呟き──あれ?
「みっちょん、いおくんの連絡先知ってるの?」
「は?」
はた、と、その事に気付いてしまった。
みっちょんも遅れて、「あぁ」と頷く。
「既読も付かないから一方通行だけどね」
「え」
「電話も繋がらないし、電源切ってるんじゃない?」
そう言いながらスマホの画面を触ってシュポシュポシュポッと音の連打音が聴こえてくるのは、恐らくスタンプを連打しているんだろう。
電源を入れたらすごい通知数が届いてそうだなぁ、いおくん。
そういえば琥珀は黒曜では咲くんの連絡先しか知らない。
みんなとは黒曜行けば会えちゃうからなぁ。
「赤だか青だか知らないけど誰か一人くらい、いおの居場所知らないの?」
両腕を組んで黒曜メンバーズを見下ろすみっちょん様。
ここにはみっちょん反対派がいないのか、みんな大人しくみっちょんにいい子で顔を向けて話を聞いてくれている。
子犬のような、眉を下げた表情をして……。
「…………アンタたちほんとはなんか知ってんでしょ?」
「ギクゥ!!!」
「おいバカっ!!」
「口開くんじゃねぇ!!」
ギクッて言った!!
今ギクッて!!口で言った!!!!
その時、トイレまでいおくんを確認に行っていた未夜くんも戻ってくると、琥珀と目を合わせてから首を振る。
「誰もいなかった」
「何考えてんのあのバカは」
焦りを見せるみっちょんは、なんだかとてもイラついているようで。
「あいつクソほど方向音痴の癖に」
「みっちょん、心配なんだね……」
「そんなんじゃないってば。……ったく、もう」
未夜くんが隣に座って、琥珀の肩をトントンと叩く。
琥珀は、どうしたもんかという顔のまま未夜くんを見上げると、彼は首を傾げて琥珀の顔を覗き込んだ。
未夜くんは時々、距離感が近くなる時がある。
最近、それに少し慣れてきているような気がする。
「いおり、探す?」
「……さ、探してる」
「コイツら知ってそうなの?」
「そう、みたい?たぶん」
わからない、けど。
ギクゥ!って口で言ってたから、たぶん、知ってるのかなぁ……?
こくりとひとつ頷いた未夜くんは、地面に正座をしている黒曜メンバーズを見渡して、口を開く。
「いおりが黙ってろって言ったの?」
ビクゥ!!!っと黒曜メンバーズはみんな肩を跳ね上がらせた。
今ので結構核心を突いた質問と反応が返ってきた気がする。
この人たちみんな素直で可愛い子なんじゃないだろうか?
嘘付けない子かな?
琥珀にもわかりやすいなんて、よっぽど態度に出ちゃっているけど大丈夫……?
「いおくんが、黙ってろって……みんなにお願いしたってこと?」
「いや、命令でしょそこは」
「喧嘩は起きていないみたいだし、でも俺たちから離れた理由がありそう」
未夜くんはメンバーズを見渡してから、また口を開く。
「他に誰か、ここに来てる?」
またビクビクッと肩を跳ね上がらせてしまう不良さんたち。
彼らは互いの口をマスクの上から塞いだり自分の口を塞いだり顔を伏せたりしているのに、未夜くんの言葉に素直に反応してしまっている。
誰一人何かを話そうとはしていないのに、確実に尋問していく未夜くん。
「……そもそもこの人数動かしてる人がいるよね」
そう言った未夜くんに、メンバーズは目に見えて焦りを見せる。
図星?図星なのか?
そして、トドメと言わんばかりに。
「……これは、咲が来てるんじゃないの?」
「いやいやそんなことありません!!」
「咲さんは関係ないっす!!」
「俺らただ花を愛でに!!集合かけっ……はっ!!!」
「もうお前ら黙れよっ!!」
急に口数が増えた。
集合かけ、は……?とは?なんだろう。
「琥珀、咲来てるかもしれない」
「……どうやら、そうみたいなのね……?」
なぜ、ここに咲くんが……???
黒曜のメンバーズはしきりに首を振ってアピールしているけれど、それは肯定にしか見えないよ……。
体が素直すぎるんだよ……。
そしてみんな、一言も喋らないように頑張っていたのに、未夜くんの誘導がうますぎた。
「そもそも、黒曜動かして口封じさせられる権利ある人なんて三人だけ。いおりと、咲と、琥珀」
「ふぇ!?琥珀も!?」
「そう、咲がその枠つくったから。琥珀も命令すればコイツら動いてくれるんじゃない?ここにいるのみんな、女神さん信仰派だし」
「なにそれ!!?」
女神さん信仰派……?ってなに?
初めて聞いた名称に戸惑う琥珀、メンバーズもワタワタと琥珀に弁解するように説明し始める。
「あ、いや、信仰派は青ちんが言い始めたもんでしてっ」
「え、俺!?いや、そうっすけど!!決して女神さんに害するような連中ではないっていう結束力をですね、」
「も、もちろん!咲さんとの関係にヒビ入れる気なんてのもねぇんです!!見守り部隊みてぇなもんで!!」
どうやら青ちん発祥らしい。
そもそも女神さんて最初に呼び始めたのも青ちんだったもんね……。
「え、じゃあ琥珀がお願いしたらみんな、助けてくれるの……?」
琥珀が不安げな顔でみんなを見渡すと、みんなからも不安げな顔が返ってきた。
────出来ることならお願いしないで欲しいって、みんなの顔に書いてあったので。
「咲くんのところに連れて行ってくださいっ!!」
「女神さんっ!!???」
ふんす!という得意げな顔で、琥珀はみんなにお願いした。
堂々と空気をぶち壊していく琥珀ちゃんであるっ!!
いおくんの場所は教えられないけど、いおくんは咲くんを探しに?行ってるんでしょう?
じゃあ咲くんの所に行けば、いおくんにも会えるはずだっ……!!(短絡的)
ぽかん、としたメンバーズの顔が見られて、ちょっと琥珀はテンションが上がってきた。
むふふ、いたずらしちゃった気分。
でもちゃんとみんなで来たんだし、いおくんも方向音痴だっていうのも心配だし。
なにより、みっちょんがそわそわしているから、早く見つけてあげたい。
「それなら……まぁ……」
「止められてはいないっすね……」
今の言葉で、咲くんがここまで来ていてみんなにお願いしてたのを認めたことに、気付いているのかなぁ?
もう隠さなくていいって判断になったのかな?
「そもそも、みんなはなんてお願いされて来たの?その、咲くんに」
咲くんがお願いしていたってことでいいんだよね?
誰も否定しないし……。
なぜなんだろう?咲くん。
一緒におデート来たかったのかな?
「俺らはただ、女神さんたちが出かけるから、また攫われないように見守れって言われてただけっすよ」
「また?って、あの体育館の時のことよね?」
「ついでに女神さんの友達のことも見とけって」
「ついでかよ私」
「……咲くん、あの時のことがあって琥珀の心配していてくれてたのかな?」
「……そうかもね」
琥珀も立ち上がってみっちょんと顔を合わせる。
咲くんはいつもそうだ。
琥珀の知らないところで、琥珀のことを守ってくれていて、それを黙っていて、他のみんなからお話を聞くんだ。
「……琥珀、いおの居場所の見当ついたし、アンタたちはデートに来たんだから二人で回ってきてもいいのよ?」
「え、でもみっちょん、みんなで来たんだからみんなで回りたいなぁって……琥珀は思うけど……」
そう、今日の目的はおデート。
「みゃーはどうなの?琥珀と回りたいでしょう?」
未夜くんに向いたみっちょんは、そう尋ねる。
そうだね、未夜くんはどうしたいんだろう?
元々私を誘ってくれたのは未夜くんだ。
「…………二人、だと、まだ困る」
「……え?」
「緊張するから」
そう言った未夜くんの顔は、いつも通りに見えるのに。
口の端がキュッと、結ばれていた。
緊張って?
「マジか」
唖然としたみっちょんの呟きに、琥珀は未夜くんの緊張の理由がちょっとわからなくて。
「大丈夫だよ未夜くん、琥珀は怖いことしないからね?」
「そういうことじゃないわね」
未夜くんを励まそうとするも、どうやら何か違っていたらしい。むむ。
じゃあどういうことなのっ!?
なんで琥珀は緊張されちゃうの!?
するりと頭を優しく撫でてくれる未夜くんは、琥珀に向けていた視線を外してメンバーズを眺めると。
「琥珀のかわいいお願い、聞いてくれる?」
『咲くんのところに連れて行ってくださいっ!!』
その琥珀のお願いを、未夜くんは優先してくれた。
やっぱり、未夜くんはいい人だなぁ。
それから居場所を知っているらしい青ちんが、琥珀たちを咲くんといおくん……さらにいおくんを案内しているらしい赤ちんの所まで連れていってくれることになった。
そして
「やぁ、琥珀。デートは楽しい?」
案内係の青ちんと、未夜くんとみっちょんが話しているの後ろで。
「…………さっ!!……むぐ」
王子が女神をサラリと攫って、木の影に隠れたのでした。
ど、どういう状況!!??
「おーミツハ。よく俺んとこまで辿り着いたな」
「なんでそんな呑気にソシャゲしてんのよ。ここまでは琥珀が――あれ?琥珀は?」
遠くから聞こえる声で、みっちょんたちがいおくんと合流したのだとわかる。
けれど、琥珀だけが、なんか、なぜか、どうしてなのか。
「駄目だよ琥珀ちゃん、みんなの死角にいちゃ。こんな風にまた攫われちゃうよ?」
逆光で紫の透ける黒髪が、さらりと揺れる。
いつの間にやら斜め上から見下ろす彼に背中を預けて、手で口を覆われ、見下ろされていた。
咲、くん!!???
ドクドクドク、と、びっくりしたからかその顔が近いからなのかわからない鼓動が、大きく琥珀の中を揺らす。
「いけないよねぇ。解ってていおりも煽ってくるんだもん」
「……」
「未夜は今、琥珀に一番近そうだから、心配になっちゃうのも仕方ないよね」
口から離されたその手が、頬を覆う。
きゅっと顔をあげられてしまえば、その美しいご尊顔と真っ向から見つめ合う体勢になり、顔が熱くなってきた。
「な、な、な、」
「今日の琥珀はいつもよりかわいいね。いつもかわいいけど」
それは、みっちょんがいろいろ考えて琥珀に合うふぁっしょんを選んでくれたからだ。
まさか咲くんに見られるなんて一ミリも考えておらず、思考がショートする。
琥珀の話す隙間もないくらいに、なんだかすごく咲くんが褒めちぎってくる。
それも、超至近距離で。
おでこがくっついちゃいそうだ。
顔が、顔が熱い……!!!
スっと一瞬目元が細まったと思った次の瞬間には顔を離して、申し訳なさそうな顔している咲くんの顔が見えた。
「……あ、ごめん。気付くとすぐ一つのことに集中しちゃって。琥珀を目に焼き付けることで頭がいっぱいになってたよ」
なんだか、咲くんがおかしいぞ。
あれ、いつもこんなにストレートだったっけ?あれれ???
向き合って、持ち上げられている頬とは反対側の頬にすり寄られてしまえば、もう天に召されそうになる琥珀。
なんか、撫でられている猫の気持ちだ……。
頭の処理が追い付いてないよっ!!!!
どこから突っ込んでいけばいいのかわからないよっ!!!
「な、なんで咲くんがこんな所に……いや、それよりみんながっ」
「いおりに少しだけお願いしたの。二人にしてって」
「……二人に?て?」
「本当はこのまま、抜け出しちゃいたい所だけどね」
咲くんは琥珀の片手をとって、両手で握りしめる。
咲くんに包まれた片手は少し熱くて。
琥珀はちょっぴり、ぐらつくような感覚を起こした。
な、なんだこの……今日の咲くんの王子様っぽさは。
いつもよりなんか、キラキラしているように見える。
「琥珀ちゃん、今日は楽しい?」
小首を傾げて、伺うように、咲くんが聞いてくる。
「え……う、うん!楽しいよ!」
「そう、それは良かったよ」
「……あ、あと、それとね」
手を握られたままだと、なんだか照れくさくなってしまう、けれど。
琥珀は咲くんに、言いたいことがあったの。
「いつも琥珀のこと守ってくれて、ありがとう」
面と向かってそう、咲くんにお礼を言うと。
彼は何故か、静かに空を見上げた。
ふぅ、と大きくため息を吐くと、しばらくお空を見ていた。
初めて間近で見たかもしれない咲くんの喉仏が、一瞬上下する。
琥珀からは顔が見えなかったけれど、握られた指先がキュッと一瞬固くなっていて、もしかしたら咲くんも照れているのかな?と思った。
■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□
前回の更新から2ヶ月近く経っていました。
お久しぶりです!!
ガチ鬱期からちょっぴり回復してきているところです!!
こっから連日40℃近くまで気温上がるとかやばくない?
6月ってこんなだっけ??って、気分はもう8月になっているところです。
咲くん、ちょっと動きました。
もうちょい頑張ってくれてもいいんだぞ
⇓ついった⇓
@rim_creator
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