17.女神さんで広まってんの?
階段を上った二階の入口、そこは広めの空間になっていて、倉庫の一階の端から端まで見渡せる程には高い位置にある。
「オラ注目しろ野郎共!!!!!」
肌を撫でる空気の冷たさは本当に寒いのか、はたまた倉庫の下の人たちからの視線を浴びて背筋を凍らせているからか。
あんなにも騒がしかった倉庫内が、このいおりさんと咲くんが二階へと上がった時を境に静まり帰っていた。ひぇっ。
いおりさんに呼び出されるがままに、みっちょんと共にこの二階のこのスペースへと足を運んだものの、本当にここに私たちがいていいのか?疑問である。
ちょっとした壇上とかじゃなく、一階分高い位置で注目を浴びているもんだから、これはもう逃げようがない。
あうぇーだっ!!!!
顔面も雰囲気も怖い人たちが長机の上のご馳走を囲んで、全員こっちを見ている!!!ひぇっ!!!
所々パーティーグッズを身に付けている所がちょっと可愛い……!!!
「琥珀、私たちはもう穏やかな学校生活は送れないかもしれないわ」
「みっちょん……!?」
諦めたように下々ーズを端から端まで見渡して、「巻き込まれ事故……」なんて呟くみっちょん。
ご、ごめん、そうだよね。
みっちょんは琥珀と一緒にいただけなんだもんね……。
「ごめんねみっちょん、でも琥珀は一人じゃ怖いからみっちょんがいないと生きていけないよっ!!」
「呼吸するように口説いてくるわね……まぁもう、とっくに腹決まってるからいいのよ。一緒に堕ちましょう」
「みっちょん……!!!!」
目が死んだ魚になっているみっちょんに思わずギュッと抱き着くと、下々ーズがざわめき立った。
「女?」「百合?」「誰の?」など言葉が微かに聞こえてくるけれど、百合ちゃんではないぞ。
琥珀ちゃんとみっちょんだ。
女の子同士は何かとイチャイチャするものなのだっ!!
むふ!!羨ましかろう!!!
そしてみっちょんに相手にされない琥珀ちゃん定期。
「えぇと、仲良いのはわかったんだけど……いいかな?」
「テメェら公開百合百合してんじゃねぇよ、滾るだろうが」
「黙らないと潰すわよ変態」
素直に黙るいおりさんに、口端をヒクッとひくつかせて苦笑いをこぼす咲くん。
そしてその光景を見て黙る下々ーズが、顔を青ざめさせて顔を背けている。
いおりさんは股間を手でガードするように守り、みっちょんから一歩下がって逃げ腰だ。
潰すって……まさかぁ、みっちょんに限ってそんな所…………まっさかぁ!!
みっちょんの言葉を信じていない所で、一階から声がかけられた。
「何すかその女は!!」
そんな気まずい空間の中でも、反対意見があるのか、発言する人たちがちらほらと見える。
反対派……改め、勇者たちと呼ぼう!
「そうっすよ!俺ら女神さん一人のことしか聞いてねぇよ!!」
「赤ちんも青ちんも、女神さんは窮地を救ってくれた女神さんだって言ってた!!いおりさんもじゃないんすか!!咲さんと……あの未夜さんまで懐いたって……!!」
「なんなんすか、そのぽっと出の生意気な女は!!!」
ひえぇっ……なんかみっちょんの第一印象が激しく悪く思われちゃってる……!!!
それにしても窮地を救ったなんてのは、ちょっと大げさすぎるのではないでしょうかっ……!!
どんな説明をされていたんだ!!
まさかもう女神さんで広まってんの私っ!!?
そのみっちょんはみっちょんで腰に手を当ててふんぞり返っている。
みっちょん、ここが黒曜だとわかっていてこの態度を貫き通すつもりなのか……!!痺れるぜっ!!!
でも怖いよぉぉぉ!!!
「駄犬の遠吠えはみっともないわよ」
そして火に油を注いでいくぅ!!!!
首をふりふりしてみっちょんの腕を両腕で精一杯引っ張るも、琥珀のごぼうのように細い腕じゃビクともしない!!
咲くんに助けを求める瞳を向けるも、ニコリと返されてしまう。
なぜなの咲くん!!!
みっちょんのピンチじゃないの!!!??
「聞いてる限りじゃ、琥珀はもうここのメンツに覚えられてるし受け入れられているって認識でいいかしら?ていうか女神って何」
くるり、振り向くみっちょんが片眉を寄せて私に尋ねて来る。
それを本人(私)に聞いちゃう所がまさにみっちょんだね。
「なんか……琥珀は女神に見えたらしい……」
「なんて雑な説明」
はぁ、とため息を吐くけれどみっちょん、琥珀も琥珀が女神に見えたというのは信じがたいことなんだよ。
だってこの琥珀ちゃんだからね!?
女神なんておしとやかなもんに見えますか!!!!
(自分で思っておいてちょっとショボンとする琥珀)
「女神さんに盾突いてんじゃねぇぞ女!!!」
「いおりさんもどうしてその女黙らせないんすか!!!」
「まさかさっきの脅しが効いて黙ってるんじゃ……」
「そ、そんなはずねぇ!!あの咲さんにすら従う気のないいおりさんだぞ!?」
「けど咲さんまで黙って笑って……」
「怖い怖い怖い」
「え、なにあの女、怖い」
「俺らの頭が黙って言うことを聞くほどの女……?」
「え、怖い怖い怖い怖い」
「……突っかかって来たくせに急に怖がるなんて情緒不安定なんじゃないの?」
ちょっと黙っていたうちに、勇者たちの雲行きが怪しくなっていき。
いつの間にやら下のメンツみんな揃って顔を青ざめさせていた。どうしてこうなった。
その時、ようやく咲くんがパァン!と手を叩いて注目を集める。
このいたたまれない空気の中でどうしようかと悩み始めていた琥珀ちゃんには救いの手である。
話を進める気に!!なってくれたのだろうか!!!
「各々意見はあるだろうけど。今日は琥珀ちゃんと未夜の歓迎会兼打ち上げだし、この蜜巴ちゃんは琥珀ちゃんの……ナイトってところかな?」
「琥珀の友達なのはもちろんだけど、まぁ大体間違いないわ」
「はぅ!ないとっ!!!?」
なんてかっこいい響きだろうか!!
みっちょんナイトさん!!!
「アンタたち、琥珀の怖がるようなことしたら絞めるから」
「マジでコイツ絞めるっつったら絞めるし、潰すっつったら潰すし。幼なじみのヨシミで俺もコイツ敵に回すようなことしねぇから。覚えとけ?」
みっちょんを指しながら、いおりさんまでがそう彼らに釘を打ってくれていた。
この二人が味方になってくれるなんて……なんて心強いことなんだろうか!!(物理的に)
震え上がる下々ーズとは対照的に、琥珀ちゃんの目は煌めきに満ち満ちていた。
「こ、これからお世話になりますっ!!お話することがあるかわからないですがっ、お、お手柔らかにっ!!!」
「琥珀、緊張しすぎだよ。落ち着いて」
未夜くんに宥められるも、緊張が最高潮に達している琥珀ちゃんは、今にも湯気になって飛んで行っちゃいそうだ!!!
一階に降りると強面さんたちのお顔が近くに見えるから、余計に緊張する。
「とりあえずメシ食おうぜ。腹減った。乾杯しよう」
「少しは空気を読んだらどうなの?」
「紹介終わったし俺らが原稿頑張った打ち上げだし、かったりぃ話なんかもういらねぇだろ。見ろ、あの肉に狙いを定める飢えた猛獣たちを」
「……本当にこの量で足りる?」
オードブルが並んでいる机の上、立ち食い形式のようで、みんなコップを持ったままじっとりと鶏のもも肉を睨みつけている。
赤や緑の飾り付けのせいで、まるでクリスマスパーティーのようだ。
クリスマスにはだいぶまだ早い。
ふふっと笑う咲くんは、微笑ましい顔をみんなに向けて口を開く。
ぐーぐーとどこからかお腹の音がたくさん聴こえてくる中、ようやく咲くんがグラスを少し上げて一歩前へ出た。
「お手伝いしに来てくれた子もありがとう。また俺たちに力を貸してくれると嬉しい」
周りをぐるり見渡す咲くんの瞳が、私に止まる。
きょとん、琥珀は目を瞬かせた。
「琥珀ちゃんも、ありがとう。これからよろしくね」
「………………!!!は、はい!!頑張りますよろしくお願いします!!!」
「乾杯」という声と共に、コップのぶつかり合う音がする……といっても紙コップだ。
ガラスは絶対に割る奴が出るらしい。
既に零したと騒ぎ立てている一角があるので、事前に用意していた雑巾を持って慌ててそちらへと向かった。
不良さんたちはおちゃめさんなのねっ!!
初っ端からそんな騒ぎの最先端へと駆け付けていたからか、いつの間にやら不良さんとも打ち解けていて。
どうやら、ここの人達はさっきのみっちょんみたいな反発はなく、琥珀のことを受け入れてくれていたらしい。
「女神さんて琥珀さんってんですね!!」
「あ、はい、琥珀ちゃんです」
「赤ちんから、すげぇ人が来たって聞いてたんすよ!!原稿がいつの間にやら綺麗になってるしいつもより進みも早いって!!俺ら言われても全然わからねんすけど!!」
「あぁ!消しゴム甘いところもしっかりと消し消ししてますからね!」
「女神さんは綺麗好きかっ!!!」
「あの未夜さんとゲームの話も出来るとか!!」
「やべぇ!!すげぇ!!!あの人神クラスなんすよ!?」
「いやっ!!それは琥珀の実力とは無関係ですからね!?未夜くんがズッキュンバッキュンすごいのよ!!」
どんな風な伝え方をされているのか赤髪くん!!!
絶対に広げたのは君だろう!!!
ずっと一緒にアシスタントしてたもんね!!!!
どこにいるんだ出てらっしゃい!!!!
なんて思っていると。
「あ、いた!女神さん!!!」
強面さんたちから質問攻め(?)を受けていたヘトヘト琥珀ちゃんの所に、その青髪くんはやって来た。
…………琥珀が拉致られて鼻血出した時ぶりの青髪くんじゃないか!!!!
「すんません片付けるの手伝わせちゃって。この袋ん中に雑巾入れちゃってください!」
「あああありがとう青髪くん!!!」
「これお手拭きと、先に取りわけといた女神さんの飯も」
「すごく助かるぅぅぅぅ!!!!」
気付けば肉という肉は既に彼らのお腹の中に入っているようで、サラダが大量に残っているご様子。
成長期の男の子怖っ!!!
取りわけてくれてありがとう青髪くん!!!!
知らない顔の中から急に知ってる顔(過去二回遭遇しただけ)の彼が駆けつけてくれてとても助かった!!
手を拭きながらそれを思い出した琥珀は、キレイキレイになったお手手でカーディガンのポケットの中に手を突っ込む。
入れて来ておいてよかった。
「青髪くんにも、これ……」
「……なんすか?」
私が取り出した三枚のアイマスクの袋を見ると、彼は目を見開く。
「これは、あの、噂の……!!!」
「ラベンダーの香りですよっ!!!」
この前渡しそびれて、いおりさんにあげてしまった、蒸気で気持ちよ~くなれるブツだ。ふふっ!!
「こんな……いいんすかっ!?」
「香りが嫌じゃなければ、ぜひとも!!」
周りからぽつりぽつりと「女神だ」「マジ女神だ」「なるほどこういうことか」なんて呟きが聞こえて来るけれど、私そんな大したことしてないからね!!!!
「あ!あとお昼寝用のマフラーも……一階のお部屋に置いてあるから取りに行かないと」
「あぁ!そういやそうっしたね!」
あの日、いおりさんに聞いたからかなんなのか、わざわざお昼寝用とやらのマフラーを鼻血まみれの琥珀に貸してくれた青髪くん。
ちゃんと洗ってキレイキレイしたマフラーちゃんを青髪くんに返すべく、今日はちゃんと持ってきたのです。
ということで、琥珀たちは濡れた雑巾や取り分けてもらったお皿と共に一旦撤収して、一階のお部屋前に戻ってきたのでした。
ふぅ!ここは息がしやすいぜっ!!!
「あ、琥珀戻ってきた。アンタちょこまかとまた私から早速離れてんじゃないわよ」
「みっちょんごめん!!キレイキレイしてきたよっ!!」
「…………はぁ」
みっちょんは心底呆れた表情で琥珀を見つめ、それから青髪くんへとその瞳を移した。
ビクンッと跳ねる青髪くんをジトリとした目で撫でてから「なんか見覚えのある青ね」と首を傾げるみっちょん。
「あ、この子が『女神さん』の名付け親さんで、この前保健室に付いてきてくれた青髪くんですっ!!」
「……名付け親、って」
「初日にぶっ倒れた!」
「あぁ恥ずかしいので掘り返さないでくださいぃっ!!!」
照れて両手で顔を隠す青髪くん、君かわいいね。
照れちゃうのか、そこ。
「あ、二日酔いの?」
「二日酔いの!」
「やめて蒸し返さないでぇぇぇ」
そこ照れる所なのか?という疑問は残るけれど、青髪くんは弄り倒すとすごく可愛いことが判明した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます