第1話 最強の少女、冒険者はじめました。

「ご依頼ですか?」


「・・・いえ。冒険者登録、お願いします」


「・・・え?冒険者登録・・・ですか?」


「はい」


 その瞬間、ギルド内の空気が揺れた。


 この反応は、自分が冒険者を目指すように見えない。

 つまりは弱そうに見えるのだと理解し、少女は微笑んだ。


 魔力制御の精度は今のところ完璧に近い。


 赤い巻き毛の受付嬢が、困り顔で口を開く。


「失礼ですが、今おいくつですか?」


「今日十歳になりました」


 残念ながら身長が足りず、目から下がカウンターに隠れてしまうため、少女は両手を挙げて十と表現した。


「ぎりぎり大丈夫ですね。では、こちらの書類にご記入ください」


 ほっこりとした顔の受付嬢から渡された紙には名前と年齢、そして職業の欄がある。


 ある事情により冒険者関連の情報を事前に得ていた少女はローテーブルの席を確保し、ペンをすらすらと滑らせた。


「ルミナさん、ですか。綺麗な字ですね」


「そうですか。ありがとうございます」


「冒険者ギルドについての説明は必要ですか?」


「今のところは大丈夫です。家の人に教えてもらいました」


 厳密には自力で調べたのだが、それは言わなくても良いだろう。


「分かりました。では、こちらの水晶に触れてください」


 示された水晶は、いかにも占い師が持ち運んでいそうな程仰々しい。

 これに触っただけでその人の犯罪歴が確認できるというのだから、面白い話だ。


「よっと」


 背伸びして水晶に触れると、水晶は白く輝いた。


「はい、問題ありませんね。以上で登録完了です。ルミナさん、冒険者ギルドへようこそ!私達はあなたを歓迎します!」


 少女――ルミナはギルドカードを受け取る。

 鉄製のカードにはルミナの名前と職業、そしてGランクと書かれていた。


 ランクにはG~Sまであり、初心者がGランクになる。

 依頼をこなすなどしてギルドに貢献することでランクは上がるらしい。


 もちろん強さも求められるため上位ランクになるほど人数は少ない。Sランクに至っては辛うじて実在するものの、存在自体が都市伝説扱いだ。


 依頼が張り付けられているボードをざっと眺めたルミナは、そのうちの一つに目を付けた。


 報酬は、一つあたり銅貨十五枚。


「あの、宿の相場っていくら位ですか?」


 友なし宿なし無一文のルミナにとって、宿の相場は重要な確認事項だ。


 朝晩の二食付きで一泊銅貨三十枚。あくまで最低ランクで、だが。


 苦笑いで教えてくれた受付嬢に感謝して、ルミナは森を目指すことにした。








 活気溢れる街の外。


 人気のない集落に、濁りきった女性の悲鳴が複数響く。


 森の中で複数の黒い影がざわめいた。

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