第2話 魔法紋とパワードスーツ 2


 ジューネスティーンはフルメタルアーマーの外側に簡易的に金属の棒や蝶番で関節を考えていた頃、魔法紋についてシュレイノリアが研究を重ねていた。


 一般的な魔法紋は、公開されている魔法紋を目的の物に刻む。


 羊皮紙に刻めばスクロールとなり、鎧や兜に刻めば、その効果が現れる。


 シュレイノリアは、始まりの村のギルドに有る図書室の資料を漁って、魔法についての知識を深めていた。


 魔法と魔法紋の関係、魔法の発動の条件、事例について調べていくうちに、魔法とは何かから考え始める事になる。


 目に見えない魔素について、その魔素が人のイメージと結び付いて魔法となり発動するなら、その魔素とは、何なのかを、追求するようになるが、その答えを知る者は誰も居ない事に行き着く。


 ならば、自分がその答えを見つけると言い出し、狩りを行わない時は、魔法の実験と、魔法に関する書物を読み耽っていた。


 ただ、この世界の書物は、羊皮紙に書かれていたため、用紙の厚みの問題と、羊皮紙の費用の問題で、ページ数が足りず、説明文が少なく詳しい内容が伝わってこなかった事から、シュレイノリアは、書物の魔法を読んでは実験を繰り返し、自分なりにその魔法についての解析を行っていた。


 その結果、今まで発見された魔法を発動させるだけでなく、その魔法の改良や、新たな魔法の開発が、わずかではあるが、できるようになってしまったのだ。


 それが、ジューネスティーンのフルメタルアーマーの強化に繋がった。




 そして、シュレイノリアは、弾丸を魔法で撃ち出すアイデアを、ジューネスティーンに提案できるようになったのだ。


 それは、以前、2人が助けてもらった、ジェスティエン達の銃を作ることが可能となる。


 火薬については、ジェスティエンが開発して、ギルドが、その技術を使って、火薬の製造、銃弾の生産を行なって、ジェスティエンに供給しているので、他の冒険者が、火薬も銃弾も購入することは出来ない。


 当然、ジューネスティーンも、同様だった。


 火薬の購入が出来ない事で、ジューネスティーンは、銃の開発を諦めていたのだが、シュレイノリアからの提案で、銃の開発も検討を始めたのだが、ジューネスティーンとしては、パワードスーツの開発の方に興味を示していた。


 ジューネスティーンが、パワードスーツの本格的な開発を行う前は、市販のフルメタルアーマーを工夫して、鎧の上に骨格の代わりになるように、補強の金属を取り付けることから始めていた。


 しかし、フルメタルアーマーに取り付ける外装骨格では、中々、思うような動きに対応してくれない事もあり、本格的な骨格の設計を考える事にした。


 ただ、この世界には、紙が簡単に手に入らない。


 使える用紙は、羊皮紙のみで、羊の皮にペンで書くものしか存在しなかった。


 ジューネスティーンは、記録する物に困ってしまった。




 この世界の紙は高額な羊皮紙しか売ってないので、ノートに記述するとか、紙に描く事が出来ないので、ジューネスティーンは、ギルドの寮に有った黒板を借りて、図面もどきの絵を描いていた。


 寮を利用している冒険者には、それが何なのか理解できず、面白い絵を描いているか、絵を描いて遊んでいるようにしか思われて無かった。


 まだ、10代半ばのジューネスティーンは、子供に見られていたので、周りからは、新人が、何か面白い絵を描いている程度にしか思われなかったのだ。




 ジューネスティーンが、パワードスーツの設計を進め、その設計が、完成に近づいた頃、シュレイノリアの魔法力が向上していると、聞きつけた始まりの村のギルドマスターであるエリスリーンが、シュレイノリアの魔法を確認しに寮を訪れた。


 その時は、丁度、ジューネスティーンとシュレイノリアが、パワードスーツの開発について、ディスカッションをしているところだった。


 エリスリーンは、初めてジューネスティーンの描いていた黒板のパワードスーツの設計内容を見て、2人のやり取りを、ただ、聞いていた。


 ジューネスティーンが、設計を行っている場所にシュレイノリアも一緒に居て、必要になる魔法が何なのか、その具体的な魔法を、ソフト面から検討していたところを、エリスリーンは横で聞いていたのだ。


 しばらく2人のやり取りを見ていたが、話を聞いているうちに、黒板に描かれたパワードスーツの原案に興味を示したエリスリーンは、2人のディスカッションが終わった後に、パワードスーツの原理について、ジューネスティーンから説明を受ける。


 魔法紋を使った筋力強化の付与魔法によって、内部の動きに連動し、外部の装甲を付けた手足が動く事で、身体への負担を軽減する。


 その動きも魔法紋によって、内部の人の動きを検知して、内部の人の動きに連動させる事を考えていたのだ。


 黒板を見て、ジューネスティーンの説明を聞いた事で、転移者特有の、無意識に刻まれた記憶から、新たな装備を作ったとエリスリーンは思ったのだ。


 パワードスーツの有用性について、エリスリーンは、興味を示した。


 防御力優先で、動きの鈍い鎧の欠点を補い、機動性を良くする事は、冒険者の生存率に影響を及ぼす。


 そう考えたエリスリーンは、始まりの村のギルドマスターの名の元に、ギルド本部に、かけあって、シュレイノリアだけでなく、ジューネスティーンも特待生の承認を得て、南の王国の首都にある、ギルドの高等学校に2人を入学させた。


 本来であれば入試が必要であり、その後も入学金・学費・寮費と、多くの費用が発生する。


 一般的に、この始まりの村付近での稼ぎでは、必要な資金を貯めるのに10年はかかると言われている。


 だが、ジューネスティーンのパワードスーツのアイデアと、それに使われているシュレイノリアの魔法紋が、始まりの村のギルドマスターのエリスリーンには、画期的な物となって目に止まった事で、特待生としてギルドの高等学校に入学が決まった。




 ただし、ジューネスティーンに対しては、無条件で特待生とはいかず、その条件が、卒業までに描いたパワードスーツを完成させてギルドに納品する事と、その頃、使っているパワードスーツの原型と言えるフルメタルアーマーも一緒に添える事となった。


 期限は、卒業するまでとなり、必要な材料や機材は全てギルド本部が用意する事でお互いに納得した。


 エリスリーンには、報告を受けていたシュレイノリアの魔法が強く印象に残ったので、最初はシュレイノリアだけを推薦しようと思ったのだが、ジューネスティーンのパワードスーツのアイデアに、新たな方向性が有るかもしれないと、2人を特待生として推薦して学費免除、寮費免除で入学させている。

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