第11話 少女は花火が見たかった
夏休みが終わる一週間前の今日は花火大会だった。
水夏が花火を見たいと言っていたので、連れて行くことにした。
出会った時から彼女を見てみると、笑顔が増えていた。
俺らと一緒にいた結果なのかそうじゃないのかは分からないが、俺はどうであれ嬉しかった。
そんな彼女は目の前で俺に向かって微笑んで、『和樹君、楽しいね』って呟いている。彼女はこの花火大会を楽しんでいるみたいだった。
花火大会って言っても屋台はないので、俺らの高校の近くの川で花火を見ることにした。会場に行っても小さい彼女を見失いそうになってしまうのは間違いないから。
ここで問題が発生してきたことに俺は気づき始めていた。
彼女の姿が透けてきていて、花火が上がるまでの時間がそんなにないけれど、彼女が消えてしまうのも時間の問題だ。
「ありがとう…」
さっきから消え入りそうな声で何回もこの言葉を言う水夏。
「もう喋らないでよ!」
桜と藍音はそう泣き叫んで、悠希は立ち尽くしたままで、俺も若干涙がこぼれだしてきそうな頃だった。
花火が佐倉の夜空に咲いて何回も音を立てて消えていき、それと同時に彼女の姿は見えなくなっていく。
終わる頃にはもう彼女は、全て消え去ろうとしていた。
「今までありがとう…」
そう言って彼女は姿を消し、川で四人は泣き叫ぶだけだった。
彼女の声もなにもかも消えた、八月の夏のことだった。
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