第4話 残暑の中の二人
あの日から数日が経過した、残暑の中での事。
私、志津桜は部長の佐倉和樹に呼び出された。
どうやら2人だけで話をしたいようだ。
一体何の用件だろうか。
くだらない事でも、私は向かうけどね。
「よく来たな」
「部長さん直々に呼び出されたから、来るしかないじゃない」
「別に来なくても良かった事だが」
「だったら、最初から呼び出した意味が無いじゃない」
「それもそうだな」
和樹が、笑って言った。
一体、和樹はどんな話がしたいのか、私は分からない。
和樹の考えている事は、私には分かりもしない課題だ。
「何の話がしたいのよ?」
「転校したあとの話が聞きたいだけ」
「そういう事。 良いわよいくらでも教えてあげる」
「何処に転校したんだ?」
「鎌ヶ谷市よ。 美味しい梨で有名な市」
「聞いた事はあるね。 行ったことないけど」
「あなたのその話は、ダウトね」
「バレちゃった? 嘘を見抜くのが上手いね志津さん」
和樹は、嘘をついた。
鎌ケ谷市に行ったことがないと言うが、私は鎌ヶ谷で姿を見た。
だから私は、嘘だと言った。
「あなたは私を貶めたいの?」
「そんなつもりは無い。 志津さんを試しただけだ」
「いい加減に苗字で呼ぶの辞めたら? 距離がおかしいよ」
私は苗字で呼ぶ和樹にイライラしながらそう言う。
彼は私の事を高校になってから、苗字で呼ぶようになった。
中学一年の時は、桜って下の名前で呼んだのに。
「別に呼びたいから呼んでいるだけだ。 嫌なら辞める」
「別に志津で良いわよ。 大抵みんなはそう言うからね」
和樹の言葉に押しつぶされ、私は仕方なく負けた。
「じゃあ次の質問と行こうかな」
「いくらでも質問すればいいわよ」
「ユーカリが丘の噂、志津さんはどう見た?」
「誰かが飛ばしているのは確定なんじゃないかしら」
「一体なんのためにだろうねえ」
「飛ばしたいから飛ばしてるだけじゃないの?」
「だとしたらさあ、紙飛行機は一機だけでいいじゃん」
「能天気そうな顔してるけど、たまにはそんな鋭い事言うのね」
「いつも鋭く頭を働かせてるわ」
「能天気そうな顔して何言ってんだか」
「うるせえ」
そう言って、和樹は微笑んだ。
和樹の笑顔を私は久しぶりに見た気がした。
和樹の笑顔を最後に見たのは、3年前の今の季節。
引越し先へと揺られる電車の中から、彼の笑顔が見えた。
その笑顔は普通の笑顔では無かったような気がした。
どこか、涙が含まれている様な笑顔だった。
そこからは話も止まった。
蝉時雨の響く中で、2人はスマホをいじっている。
「俺、帰るね」
和樹が席を立って、帰って行った。
「じゃあね」の一言は出なかった。
私も帰ることにし、部室に鍵をかけた。
廊下に響くのは、鍵をかける音だけが聞こえた。
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