地下帝国跡地再開発事業。
結局、どうしたら良いのかわからないまま―――正しくは、「何を」「どう」したら良いのかもわからないまま、理人は家に帰った。
何をどうもできないのだ。心の中が妙にモヤモヤするだけで。
机に荷物を置いて、どかりとベッドに身体を投げ出す。仰向けになったまま、何の気なしに携帯電話を手に取れば、癒しのフォロワー『ミコ』、つまりは三田からのコメントを見返していた。
『可愛いとか言ってみたらどうでしょう?言われたら嬉しいかも。』
そんなに深刻な話だっただろうか?コメントと現実が結びつかずに、理人は両腕で顔を隠す。
「辞められない、よなぁ。」
自分に言い聞かせるかのように呟いてそのまま固まっていれば、学校であまり眠れなかったせいか、睡魔はあっという間にやってきた。
『大事なことは、寝てから考える。』
そんな言葉が免罪符のように頭に浮かび、理人はそのまま意識を手放した。
母親に起こされるまで、それはそれはぐっすり眠ってしまったせいで、しばらく眠れそうになかった理人は、結局いつも通りにJの生配信に参加した。もう、それは染み付いてしまった癖のようなものだ。
明日が辛くなるとわかっているのだが、夜は元気になってしまうのだから仕方がないと自分に言い訳をしながら、理人は画面の中で地下帝国に佇むカイリを見ている。いつも通りただ掘って、物資を集めるだけの作業を始めるはずが、今日はなんとなくそんな気になれず、さてどうしたものかと思っていたところだ。
(お前は良いよなぁ。愛される側で。)
ブルーグレーのパーカーを着たカイリを、頬杖付きながら不貞腐れたように見ていた。
『仕方ないだろぉ。』なんて、ニヤニヤ笑っていそうで非常に腹正しい。
(三田も、なんでこんな奴が好きなんだ。)
最近、何度も思っていることだ。自分なのに自分ではない。なんともモヤモヤする状況。
(趣味、悪すぎ。)
それが自分のことを言っているのだと気づいても、気分の悪さは変わらない。こんな奴には強制労働でもさせるかと、理人はいよいよカイリを動かした。
あれから、戦場の跡地として残された地下帝国には、反乱軍として戦ったメンバーが集まるようになっていた。破壊された建物の周りには、地下らしからぬ畑も広がり、メンバーそれぞれの家らしきものまで出来上がっている。
諸行無常。
盛者必衰の理。
平家物語のそれを表しているかのような世界に、理人は苦笑するしかない。理人の家も既にそこに建てられていた。
帝国跡地に恐ろしく並べられたチェストの数は、その物資の豊富さを伺わせる。SHOUJOAと地下帝国を作り始めてから、地上に物資を届けていなかったため、気がつけばこの状態になっていたのだ。しかも、地道な作業ばかりしているメンバーが揃っているとなれば、その増加具合は今までの比ではない。
だからといって、これら全てを運び出すことは、もう今更なようにも感じた。
[おはようございます。]
メンバーの一人が、携帯電話のチャットの方にメッセージを送って来た。カイリの前でヘコヘコと挨拶をしている、このゾンビが送って来たのだろうか。
[物資、運びますか?]
理人は少し考えて、[でも、面倒じゃない?]と送れば、「自動運搬機作りましょうよ。」という返事が返って来た。
確かに、それを一度作ってしまえば楽にはなるだろう。地上でそれを捌くプレーヤーも必要になってくるのだが。
[じゃあ、地上の倉庫で資材の分別機作っておきます。]
ゾンビじゃない誰かが、書き込んできたようで辺りを見回せば、ゾンビとは反対側の所でヘコヘコしているかぼちゃ頭がいた。
(ハロウィンかよ。)
自分のスキンがいかに地味かがよくわかる。そんなことを思いながら、理人は[じゃあ、作ってみますか。]と打ち込んだ。
地下帝国軍のメンバーは、無名でありながら古参でもある強者ばかりだ。やることが決まれば、恐ろしく黙々と作業をする。効率的に全てがシステム化され、運搬機や分別機に必要な物資が、あっという間に揃って行った。
地上の倉庫につながるように階段を掘って行けば、後はレールを敷いてトロッコを走らせるだけというところまで来て、生配信の時間が終わった。今日も結局画面に映ることはなかっただろうが、それはいつものことだ。
配信が終わってすぐに、『何作ってるの?』と地下帝国にやってきたJに、理人は苦笑する。
(意外にちゃんと見てるんだよなぁ。)
Jが愛される理由はやはり色々あって、カイリが辞められない理由も、少なからずそれに起因していた。
『物資が溜まり過ぎたので、地上の倉庫への運搬機を作っています。』
ゾンビ君がゲーム画面のチャット欄でそう説明すれば、他のメンバー達も続々と地下へ降りて来る。広かったはずのそこが、狭く感じる。
『すげえ。』とか『いつの間に。』とか、再開発されていく地下帝国に、他のメンバー達は興味深々らしくあちらこちらをウロウロしている。
『荒らすなよ。』という厳しいJの言葉に、一斉に皆動きを止め、そしてまた動き出す。統率が取れているその感じに、理人は思わず笑った。
ただ少し、あまりにも機械的な見た目になってしまったそれらが、SHOUJOAが作ったものと雰囲気が違い過ぎて、理人はなんとなくスッキリしないでいた。地下帝国には資材集めの得意な者ばかりで、建築の得意な者はいないらしい。地上の人間は画面に映りたいだろうし、カイリ一人で作ったわけでも無いので、文句も言えない。どうにかできないものかと思っていたら、『SHOUJOAはもう来ないって?』とJが聞いてきた。同じことを考えていたらしい。
三田の事が衝撃的過ぎて忘れてしまっていたが、SHOUJOAは森だ。建築系の仕事に進みたいのだと言っていたのを思い出す。でも、『毎日でなくても良いから手伝ってって言ってみっか。』とJが言うのを、理人は否定できずにいた。
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