私は私よ。関係無いわ。
学校からの帰り道。途中の駅で、晶子が乗っていた車両に乗り込んできたユタ氏は、ドアの脇に立っていた晶子に小さく手を振りながら「何か喜ばしきことありや?」と、開口一番に言ってきた。
「ユタ氏には全てお見通しですな。」
「晴れ晴れとした顔をしていらっしゃるが故。」
晶子はふっと笑った後、お昼休みにあーちゃんとあったことをユタ氏に話した。あーちゃんが思っていたこと。想像以上に趣味が同じだったこと。これからこうしようと話し合ったこと。
「お互いに会話が足りなかったということですな。思い込む人間と黙り込む人間が揃えば、確かにそうなるわ。」
ユタ氏がうんうんと頷きながら、そう言った。
「あーちゃん、カイリ様に怒られたんだって。」
「へ?どゆこと?」
晶子は、あーちゃんがJのゲーム実況の生配信に参加して、そこでカイリ様と会っただけでなく、一緒に作業をしているということを説明する。そこで、カイリ様に注意されたのだとあーちゃんは言っていた。
「それで、最近寝不足だったみたい。」
「再来週にはテスト期間に入るというのに、悠長ですな。」
「うん、だからもうやめるんだって。」
そう、あーちゃんはもうすぐ辞めるのだと晶子に言ったのだ。
お昼休みの時、あーちゃんとお互いに足りなかったことを話合った後、あーちゃんは晶子にゲーム配信に一緒に参加しようと勧めて来た。
「アコもやったら良いんだよ。カイリにも会えるよ?」
「無理寄りの無理!羨ましいけど、あのゲームのキーボード操作、難しいんだもん。足、ひっぱっちゃう。」
「慣れよ。慣れ。」
「それに、ストーカー認定されそうで、ちょっと嫌。」
晶子がそうはっきりと言えば、あーちゃんは肩を竦めて困ったような素振りをする。
「まあ、でも私ももうやめるつもりなんだ。テスト近いし、配信の時間も遅いから。毎日、眠くって。」
確かに、最近のあーちゃんはひどく眠そうだった。あれは、配信に参加していたからだったのだと、晶子は納得する。
「そういえば、見て見て。」
そう言って、あーちゃんが手元でゴソゴソして携帯電話を取り出した。そして、「これ。私。」とその画面を見せて来る。晶子がそれを受け取って覗いてみれば、それはとても見慣れた写真だった。昨日の夜から、晶子が何度も何度も見た写真。でも、角度が微妙に違う。
「え?」
「これ。これ。」
そう言って、あーちゃんが指差したのはカイリ様の横に並ぶ「SHOUJOA」と頭の上に書かれた、黒っぽいスキンの方だ。
「しょうじょあ!まじで?」
「少女Aなんだけど。」
そう言って、あーちゃんが苦笑する。
「明菜と言えば、少女Aでしょ。」
「あ、そういうこと?」
もう一度その写真を見た晶子は、自分も携帯電話を取り出して、カイリ様のページを開いてあーちゃんに見せた。
「これ、カイリ様が夜にUPした写真。」
「え?まじで?チェックしてなかった。」
あーちゃんはそう言って、晶子の携帯電話を受け取って、それを覗く。そして、「なんか嬉しいなぁ。」と呟いた。
交換された携帯電話をお互い自分の所に戻し、晶子が再びそれに目を落とせば、その写真にはどうやらコメントがたくさんついているらしい。晶子がしたコメントにも朝からたくさんの『いいね!』が付いていて、カイリ様からの返信の影響の大きさがよくわかる。朝から煩く感じるほどによく鳴るので、通知を泣く泣くオフにしておいたのだ。でもどうやら、カイリ様の呟きは今のところ更新されていないようで晶子はホッとした。
「ごめんね。アコが推してるって人、見て見たくてさ。ちょっと近づいてみたら、今度は思った以上に地下帝国作るのが楽しくなっちゃって。」
驚いてあーちゃんの顔を見れば、「カイリ、悪い人じゃ無かったよ。」とあーちゃんが笑った。
「カイリ様は、良い人だよ。」と晶子が不貞腐れたようにすれば、「あはは。推してる人に言う言葉じゃ無かったね。」と、あーちゃんが困ったように笑って言った。
「昨日さ、勝手に人の考えていることを決めつけるなって、怒ってくれたのもカイリ。」
晶子はますます驚いて、あーちゃんを見た。あーちゃんが晶子のそんな表情を見て言葉を足す。
「惚れ直したっしょ?」
「うん。」
優しく笑いながら少し俯いた晶子を見て、あーちゃんがまた嬉しそうに笑った。
「で、これができあがったらやめるんだ。それまでにアコも参加したら良いのに。」
「ううん、良いの。」
「そう。」
ちょっと寂しそうにしたあーちゃんだったが、「Jにこれ、絶対に紹介してもらうから、その時は配信見てね!」とすぐに元気になった。あーちゃんらしいと晶子は笑う。
「見る!絶対に!教えてね。深夜でも良いから!」
「もちろん!カイリも映るようにするから!」
そんな風に笑い合っていたら、ふっと見上げたあーちゃんが、ニヤリと笑った。
「どうしたの?」と晶子が聞くと、「ん?別に、なんでもない。」と、あーちゃんは言って、再び笑ったのだった。
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