眠れない夜と、優しい返信。
学校でのあーちゃんとのことが気になって、晶子はなかなか眠れないでいた。あーちゃんのことが、というよりは、言えなかった言葉が―――の方が正しいかもしれない。
何かあったというわけでは無い。帰る時にもいつもと変わらなかったあーちゃん。ただ、晶子が感じた何かを、言葉にできなかっただけ。それでも何かが残ってしまったのだ。何かがあったのに無かったことにされてしまった、そんな感覚。
晶子は、ああいう時に良い言葉が思いつかない自分が嫌いだったし、それを直したいと思っているし、方向が合っているかどうかはわからないけれど、頑張ってもいる。
それなのに、全くうまくいっていない気がするのも鬱々とさせる原因だった。原因はわかっているけれど、だからといってどうにもならないものだし、もしかしたら私以外の人はそういったことが元々出来て当たり前なのかもしれない。
そんなことを考えて考えて、次から次へと浮かびぐるぐると回る思考のせいで、目を瞑っても結局は色々と思い出してしまうのだった。
あの時言うべき言葉はなんだったのか。今までそれを言われなかったことに怒っているかのように、あーちゃんに受け取られてしまったのはなぜか。結局、どちらの答えも出ないままだ。
せめて帰りにユタ氏に話して助言を仰げれば違ったのだろうが、今日に限ってユタ氏はいつもの電車に乗ってこなかった。それもよくあることではあるのだが、晶子にとってはそれこそ「今日に限って」…だ。
途中で寝落ちしてしまうこのと多い生配信も、昨夜に引き続き今夜も結局最後まで見てしまった。このままだと昼夜逆転してしまうかもしれないという不安が、晶子の頭を過る。それでも、見ている間は、完全にとは言わないけれど少しはそれらのことを忘れることができた。
カイリ様は、相変わらず映らないけれど。
しかも、ずっと地下で作業しているのだろうか。地上ばかりが映されている配信では、通り過ぎる姿さえ見ることができなかった。
(やばいBAT入る。)
布団をぎゅっと抱きしめる。何もかもが上手くいっていないような、そんな気持ちになってしまう。ブルーグレーのパーカーを見たいと思う。
何か過去の動画でも見に行こうか、そんなことを晶子が考えていた時、携帯電話が揺れた。SNSの新着通知だということはすぐにわかったし、こんな時間にUPするということは!急いで手に取り見てみると、やはりカイリ様が新しい写真を投稿していた。
『今日も頑張った。と言っても手伝っただけ。これを作ったSHOUJOAと一緒に。』
写真はSHOUJOAと書かれた人と並ぶカイリ様。その後ろには、お城のようなそんな建物があった。
(二人で作ったのかな。すごい。)
何てコメントしようか考えて考えて…。そこでふと、晶子は思いついた。「もしかしたらカイリ様が今ならまだこれを見ているかもしれない!」ということに。そうして焦って打ったコメントは、『お二人とも、お疲れさまでした!』という短いものだった。
(なんでもっと気の利いた文章が思いつかないのー⁉ あぁもう、見てくれるかな。でももう寝ちゃったかもしれないな。)
そんなことを考えながら、それでも諦めきれずにその写真を見ていた。カイリ様と繋がることのができる唯一の手段。
(それは仮の姿だとわかっているの!それでも良いの!)
必死に自分に言い聞かせる。一般的にはなかなかわかってもらえないだろうこの気持ち。最近ではVtuberとかもいるし、だいぶ増えてはいるだろうけれど、それでも晶子が両親にそれを話せば憐れんだような目で見られたのだ。
(アニメのキャラクターとかに恋する人もいる。カイリ様の向こうに本当のカイリ様がいると思えば、まだ健全よ! 2.5次元だもの。)
カイリ推しになるまでは、あるアニメのキャラクターが大好きだったことを晶子は思い出し、それを自ら心の中で棚にあげる。カイリ様のお陰で、だいぶが元気が戻ってきた気がすると晶子は苦笑した。現金なものだ。女心と秋の空。
(それにしても、SHOUJOAって面白い名前。しょうじょあ?しゅうじょー?どう読むの?)
その黒っぽい顔を見ながら、ちょっと羨ましくも感じていた。自分も参加できたら良いのにと思う。それでもやはり自信が無い。思い切って参加してみても、一番問題になるのはやはり人間関係だろう。今ではJの周りは賑やかなプレーヤーばかりで、晶子は自分にはきっと無理だと思っている。入っても何も出来ないのが目に見えているので、毎度「いいな。」と思いつつ、諦めるのだった。
「はぁ。」と溜息をついて、晶子は携帯電話を枕元に置いた。その時、再びそれが揺れた。カイリ様がまた何かUPしたのかもしれないと、晶子はそれに手を伸ばす。
するとそこには、カイリ様からの返事が来ていた。
『いつもありがとう。』
一瞬意味がわからなかった。
(え?え?コメントに、リプ来た?)
短いメッセージだったが、「いつも」と書かれたそれは、晶子がいつもメッセージを送っていることを認識してくれているってことだ。
(嬉しい! やばい! すごい! 嬉しい!)
落ち込んでいたことが嘘のようだ。携帯電話を仰向けの胸の上の乗せ、両手で抑える。ほんのり温かい。
(涙が出そう。現金!私、嫌な奴!でも、カイリ様大好き!)
目尻から、何かが伝って零れていく。
(ダメだ、深夜テンションで気持ちがぐちゃぐちゃだ。)
こういう時は寝るのが一番だと知っている晶子は、目を瞑る。心を無にしようとするが、それでも沸きあがるブルーグレーの妄想。
晶子は次の日、目元にひどい隈を作って学校に行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます