とある少女の旅路

九八

新たな旅の一ページ

「すみません。この串焼きください。」




「はいよ、銅貨2枚だよ」




とある街の屋台の並ぶ大通りそこで私は買い物をしていました。




「...お嬢ちゃんその荷物は何だい?」




店主のおじさんはそう聞いてきました。


そう言われて私は腕を目一杯広げて抱えている自分の荷物をみて答えました。




「これですか?食べ物です!」




「その量の食べ物を持ってまだ食べるのか...」




何かあきれたように言われましたけどそれはこの街の食べ物がおいしすぎるからついつい買ってしまうんです!私が意地汚いわけではないです!




「まぁいいか、ところで嬢ちゃん」




「はいなんでしょう?」




串焼きを食べていたら店主さんが話しかけてきました。


うーん、いい匂いですね。香ばしいたれの香りが食欲をそそります。




「嬢ちゃんは旅人かい?」




「はいそうですけど。それが何か?」




少し違う気がしますけど街から街へ当てもなくさまよっているのでそんなに外れてもいないでしょう。きっと。




「だったらここしばらくはこの街に滞在しとけ」




「何でですか?他の街で何かが起こったとは聞きませんけど」




「他の街のことじゃねぇ、つい最近この街の近くでワイバーンの足跡が見つかったんだ」




「ワイバーンの足跡ですか。ここら辺はワイバーンがよく出るんですか?」




「そんな訳ないだろ。そんなに頻繁にワイバーンが出てたら今頃この街は焼け野原だ。まぁ、来ないわけではないんだが...」




まぁワイバーンの生息地は高い山や人が足を踏み入れない場所ですからね。


この街が辺境とはいえさすがに高頻度で来るわけではないのですね。




「で、そのワイバーンの足跡が見つかって何だと言うんです?」




「何だとって...。そりゃ危険だからしばらく街から出ないほうがいいってことだろうが」




「何だそんなことですか。大丈夫ですよ!私こう見えても強いですから」




「いや、こんなところまで一人で旅に来るくらいだから実力はあるんだろうけど、嬢ちゃん、ワイバーンっていうのは人間だったら出会ったら最後、何も分からず食われて終わりだってみんな知ってるような化け物だぞ」




「そうですか?意外といけると思いますけど」




ワイバーン程度なら大した問題ではないと思いますけど。っていうかそんなことより・・・




「店主さんはいったいどうしてそんなにも私に親切にしてくれるのですか」




見ず知らずの人間にそこまでする義理はないと思いますけど。


なんて聞いたら店主さんは頬をポリポリと恥ずかしそうに掻いて説明してくれた。




「...あー、その、なんだ、その、お前がうちの一人娘とちょうど同じ位の年だからよ、それで少し心配になっちまって...」




「...そんな理由で?」




予想外の答えだったのでついついそんなことを言ってしまった。


そしたら店主さんはかなり恥ずかしかったようでごまかすように少し早口で、




「悪いかよ!自分の娘と客を重ねちまうなんて」




と言ってきた。その姿がなんだか微笑ましくてついつい笑みがこぼれてしまいました。




「ふふ、いえ悪くないですよ、ただ私と同じくらいですか...300位ですね」




なかなか長生きですね。


なんて呟いたら店主さんはぽかんとした顔をした後大笑いしてきた。




「はははっ、嬢ちゃん、いくらあんたくらいの年齢は大人に見られたくなるといっても300はやりすぎだぜ」




なんて微笑ましいものを見るような目で言われてしまいました。




「別に大人にみられたくて言ったわけではないのですが!」




そんな目で見られて少し恥ずかしかったのでついつい頬を膨らませて反論してしまった。




「はいはい、子供はみんなそう言うんだよ。」




店主さんはそう言って私のほうに焼きあがった串焼きを差し出してきた。




「私は子供じゃありません!」




この人はどれだけ私を子ども扱いするのでしょう。


ですがまぁ良いですここは寛大な私の広い心で許してあげます。別に串焼きで機嫌がよくなったわけじゃないですよ!私が大人だからです!




「子ども扱いするところは不服ですが親切に教えてくれたことに免じて許してあげます」




「そうかいありがとよ」




少し苦労して串焼きを受け取った後、




「それじゃあ私はこの街をまだまだ観光するつもりなので」




「あぁ、そうかい転んでケガするなよ」




「だから私は子供じゃありません!」




そう言って後ろから聞こえてくる笑い声を聞きながら私はその場を離れたのです。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




「さて今日もたくさん売るぞ」




そう言って俺は屋台の準備を始めた。


ここで串焼きの屋台をして実に十数年、すでに手慣れたもんだ。


...だが今日はやけに人通りが少ないような気がするな?


なんて考えていたらいつも近くで屋台をやってる顔なじみが声をかけてきた。




「よおお前さん今日も屋台をやるのか」




「そんなの当たり前だろ。なんでそんなことを聞いてくるんだ」




変なことを聞いてくるやつだ。


毎日やらなきゃ稼ぎにならんだろう。と思ってやつの屋台がいつもある場所を見るとそこでは別の奴が屋台の準備をしていた。




「何だお前知らないのか?」




「何をだよ」




「兵士からワイバーンの足跡が今までなかったほど街の近くで見つかったってお触れが来たんだぞ」




「あぁそれか、だが竜が街の近くに来たって街の中にまで入っては来ないだろう。今までも街に入らせず追い払うことはできてんだから」




今までワイバーンが近くに来るならまだしも街に入ったことなんて一度もないんだ。


心配のし過ぎだろう。




「そりゃそうだが、そいつは今までのやつらより何倍も大きくて何度砲撃しても逃げようとしないって話だぞ。俺は万が一があったら嫌だから今日は家にいるつもりだ。お前も気をつけろよ!」




そう言ってヤツは走り去っていった。わざわざそんなことを伝えに来たのかあいつ?


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




いつもどおり店をやっていたらついこの前見た顔が話しかけてきた。




「店主さん串焼きください!」




「おう、嬢ちゃんか。今日はどうしたんだこの街に来た時と変わらない格好だが」




なんだか嫌な予感がしながら聞いてみたらこの嬢ちゃんとんでもねぇことを言ってきやがった。




「はい、今日街を出るつもりなので店主さんにあいさつに来ました」




「今日!?今日街を出るのか!?」




「はいそうですが?何か問題でもあるのでしょうか」




「問題大有りだ!今ワイバーンがこの街の近くに出てるって軍から言われてんだ!今街から出たらら最悪ワイバーンにパックリ食われちまうぞ!」




「大丈夫ですよ。ワイバーンくらいだったらどうにかできます」




「まだそんなこと言ってるのか!ワイバーンなんてのはそんなもんじゃ...」




そうして俺が嬢ちゃんにワイバーンの恐ろしさを教えてやろうとしたら、




「ん?なんか騒がしいな。向こうから必死に逃げてくる奴もいるし」




悲鳴を上げながらすごい形相で走ってくる奴らがいた。そのうちの一人がこちらに声をかけてきた。




「おい!あんたらも逃げろ!ワイバーンだ!ワイバーンが街の中に入ってきやがった!」




「な、何だと!おい!それは本当か!」




とんでもないことをほざいてきやがった。そんなもんいつもなら気にも留めないが今は事情が違う実際にワイバーンの足跡が見つかってんだ。




「あぁ本当だ実際に城壁を飛び越えるワイバーンを見たんだ!」




その言葉を聞いて周りにいた通行人や出店の連中が我先にと逃げ出し始めた。


さすがに俺もここにはいられんさっさと逃げよう。そう思っているのにずっと近くにいた嬢ちゃんは逃げようとせず立ち止まったままだ。




「おい嬢ちゃん!あんたも早く逃げろ!危険だぞ!」




そういったのに嬢ちゃんはそれでも逃げようとしない。それどころか...




「私は大丈夫なので店主さんは先に逃げてください」




なんてことを言ってくる。




「そんなことできるか!嬢ちゃん、あんたも逃げるんだよ!」




「その気持ちはうれしいですが大丈夫ですよ。それに...」




そう言って嬢ちゃんは言葉を切りみんなが逃げる方向とは逆、つまりワイバーンが来るであろう方向を見てこう言った。




「もう来てますし」




GYAAAAAAAAAAAAA!




耳をつんざくような咆哮が聞こえた。この聞いただけで全身の震えが止まらないような恐ろしい声は間違いない、ワイバーンだ。




「何悠長なこと言ってんだ!早く逃げるぞ!」




「今から逃げたとしても人の足ではワイバーンから逃げるのは無理ですよ。それにどうやらワイバーンはこちらを標的にしたようです」




そう言われてワイバーンのほうを見たらちょうどこちらに降りてきたところだ。


着地するだけで周りの物が揺れるほどの体重に睨まれているだけで身がすくむような威圧感こんなの人が勝てるような生き物じゃない。だというのに、




「意外とワイバーンって大きいのですね」




この嬢ちゃんはそんなことを言っている。




「何言ってるんだ嬢ちゃん!今からでも遅くない!早く逃げろ!」




なんでこの状況になっても逃げようとはしないんだ!


明らかに勝てる相手じゃないと分かっただろう!




「だから、大丈夫ですって店主さん」




そう言って嬢ちゃんはこちらに振り向いてきた。




「バカ!ワイバーンの前で後ろなんて向いたら...」




そしてみてしまったワイバーンの口が動くところを。小柄な少女がその口に食われる幻覚を。




「え?」




それは誰の口からでた音だろうか。誰もが幻視した少女の死体はどこにもあらずそこにはこの場の支配者と思われたワイバーンの首なし死体とその首を持つ少女の姿だけがあった。


誰もが言葉を発せないこの場においてその中心人物の少女だけが口を開いた。




「だから言ったでしょ。大丈夫だって」




~~~~~~~~~~~~~~~~




ワイバーンを倒した後私は憲兵さんに事情聴取といわれ近くの人と一緒に兵隊さんの詰め所に連れていかれた。そこでこの詰め所で一番偉い隊長さんに今回のことを説明した。


最初は私の言ったことは信じてくれなったけど一緒に詰め所に連れてこられた人の証言で私が倒したと信じてくれた。そのあと感謝状とか何とかいうものをくれるって言われたけど断った。紙なんて食べてもおいしくないもんね。


それですぐに開放してもらえたけどそのあと店主さんや他の助けた人たちから感謝の言葉を言われ続けてもみくちゃにされた。


その騒ぎが落ち着いたころその中の一人が、




「よーし!今日はわれらが恩人のお嬢ちゃんのために酒場で飲み明かすぞー!」




って言って近くの酒場でほんとに一晩中飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎだった。


そこで店主さんの奥さんと娘さんにあったけどすごく幸せそうだった。


そんな姿を見たら家族に会いたくなっちゃったけど、まだこの旅は続けたい。


いつか帰った時にはここではこんな楽しいことがあったって報告しなきゃ。




そして今宴が終わった次の日の朝、私は街の人に見守られ城門の外側で店主さんに話しかけられていた。




「本当にもう行っちまうのか?まだしばらくはこの街にいてもらってもいいんだぞ」




「はい私は旅をしている身ですからあまり長居できないんです」




「そうか残念だが仕方ないか...。」




あまり長くいすぎると別れがつらくなってしまいますからね。...私もそんなことを考えるようになったのですね。


なんて少し感慨にふけっているとちょうど会話が終わるタイミングを待っていたのか店主さんの後ろから私の事情聴取をした隊長さんが話しかけてきた。




「私からも改めて礼を言わせてほしい。本当なら市民の命は私たちが守るところを君が代わりに救ってくれた。君がいなければ街の人々に多大な被害が出てしまっていた。本当にありがとう」




そう言って隊長さんは頭を下げてきた。




「いいんですよ、近くにいたから倒しただけですから」




どうせ街に入ってこなければ外に出た後倒すつもりでしたし。




「そうか。だが、本当に感謝しているんだ」




改めてそう言った後隊長さんは頭を上げた。


それを見た後私は見送りに来ている人みんなに向けてこう切り出した、




「少し名残惜しさは感じますけど皆さんとはここでお別れです。皆さんとできた宴は本当に楽しかったです。本当にありがとうございました」




それを聞いた店主さんは少し涙ぐみながら、




「俺らも楽しかったぜ。また来るときはうちの串焼きを食いに来てくれよな」




その言葉を皮切りに他の人も感謝の言葉とまた会おうといった旨の言葉を伝えてくれました。それを聞いて私はとても胸があったかくなるのを感じながら、




「はい!皆さんまた会いましょう!」




そう言って皆さんに手を振りながらこの街を後にしたのでした。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




街の英雄を見送り人々がいつもの日常に戻った後私は詰め所に戻り部下の報告を聞いていた。




「隊長!ワイバーンの解析の結果が一部出ました!」




「そうかご苦労。何か特筆事項はあるか」




ワイバーンの解析が少し進んだらしい。まぁ特筆事項なんて特にないと思うが。




「はいそれなんですがこのワイバーンの足は街の近くで発見した足跡とは一致したのですが森の奥で最初に発見された足跡とは一致しないようなのです」




「何?足跡が一致しない?それは別のワイバーンがいるということか?」




まだいるというなら大変なことだ。だが続く部下の報告はそんなものではなかった。




「いえ森の奥の足跡は形こそ似ていますがワイバーンとは比べ物にならないほど大きくワイバーンとは違いおそらく四足歩行のものだと思われます」




「四足歩行?ワイバーンに似た足跡で巨大?...まさか!」




「はいおそらくドラゴンではないかと思われます」




ドラゴン、それはワイバーンなんかとは比べ物にならない力を持つと言われ街一つを丸ごと焦土に変えることもできると噂されるような怪物だ。


そんなドラゴンの足跡が見つかったと言われたら一大事どころの騒ぎではない。




「だがそのドラゴンらしき生き物は一度も姿を確認していないよな」




「足跡の付近を長いこと調査しましたが途中から街道に出て行方がわかなくなっています」




「ん?街道に出たとは?」




「足跡を追っている最中その足跡が途中から人と同じサイズ、形になっていたのです」




「人と同じサイズと形か。...まさか人化の魔法か!」




「恐らくそうだと思われます」




人化の魔法、その名の通り人に化けることができる魔法だが恐ろしく難易度が高くたとえ人知を超えた知恵と力を持つドラゴンでも使える者はそう多くはないと聞く。




「ワイバーンよりも強いドラゴンがこの街に紛れているかもしれんのか...」




これは警戒すべきなのか?たとえドラゴンが街を襲ったら我々はなすすべもないような...。


ん?待てよ?ワイバーンよりも強い人間?ふとついさっき見送ったばかりのこの街の英雄の姿が頭に浮かんだ。




「...もしかしたら本当にそうなのかもしれないな」




「隊長?急に独り言なんて呟いてどうしたんですか?」




「いや何でもない。ワイバーンの調査が進んだらまた報告してくれ」




そう部下に指示を出しながら私は心の中で少女のこの先の旅が平穏であることを願ったのだった。

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