第13-4話 再会(幕間)
一方その頃、二ツ谷駅南部にある甘味処『茶房園庭』に聡子と麻美の姿があった。
「あ、聡子! あけおめ!」
店の入口に立って聡子を待っていた麻美が聡子の姿を見て手を振る。
「あけおめ……って、もう一月も中旬じゃん。寒中見舞いの時期だっての」
言いながら店の引戸を開ける。店内の温かい空気が石油ストーブとコーヒーの香りを乗せて、和風の意匠を施したエプロンを纏った店員とともに二人を出迎える。
「いらっしゃいませ! お客様、二名様でよろしかったでしょうか? はい、こちらのお席へどうぞ!」
「……だって今年になってから会うのは初めてだし、っていうか会うの自体だいぶ久しぶりだよね?」
麻美は案内された席へ座りながら言う。ストーブの燃える音と厨房の奥で食器を洗う音だけが響く。
「……あ、ほら! 期間限定メニューだよ、胡麻きな粉豆乳あんみつだって!」
そうメニューを見せる麻美に聡子が無愛想な表情で言う。
「……ねぇ、なにが言いたいの? なんか言いたいことあるんでしょ?」
また、二人の間に沈黙が流れる。そして、麻美は静かに溜息を吐いて言う。
「もういいんじゃない? ルナも悪意があったわけじゃないでしょ?」
「なにかと思えばその話? やめてよあいつの話は、虫唾が走るわ。っていうかなに? あんたあいつの肩を持つの?」
取り付く島もない様子を見せる聡子。
「肩を持つとか持たないとか、どうでもいいよ。私はただ、ルナとまだ友達でいたいだけ。もちろん聡子ともね」
「それはお生憎様、私は友達でいたくはないわ。だいたいあんたね、考えてもみてよ。クラスの大して仲良くもない男子が、別人の、それも女子高生のフリをして近づいてくるのよ? 気持ち悪いったらないわ!」
「近づいて……って、最初に声をかけたのも、遊びに誘ったのも聡子じゃん。ルナはその中で話を合わせていただけでしょ? そりゃあ、私だって本当のことを話されたときはちょっとびっくりしたけどさ……」
「…………!」
なにか言いたそうで言葉が出てこないといった表情を浮かべる聡子。頭が切れ、口も達者な彼女がこのような反応をするのは珍しかった。聡子は行き場の失った感情を逃がすように勢いよく店員を呼ぶ。
「すみません! 注文お願いします!!」
厨房の方から慌てた様子でオーダーを取りに来る店員。
「胡麻きな粉豆乳あんみつ一つください!」
「あ……それもう一つお願いします」
店員は注文を復唱して確認すると、再び厨房の方へ消えた。
「言っとくけど私はあんたみたいな変人じゃないから、私にその柔軟な理解力を求めても無駄だからね!」
声を荒げる聡子に麻美は改まって向き直った。先程までよりも一段階シリアスな空気が流れる。いつもおちゃらけた雰囲気の麻美だが、こういう顔をするときは冗談抜きだということを長年の付き合いから聡子は知っていた。
「私たちの仲だから言うけどさ……本当の理由はそうじゃないんでしょ?」
まるで全て見透かすような麻美の眼差しに、聡子はまた言葉を詰まらせる。
「…………! ほんっと、あんたのそういうところが……!」
目を吊り上げて麻美を指さす聡子。麻美は聡子のその憤りに似た感情の発露にも慣れた様子で出された冷やを口に運んだ。
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