第13-1話 再会(前編)
冬休みが明け、再び学校生活が始まる。結局、あの後、麻美から妙案を思いついた旨の連絡が来ることはなかった。
教室に入るといつものように聡子が大きな声で雑談をしている。一瞬視線を感じたような気がしたが、聡子はそのまま雑談を続け、特に言葉を交わすことなく席に着く。あいつは女装した自分を彼女だと偽ったほか、あろうことかその彼女としてなに食わぬ顔で私たちと過ごしていた変態だと既にバラされているだろうか。周りの女子の反応からは読み取れない。だが、仮に今はまだバラされていなかったとしても、あのおしゃべりな聡子のことだ、いつ口外されてもおかしくはない。
その日は午前中に簡素な全校集会があったことを除けば、殆どいつもどおりのまま、気がつけば5限目を終えようとしていた。変わったことと言えば、久しぶりにクラスメイトと再会することから、休み時間中の雑談がいつもより多く飛び交っていたことくらいだが、特に話し相手となる人間のいない私にはあまり関係のない話だと思った。そう、聡子から嫌われようがそうでなかろうが、このクラスでの私の立ち位置は変わらないのだ。
「柊野くん、休み中なんか面白いことあった?」
話しかけられることなど微塵も想定していなかった私は驚いた。声をかけてきたのは聡子らと同じグループによく属している女子生徒、佐伯由実だ。テニス部に所属している彼女は運動部らしくショートカットに健康的な肌色をしている。明朗快活で愛嬌があり男女問わず好かれる、私とは正反対の人間だ。そんな人物がなぜ私に声をかけるのだろう。やはり聡子から事情を聞かされていて、その上で知らん顔をしてカマをかけているのかもしれないと、私はすっかり疑心暗鬼に陥っていた。
とはいえ、何も答えないわけにもいかない。面白いことという聞き方はいかがなものかとも思ったが、私はとりあえず、リッジモールの初売りに妹を連れて行ったらクラスの嫌な奴と遭遇して公衆の門前で喧嘩を始めた話をした。『お前の性癖の方がよっぽど面白いだろう』なんて罵言が返ってくるのを恐れたが、彼女の反応は思っていたより好意的だった。それも私を泳がせているだけなのかもしれないが。
「きゃはは、ウケるそれ。あれ、初売りって2日だよね? 柊野くんもいたんだ。その日ウチもいたんだよ、すれ違ってたかもしれないね」
あの人混みのうえ、白中ルナに扮していたのだから、あの時点で聡子が由実に口外していなければ、おそらくすれ違っていたとしてもまず気づかないだろう。というより気づかれていては困る。
「てか柊野くん、妹いたんだね。今何歳?」
「中一だよ。三つ離れてるから……13歳か」
「え、中一で一緒に初売り行けんの仲良いね。ウチもそれくらいの弟いるけど、最近くっそ生意気なんだよね。昔は可愛かったのに」
あのときは状況が特殊というか、普段なら一緒に買い物行こうなどとは絶対に言わなかっただろうから、彼女の言うことにも共感はできる。
「まあ思春期真っ盛りってよくわかんないしね。俺もそれくらいの歳だったら姉と出かけるとか恥ずかしいって思ったかも、姉いないからわかんないけど」
「きゃはは! なにそれ、結局姉いないんかい!」
由実がからからと笑う。面白いことを言ったつもりはなく、どちらかというと彼女の笑いの沸点が低いのだろうとは思うが、彼女が誰からも好感を得られる理由が少しわかる気がした。
「ぶっちゃけさ、柊野くん少し変わったよね。前はもう少しとっつきにくい感じだったもん」
そういえば杏からもいつだったか似たようなことを言われたような気がする。そんなことを話しているうちに6限目のチャイムが鳴り、教師が入室してきた。
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