第12話 依頼
「頼み事って?」
私はそう言って先程テーブルに届いたコーヒーを一口胃に流す。
「松橋千景っていう、私と同じ高校の生徒なんだけどね、そのコと仲良くしてほしいの」
全く想像していなかった方向性の頼み事に麻美の意図が飲み込めない。
「仲良く……って友達になれってこと? なんでまた?」
麻美も一口コーヒーを口にすると、一つ息を吐いて説明を始めた。
「そのコ、どうにも人間不信気味で……。高校の誰とも打ち解けないし、風の噂じゃストーカー被害にも遭ってるとかなんとか……。とにかく、このままだとどんどん悪い方にいきそうな気がして」
思っていた以上に事情は深刻というか重い案件のようだ。
「ええと、嫌だとかそういうこと言うわけじゃないんだけどさ、その役目私で大丈夫? ちゃんと本当の同性が寄り添った方がいいんじゃ……?」
「うん、それはもっともなんだけどね。あのコ、中学の頃に同じクラスの女子グループから虐められてたみたいで、そのせいかわからないけど、高校生になった今でも同性に対しても距離を置きがちで……私も何度か声をかけて見たんだけどさ、そもそもコミュニケーションを避けられてるような感じで……」
麻美は黙っていても目立つだろうし、高校内にはおそらく取り巻きもいるのだろう。パッと見はクールな印象が強いし、声をかけられても敬遠しているのかもしれない。
「同性にはイジメのトラウマがあって、異性はストーカーのトラウマがある……やっぱり私ダメじゃない? 役満じゃん」
「ちっちっち、逆に言えばどちらの条件も回避してるとも言えるでしょ? それにルナならなんだか大丈夫な気がするんだ」
麻美が人差し指を左右に振りながらウィンクして言う。私が言い出したことだ、最初から断るつもりもないが、一つ気になることがあった。
「うん……まあわかった、努力はしてみるよ。でも、どうして麻美はそんなにその千景ってコを気にかけてるの? 同じ高校の生徒ってだけじゃ……」
麻美はまた一口コーヒーを飲む。
「千景はね、昔近所に住んでた幼馴染なんだ。って言っても小学校の頃に親の仕事の関係で引っ越しちゃったんだけど。小中と別の学校だったからしばらく疎遠になってたんだけど、高校に入って千景も同じ高校にいるのがわかって声かけようとしてびっくりしちゃった。もとから元気はつらつってわけじゃなかったけど、それにしてもあまりに人が変わってて。目には光がないし、常になにかに怯えてるようなそんな態度になってて……」
そんな人間相手に私がコミュニケーションを取ることなどできるのだろうか。私が麻美や聡子とうまく話せていたのは彼女らのコミュニケーション能力あってのものだ。かつての幼馴染だった麻美でさえ避けられるのであれば私など門前払いではないか。不安要素しかないが、後ろ向きな気持ちを抑えて首を縦に振る。
「そういうことね、了解。ところで、どうやって知り合えばいいかな? 麻美も避けられてるんなら紹介してもらうわけにもいかないし……」
麻美は額に手をあてて呻る。
「そう、問題はそれなんだよね。仮に強引に連れて来れたとしても、それじゃますますあのコは壁を作ってしまうだろうし……」
そもそも紹介されたとして、気まずさが先行してうまく話せる気はしない。なにか知り合うに足る理由がないと、そう考えるのは私が人と交流するのが苦手だからだろうか。
「……ま、いいわ。なにかいい案が思いついたらまた連絡するから。今日のとこはそういうことを頼みたいと思ってるんだって、頭の片隅にでも覚えておいてくれれば」
間もなくして、注文していた料理が二人のもとへ届けられた。
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