第6話 朝食を食べる
翌朝目を覚ますと、さっそくセラからまた平目の刺身が食べたいと言われた。
一応一晩経っているので、昨日より多少美味しさは増しているだろう。
今回も1つだけ刺身にすることにする。
皿に盛った切り身を食卓へ持っていくと、既に朝食の準備が終わっていた。
テーブルの上には、パン、サラダ、炒られた玉子、蒸した芋のような物、ハムと思しき物、果実ジュース、ミルクが準備されていた。
パンに関しては焼きたてなのか、とても香ばしい匂いがした。
そして、そこに刺身皿を置く。何とも場違いな。
そこであることに気づく。朝食は3人分準備されていた。
既に王様とセラは食卓に着いている。もう1人はまだ見ぬ女王様の分か、それともリアの分なのか。
そんな風に思っていると、
「さぁ、ヒロトも座りなさい」
そう王様に言われた。
「え? 良いんですか?」
朝食については何か適当に釣って食べようと思っていた。
「ヒロトは大切なお客様ですもの」
セラにも促される。
「じゃ、じゃあ失礼します」
リアの分はいいのか、とか他の人はどうするのか、など気になる事はあったが、固辞しては礼を失する事になるだろう。そう思い素直に従うことにした。
「私達は別の物を食べる。貴様ごときが気にすることではない」
俺のそんな視線に気付いたのか、セラの後ろに控えていたリアがそう発言した。
「リ~~ア~~?」
そのリアの言葉遣いが気になったのか、セラがねめつける様にリアを見た。
だが、当のリアは気にする様子は無く真顔だ。
その態度に
「全くもう」
とセラがため息をつく。
「では、頂こうか」
王様のその一言で3人の朝食が始まった。
パンは、プレッツェルと編みこまれたパン――確かツォプフと言ったか――の2種類が用意されていた。
プレッツェルは細い部分はカリッとしており太い部分はモチモチとして美味しい。一方ツォプフはしっとりとしていて、バターの風味がとても良い。
炒られた玉子も、中にチーズが入っていてパンとの相性が抜群だ。ハムも塩味が丁度良く、これまたツォプフと一緒に食べると美味しい。
そこで有る事を閃いた。少し行儀が悪いかと思ったが、やらずにはいられなかった。
ツォプフを2つに割り、そこにサラダと玉子、ハムを挟む。
「うん、美味い!」
思った通り美味しい。
「ねぇ! ヒロト、それ、なぁに?」
さっそくセラが食いついてきた。
「これは、私の世界ではサンドイッチと言って、色々な具材をパンで挟むんです」
「私も食べたい! ねっねっ、ヒロト、作って?」
「ええ、分かりました」
まだ手を付けていないツォプフを取り、同じようにサンドイッチを作る。
それをセラに手渡すと、すぐに口いっぱいに頬張った。
「んん~~~っ! 美味しい~~~!」
その目はキラキラと輝いている。
「ほほぅ、まさかそんな食べ方が有るなんてな。どれ私も試してみようか」
王様は自らサンドイッチを作り、一口かじる。
「なるほど、別々に食べるよりそれぞれの味が混じりあって美味しさが増すな」
うんうんと頷きながら舌鼓を打っている。
セラの方はあっという間に完食していた。
「気に入っていただけたようで良かったです」
自分の世界では当たり前に有った物でも、やはり異世界となると無い物なのだなと改めて思う。
サンドイッチが無いという事は、カレーパンなんて無いだろう。そもそもカレー自体有るのかどうか怪しい。
チョココロネやメロンパンなど日本では当たり前にあるパンも、この世界には無いのかも知れない。
そんな風に考えていると、セラが刺身に手を伸ばしていた。
「ヒロト、ヒロト。あれ、頂戴」
恐らく山葵と醤油を催促しているのだろう。
「はい、どうぞ」
小皿に山葵と醤油を出してあげる。
「ありがとー」
そう言って、また山葵を多めに付けた刺身を口に入れる。
「うん、コレコレ。はぁ~、この刺激が癖になる」
そう悦に入っている。俺も山葵は好きだが、セラほど付けはしない。
このまま行くと山葵だけ食べだしそうだ。
そして同じように王様にも山葵と醤油を入れた小皿を渡す。
王様はセラとは反対に、ちょびっとだけ山葵を付けた程度だった。
「おお! 確かにヒロトの言った通り美味しさが増している。歯ごたえは昨日の方が有ったが、魚の甘みなどは今日の方が美味い。魚は新鮮な方が良いと思っていたが、どうやら違うようだな」
「そうですね、平目については熟成させた方が美味しいです。ただ、中には腐りやすい魚もあるので、全てがそう言う訳では無いですが」
「ふむ、そうなのか。魚は生で食べたことが無いから知らなかった」
王様が関心したように頷いている横で、セラがさらに山葵をチューブから絞り出し、一心不乱に刺身を食べている。
山葵の残りが気になる所だが、美味しそうに食べているので良しとしよう。
その後も色々と談笑しつつ朝食を取り、それぞれが朝食を食べ終えると、王様は公務のため離席し、セラも勉強のため席を立った。
俺はテーブルに置かれた山葵のチューブを手に取る。
やはり、もう残り少ない。この世界に来た時点で新品ではなく半分以上使っていたため、次で使い切ってしまうだろう。
「どうしたんだ?」
そんな風にぼんやりとチューブを眺めていると、リアに声をかけられた。
「ああ、もう山葵が残り少なくてね。この世界に山葵が有れば良いんだけど……」
「ふむ。そのワサビとやらは、どんな物なんだ?」
そうリアが尋ねてきたので、山葵の見た目や自生している場所などを伝えると
「ああ、それなら川の上流の方に有るな」
そう教えてくれた。
「本当か!? 良し、取りに行こう」
チューブの山葵も美味しいが、やはりすりおろした山葵には勝てない。
この世界の山葵がどういった物か分からないが、生の方が美味しいに違いない。
「まぁまて。貴様1人で行くつもりか? 町の外は魔物が出て危険だ。諦めろ」
リアにそう言われたので、王様に確認をするとリアを連れて行ってきていいと許可をもらった。
そして、その話をどこからか聞きつけたセラが一緒に行きたがったが、勉強をサボる訳にはいかないため、俺とリアだけで行くことになった。
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