十二回目には鐘が鳴る

俺氏の友氏は蘇我氏のたかしのお菓子好き

十二回目には鐘が鳴る

時を数えた、その先で――――――――











私と彼は二人だった。


何時私達が生まれたのかも、動き出したのかも分からない。


ただ気がついた時には二人がいて、動いていた。


私はのろまだったし、とても遅かった。

それに比べて彼はとても速かった。


彼は常に私の十二倍の速さで進み続けている。


私は何時も彼に会いたくて追いつこうと頑張るけど、追いつけたことはなく、出会うのは彼が私を追い越す時だけ。


ずっと動き続けて、休む日はないし、休む時もない。


私はそんな世界が少し嫌だけど、私よりも速く動いている彼はそんな世界を心から愛しているらしい。


私は、そんな彼を愛していた。


彼と私が出会えた回数は、やっと二桁になる程度だ。


ずっと私達は動き続けているから、会えるのは極偶にだし、会う時間もほんの刹那だけ。


私はそれも嫌だった。

でも今は、とても楽しみであった。


なぜなら、もう少しで彼に会えるはずだから。

今までの十回は全部一周の間には訪れた。


現在は十一周目の後半。


だから私がスタートラインに立つ前に、彼に会えるはずだ。


はずなんだ…………。


はずなんだよ………………。



そのはずだった……………………。




今までどおりのはず………………………。



十一周目が残り僅かになっても、彼と会えることはなかった。


私は止まりたいのに彼を待っていたいのに、動き続ける自分を心から憎んだ。


でもどんなに憎悪しても、私が止まれるのは彼が止まった時だけだから………。


でも逆に考えれば私が動いているうちは、彼も動いている。


つまりは、動き続けていれば彼と絶対に会える。


私は押し寄せる負の叫び声の波を遮断して、そんな幸せで楽観的な希望的観測のみを信じ、動き続けた。


ああもう、十一周目が終わるよ…………。

とうとう会えることなく十二に入ってしまう…。


何時もより速い………?


私は自分が速くなるはずがないのに、自分の鼓動を疑ってしまう。


カチンカチンカチン


異様なほどに変わらぬ音で響くそれが、今の私にはとても耳障りだった。


――終わる


とうとう終わりを告げる。

その瞬間は音もなく訪れるのだろう。


怖いよ……あなたに会いたいよ…………。

今までは……これまでの十一周は絶対に会えたのに…………。


ねぇなんでよッ!!!


私は叫べるはずもないのに、絶叫する。


キーーーーーーン


誰も聴くことのできない金切り声が響き渡ったその時。


ガーーンゴーーン、ガーーンゴーーン


そんな古びた鐘の音が聞こえた。


その音はさして大きくもないのに、私の叫び声なんかよりも何倍も遠くに、何倍もの人々に聞こえる。


色々な触媒の、色々な場所、色々な環境で、その音は等しく鳴り響く。


あぁそうか……。


私は溢れてきた、大粒の涙を零さぬように上を向いた。


鐘が鳴る前には、静寂の時が在るように、

私達が同時に走り出す前には、会えない時間が在るんだね。


私が一番知ってるはずなのに、すっかり忘れていたよ……。


堪えることなんて出来ない涙の雨を降らせながら、私は彼と共に、また次の日を刻み始めた。











――――――――永遠を刻み続ける、二本から

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