第3話 ちょとした事情聴取的な?

 そして、先の夢の話に戻る。

 それにしても、また、夢の話か。昼時に聞いた話と類似点があるような、そうでもないような。何とも言えず、もやもやする。


「その娘のことで、最近変わったこととかあるかい。夢を見始めた前後とかで」

 うぅんと首を捻る葉乃。

「特に事件めいたことはないかなぁ」

「虐めとかは?」

「ないない。あったらアタシが実力で粉砕してる」

 それもそうか。いや、いいのか、それ。


「そういえば、ずっと仲良かったけど、学年が上がって、クラスが別れてから疎遠になった娘がいるって聞いた事あるかな。喧嘩別れとかじゃなくて、それぞれ別に友達ができてなんとなく……て感じだったみたい。それも今更だけど」

 聞く限りでは関連性は薄そうだな。


「あ、思い出したッ」

 急に勢い込んで、にまにまと嬉しそうに。女子のこういう笑いは大抵……

「最近、誰かに告白されたって言ってた」

 愛だの恋だの、ホント、好きだねぇ。


「君はどうなの、告白したり、されたりないの」と聞くと、

「あ、アタシはないない」と焦ったように。

「アタシに告ってくる勇気のあるヤツなんていないよ」

 ふむ。

「そこは納得しないで欲しいな。アタシでも傷付くよ」

 そう言うならファイティングポーズは取らないで欲しい。

「好い娘なのにな」お世辞抜きに言うと、

「な、な、何言ってんのよ、おじさんのくせに、この変態ッ」

 そこまで言われることかね。おっさんでも爺さんでも、好いものは好いと言う権利はあるはず。


「アタシのことはいいのよ、あの娘とのこと。結局、その告白はお断りしたんだって」

「お友達からとかじゃなくて?」


「その娘ちょっと卑屈なところがあって、私なんかに勿体ないとかそういうこと言うんだよね。そんなことぜんぜんない、アイツなんかにアンタの方が勿体ないとか言うんだけどさ。まあ、どっちにしろ断って正解だと思ったら、それ以上は言わなかったけど」


「あんまり好いヤツじゃなかった?」

「悪いヤツじゃないと思うけど、偶になんか厭な感じで見てくることがあってさ。嫌うことはないけど、付き合う相手とは思えないかな」

 なるほど。


「でもそれで自殺したいなんて思わないでしょ。振られた相手ならともかく」

 それはそうだな。自己肯定感の低さは気になるけど、切欠もなく、いきなり自殺願望には繋がらないだろうし。


「あッ」何を思い付いてか、素っ頓狂な声を挙げる。

「もしかして、アイツが生霊になってあの娘を苦しめてるとか」

「そんな素振りでもあったのかい」

「そういうのはないかな。でもさ、こないだの件でも無意識だったわけでしょ」


 まぁ、確かに。人の無意識というのは案外、怖い。そして、根深い。

 それが言葉や態度に出さなくとも、誰かが誰かに対して思う気持ちが、その相手の心、自覚のない深層心理に影響を及ぼし、果ては感情を突き動かしたり、人格を変容させるようなことまで十分にありうる。その最も極端な例が、詛いだったり生霊だったりするわけだ。けれど……


「人を呪わば穴二つと言うだろ。平然と他人を呪える者なんてそう多くはない。大抵は、見るに明らかなほど変調を来す。見た目がおかしい、言動がおかしい、病的であるとかね」

「じゃあ、違うのかなぁ」

「多分ね。絶対じゃないだろうけど」


 極希に、平然と他人を詛い、他人を傷付け、殺してしまうことにすら躊躇いのないサイコパス的な者もいるにはいる。ソイツが当て嵌まらないなんて断言はできない。

「で、君はソイツを呪おうと思ってあの神社へ?」と窓の外の丘の方角を指す。あそこは「縁」に纏わる神サマをお祀りしている。結ぶも切るも。


「まさか。おじさんの顔を見るまで、生霊とか考えつきもしなかったよ」

 まあ、普通はそうか。

「あの娘が悪い夢を見なくなればいいなって、好い夢を見られますようにって。これも縁のうちじゃない」

 なるほど、やっぱり、この娘は好い娘のようだ。奢ってもらったハンバーガーを囓りながら、そう思う。

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