第15話 気持ちのいい日
普段通り肥づくり、厠掃除そして解体所で狩猟隊の獲ってきた動物を捌き終えた。
これまでと変わったのは、オチと呼ばれるようになり、身体を拘束していた縄を解かれたことだ。そして、縄が解かれたので、本日から新たに草刈りという仕事が加わった。
俺に対する村の警戒が弛んでいる今、脱走の頃合いか?脱走について考えながら草刈りをしていると、奇妙な格好をした人間が十人程やって来た。俺にとっては初めての村外の人間だ。彼等は族長がいる建物に丁重に案内されて行った。
何事だろうか?パッとしか見れなかったが、案内している村人達はかなり緊張しているようだった。この世界を知る手掛かりになるかもしれない。今日は彼等の動きをしっかり観察しなくてはならない。
〜族長の部屋〜
族長は会議を終えると簡単な朝ごはんを食べ、いつものように視察という名の散歩に出かけた。その後は、天気も良かったので小川で釣りをし、暇そうな村人と雑談がてら自ら情報を収集する。
村人と直接話をするなんて、ワシは話の分かる出来た族長である。
そんなことを考え、時折、ニマニマと気持ち悪い笑みを浮かべる。
昼は少しお腹が空くので、果物や木の実をすり潰し焼いたものを摘む。族長の好物だ。
そして昼寝。今朝は奴隷に名を与えたり族長会議と忙しく、朝も早かったので眠い。
直ぐにスヤスヤと寝息をたてながら気持ちよく寝ていると、村の男に起こされた。
「こんな気持ちのいい日に何事だ!わきまえよ!」
世界で最も尊重せねばならないワシの安眠を、たかが村人が邪魔するとは!勘違い野郎に厳しく喝を入れる。
「王都ラメルより使者が十二名参りました。もうじきこちらに到着します!」
「なに!?ラメルじゃと!一体何事じゃ?報告が遅いぞ!」
そんな一大事を「もうじき」だと!?ワシの耳に入れるのが遅いわ!
族長は寝起きでボーッとしている頭を、フル回転させた。何をすればいいんだ?
「お前はグレイドとダニエルを連れてこい。早くせい!」
自分を起こしに来た男に急いでグレイドとダニエルを呼びに行かせた。
それにしても、突然、ラメルからこんな村に使者が来る理由が分からなかった。
忌々しいラメル。ラメルとは森の外の平原にある王国である。
ラメルの東には大森林が広がっている。この大森林の奥に進めば進むほど恐ろしい魔獣が巣食っており、人間は森の奥に向かうことはできない。
だが、大森林の入り口付近では、比較的弱い魔獣しか出てこないため、複数の部族が村を作り暮らしていた。この部族は森に住んでいることから、森の部族と呼ばれている。この村も森の部族の村の一つだ。
元来、森の部族同士は仲が悪く、その支配領域を巡って数百年間、抗争が絶えなかった。森の外の人間からは、森の部族は常に激しい派閥争いを繰り広げる好戦的な部族で、内戦状態にあると見られていた。
だが、100年前、平原の王国ラメルが森への侵攻を開始すると状況が一変する。森の部族は共同戦線を張ってラメルに対抗したのだ。
平原から侵攻する外敵により、始めて森の部族が一つになったのであった。
平原で力をつけたラメルと抗争続きの森の部族との間には大きな戦力差があった。だが、森の部族は地形を活かしたゲリラ戦を仕掛け、数十年間に渡りラメルの侵攻を食い止めることに成功した。
しかし、それにも限界が訪れる。そもそも国力はラメルの方が圧倒的に大きく、また、ラメルは他国との交易により軍の装備を常に更新し続けてきた。森の部族の地の利を活かす戦法には限界がある。
ついに、ラメルと接している森の部族は降伏し、ラメルに絶対の忠誠を誓うこととなったのだ。
ラメルの使者は面倒しか起こさないが対応しないわけにはいかない。どうやら最悪な一日になりそうだった。
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