第14話 労働の対価
「ふぁー!」
そろそろジェイクが来る頃だろうから扉の方に移動しとくか。
奴隷となり二週間が経った。カレンダーがないので、毎朝起きると部屋の壁に傷を付け日数をカウントしている。
ソウルプレデターのお陰で窮地を脱することが出来た。村人達の予想に反し、傷は癒え、仕事も率先して真面目にこなしている。
相変わらず飯は硬いパン一切れだ。それなのに不思議なことに生きている。少食で頑丈、真面目で使える便利な奴隷。それが俺に対する周囲の認識だった。
その対価が生存である。
俺の能力は順調に伸びている。狩猟隊が獲物を一匹も取れず、坊主だった日はあの一日だけだった。それ以外の日は数匹は取れていた。
昨晩の俺のステータスはこんな感じだ。
浦木誠
ベース:ヒューマン lv1
体力:1、腕力:1、脚力:1、眼力:1、魔力:1
保有スキル:
ソウルチャット、ソウルプレデター
この部分は変化なし。相変わらずベースはクソ弱いヒューマンだ。
ソウルポイント:50
猪:7、鹿:12、キジバト:31
体力:71、腕力:68、脚力:79、眼力:120、魔力:50
ソウルスキル:
気配探知MAX、自然治癒力MAX 、薬草学MAX、飢餓耐性MAX、忍足MAX、夜目MAX、度胸7
疾走MAX、鳥の目MAX
こっちは良い感じで伸びている。もはや殴られても痛みは感じない。刃物で刺されたらどうなるかは試していないが。
そろそろ次の段階に移行する時期にきている。俺の任務は家族を救うためにこの世界の教皇とやらを殺すことだ。確かに、ソウルプレデターのスキルがあれば何とかなるかもしれない。ある程度強くなったなら目的に向かって行動を起こすべきだ。そうしたいのは山々だが、具体的にどう動けば良いのかが見えてこない。
「おい、起きているか!早く出てこい!」
ジェイクが扉の前に置いてある重しの岩を動かしながら話しかけてきた。今日はいつもより早い。
「はい、ただ今出ます!」
俺は、部屋の中から力を入れすぎないように慎重に扉を持ち上げた。
「臭えぞ!」
ジェイクが早速、俺の鳩尾にオハヨウの拳を叩き込んできた。
もはや何の痛みも感じない。腹を優しく叩かれた気しかしない。だが、しっかりと受け止めて、普段通り呻き声をあげて屈み込んだ。
「おい、早く立てよ。臭え、トロい、使えない。これだから奴隷の相手は嫌なんだよ。ペッ!」
ジェイクは苦しそうにしている俺の姿を見ていい気になり、頭から唾を浴びせてきた。
「まったく。今日はお前に取って素晴らしい日になるからシャキッとしろ!ほれ、族長様の所に行くぞ!」
「族長様の所ですか?」
初耳だ!何故族長の所へ?嫌な予感がする。
「何口答えしてんだ!お前はハイしか喋るんじゃねぇ。ハイ、ジェイク様だろうが!」
ジェイクはうずくまっている俺をサッカーボールのように蹴飛ばしてきたので、蹴りをくらい俺は倒れる振りをした。
「あ、ありがとうございます。ハイ、ジェイク様」
仰向きになりながらか細い声をあげる。まるで役者だ。演技がどんどん洗練されていく。
「コラ、寝てんじゃねぇぞ。行くぞ」
そう言うと、ジェイクは俺の首に巻かれた縄を拾い上げ、族長の元まで引っ張っていった。
−−−
「族長様!ジェイクです!奴隷を連れて参りました!」
族長のいる建物は、村の中で一番大きく目立つものだった。裁判の時と同様、この建物の中は香が焚かれており、ここが村の中で特別な場所であることが分かった。解体所と同じく神聖な場所なのだろう。
族長は、部屋の奥の一段高い場所にあぐらをかいて座っていた。一段下がった場所に狩猟隊長のグレイド、解体所長のダニエルが族長の左右に座っていた。
今日は鞭とハンマーを持った男はおらず俺はホッとした。どんなに体力がついても皮膚を鞭で殴られたら痛いだろうし、頭に重たいハンマーを落とされたら死ぬかもしれない。考えていたら恐怖が蘇ってきた。
「どうだ?まだ記憶は戻らないか?」
族長はダミ声で尋ねた。
「はい。未だ名前すら思い出せません…」
本当は思い出している。俺の名は浦木誠、異世界人だ。説明する気はサラサラない。
「思い出すつもりはあるんだろうな?まあいい。お前の肩に刻まれたポロン村の刻印。お前は誇り高きポロンの所有物だ」
そういえば、この村に囚われてすぐの頃、右肩に焼印を押された。火傷の跡はクッキリと残っている。色々ありすぎて忘れていたが。
「はい」
沈黙が場を支配する。喋って良いものかよく分からない。
族長がカッと目を見開いた。
「解体所長ダニエル!このモノを何と見る?」
「解体の腕はそこそこ。肥料にするのは惜しいですぜ、族長。死ぬまでコキ使いましょう!」
「合格!貴様を正式にこの村の奴隷とし、受け入れることとする!これまで以上に村の為に必死に働いてもらう。働かぬタダ飯食いに生存権は無い、死ぬまで働け」
ただ飯と言われても、一日働いてパン一切れである。労働の対価としては最悪だ。しかも俺はこの村でただ飯が食いたいわけじゃない。出来れば解放して欲しいのだが…。
「それではこれからお前に名を与えよう。そうだな、、、お前は森に落ちていた物、すなわち、オチ。相応しい名だ。」
「ありがとうございます」
俺は頭を下げた。
「もう良い。行け。記憶を取り戻したらワシに全て報告しろ。さもなければ殺す」
族長が手を振ると、ジェイクが頭を下げ俺を外に引っ張って行った。これからいつも通り仕事だろう。
「よし、グレイド隊長、ダニエル所長これより族長会議を始める。両者報告を…」
俺達が建物を出る前に残った三人は会議を始めたようだ。さて、俺はこの世界でオチという名前を貰ったが、これからどうしたものか…
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