第12話 Soul Book
「うん、ここは…」
起き上がり見渡すと、そこは黒衣の骸骨と相まみえた漆黒の森の中だった。
村での一日を終えた俺は、再び竪穴式住居のような建物に閉じ込められ、固い一切れのパンと水を与えられた。それでも久しぶりの食事だった。少しづつ噛み切り水で流し込んだ。
少しでも体力を回復しなければならない。すぐに地面に敷かれた藁の上で横になる。空腹と痛みで中々寝付けなかったが、いつの間にか寝てしまったようだ。
しかし、最近、同じような夢ばかり見るな…
焚き火にくべてある木がパチパチと音を立て弾けている。昨晩は、焚き火の向こうに転がっている丸太に黒衣の骸骨が座っていたが、今夜は姿が見当たらない。
「何だあれは?」
丸太の上、昨晩、黒衣の骸骨が座っていた辺りに何か置いてあった。焚き火を回り、近づいていくと分厚く古ぼけた黒いカバーの本が置いてあった。
表紙には金文字で Soul Book と書かれている。ソウルブック、魂の本?何だこれは?
表紙を捲る。
浦木誠
ベース:ヒューマン lv1
体力:1、腕力:1、脚力:1、眼力:1、魔力:1
保有スキル:
ソウルチャット、ソウルプレデター
何だこれは?俺の能力を数値化しているということか?まるでテレビゲームみたいだな。しかし、全てのステータスが1というのは解せない。バラつきがあっても良さそうだが。というか、このステータスが本当なら俺はどれだけ弱いんだ?
更にページを捲る。
ソウルポイント:5
猪:1、鹿:1、キジバト:3
体力:8、腕力:8、脚力:9、眼力:11、魔力:5
ソウルスキル:
気配探知5、自然治癒力5、薬草学3、飢餓耐性3、忍足2、夜目2、度胸1
疾走3、鳥の目3
これは…今日、解体所で解体された動物達だった。どういうことだ?
そういえば、死体から出ていた湯気のような白い煙、俺が死体に近づくと湯気が俺の身体に吸収されたような気がするな。
あとは…なんだ、黒衣の骸骨の言っていた特別なスキル、ソウルプレデター。直訳すると「魂の捕食者」か?英語は苦手だから自信がないけど…。
それらを勘案すると、俺は意識せずにスキルを使って死体から魂を捕食し、このソウルブックには捕食した魂のデータが記載されるということか。
そんなことあり得るのか?愚問だ。絶対にあり得ない。
だが、そもそも俺の身に起こっているあらゆる状況がおかしいのだ。あり得ないことだらけだ。
考えたくもないが、俺の家族の命もかかっている。
異常に慣れなくてはならない。馬鹿げたことだとか、非常識だとかで世界を否定するのではなく、素直な気持ちで世界に順応するのだ。
俺にとって今確かめなければならないのは、このソウルブックに書かれている、追加的な能力をどうやって引き出すかだ。
特に重要なのは、薬草学と自然治癒だ。薬草学は山の中で食べることができる山菜を見分ける力なのだろうか?確かに、野の獣は自然の中から食べれる物を探しているからそういったスキルが得られるのかもしれない。
それから自然治癒力だ。これも、過酷な環境で生きる野の獣には必要な力だ。
これらがあれば、俺の傷を癒やし、生きていくための糧を得られる可能性が高い。
どうやってスキルを使用するかを知るために更に本をめくる。
次のページには猪の生について詳しく書かれていた。
繁殖では複数の子が生まれ、好物の竹の子の何とも言えない味わい、沼田場と呼ばれる場所で泥を身体中に塗る快感、そして無用心から村人の仕掛けた罠にかかり殺された無念。
猪の充実した生が何ページにも渡り、ありありと再現されていた。
本を読み進めていくと、鹿とキジバトについても、猪と同じくその生と死が再現されていた。
だが、この本には肝心なことが書かれていない。俺が知りたいのは猪や鹿の生態ではなく、どうやって能力を引き出すのかだ。
突如、漆黒の森の中を突風が走り抜けた。木々がザワザワと音を立て、俺は驚いて身をすくめた。
風が止んだ。改めて周囲を見渡す。焚き火の光の先は、深淵を感じさせる深い漆黒が拡がっている。夢とは言え、とても歩いて行ってみる気にはなれない。
そう言えば、このソウルブックを手に取ってどのくらい過ぎただろうか。貪るように本を読んでいたため、時間の感覚を失っていた。ここには時計がないから時間の確認をしようがない。そもそもこの世界に正確な時間の概念があるのだろうか?
ここは俺の夢の世界だ。どうやったら現実の世界に戻るのだろうか?
これまでは黒衣の骸骨に殺されると元の世界に戻っていた。だが、今回、黒衣の骸骨はいない。
現実の世界でソウルプレデターというスキルを調べる必要がある。ここで寝てみるか?
ソウルブックを抱え、座っていた丸太に横になるが、丸太は硬く首から上が痛い。
仕方がないのでソウルブックを枕がわりにし、ボンヤリとこれからのことを考えながら焚き火を見ているといつの間にか眠っていた。
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