第10話 公園の防犯灯
「教皇殺し、やるよな?」
黒衣の骸骨には目はないが、窪みの中に広がる黒い虚空は俺を捉えて離さない。まるでこちらの思考の全てが絡め取られているかのようだった。
「私に選択肢があるとしたら、教皇を殺すか、今死ぬかでしょう…一つだけ教えて下さい。教皇を殺したら、元の世界で生き帰ることが出来るのでしょうか…」
どうせ承諾するしか生き残る道はないのだ。拒否すれば殺されるだろう。だが、ここで生き残っても、元の世界に戻れないならいっそのこと死んでしまった方が楽かもしれない。
「浦木君、真面目にやってもらわないとこちらも困るよ。君は本気で教皇を殺さざる得ない。なぜなら、失敗したら君の家族も死ぬのだからね」
俺の家族が死ぬだと!?あり得ない。
「ふざけるな。家族は関係ないだろ、手をだすな!」
俺は思わず立ち上がって叫んだ。
「俺は何もしない。君の家族を殺すのは君を殺した男だ」
黒衣の骸骨はクツクツと笑った。
そうだ、俺を殺したのはどこのどいつだ?犯人はどうなったんだ?
俺はあまりの絶望に地面に突っ伏してしまった。
「何故…。俺を殺したのは誰なんだよ?犯人は、捕まってないのか…?」
「お前を殺した男のことは知らん。どうでもいいからな。俺とお前にとって重要なのは、あの男はいずれお前の家族を殺しに行くということだろう?ついでに教えてやるが、お前の家族が殺されてようやく犯人は捕まる」
はらわたが煮えくり返った。
「ふざけるな!俺が毎月どれだけ税金を払ってきたと思ってんだ!さっさと捕まえてくれよ」
涙が止まらない。
「可哀想にな…。だが安心してくれ、犯人は直ぐには捕まらないが、お前が殺されたことで公園の安全対策が見直され、防犯灯が増設される。お前の納めた税金は有効に利用され、これからは誰もいない公園の夜が明るくなる」
俺の死を教訓にして公園の防犯灯だと!?
「ふ、ふざけるな!!!」
「教皇を殺したらお前の家族の運命を変えてやる。だが失敗したら、お前の家族は死ぬ。どうだ、教皇殺し、引き受けるかい?」
「保証はあるのか!俺が教皇を殺したら家族は助かると!」
「おい、調子に乗るなよ。俺の言葉が信じれられないならやらなくていい。お前はこの世界でじきに死ぬし、以前の世界に残してきた家族も間もなく死ぬ」
黒衣の骸骨の話は到底信じられるものではない。だが、既に俺には常識外のおかしなことばかり起こっている。家族を守るためにはやるしかない。
「分かった、やる。だけど…」
「やらせて下さいだろ?教皇を殺させて下さいと言え」
黒衣の骸骨は絶望に打ちひしがれている俺をおちょくって楽しんでいやがる。
「教皇を殺させて下さい。ただ、私は人を殺したことなんてないし、この世界では殴られてもう死にかけです。一体どうやって教皇を殺せばいいんでしょうか?」
「安心しろ、この世界で生き抜くために特別なスキル、ソウルプレデターをお前に与える。教皇を殺すチャンスもある。もうすぐこの世界に勇者が誕生する。お前は勇者を補佐して魔王を倒させろ。教皇は魔王を倒した勇者に必ず接触するからそこで奴を殺せ。チャンスは一度きりだ」
「なんだ、そのソウルプレデ…」
「時間だ。健闘を祈る」
腹部に焼かれるような熱さを感じた。気づくと、焚き火の向こうの黒衣の骸骨から、細長い骨の尻尾伸びだしており、俺の腹を貫いていた。耐えきれない痛みに俺はすぐに意識を失った。
〈目次に戻る〉
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます