第5話 ソウルチャット

無遠慮にドカドカと複数の人間が近づいてくる足音で目が覚めた。いつの間にか寝てしまったようだ。一体どれくらい寝ていたのだろうか?


安心感で深く寝てしまったようだ。目覚めると今度は空腹感に襲われた。そういえば、昨日から何も食べていない。


両手、両脚が縛られて動けず、目隠しをさせられて何も見えない俺は、そのままの状態で何者かかの肩に担ぎ上げられ、何処かに運ばれた。


どうやら、別の建物まで運ばれたようだ。再び地面に乱雑に転がされた。


俺に人権は無いのだろうか?無いんだろうな。


男達が何やら話し合っている声が聴こえるが、相変わらず意味は分からない。俺にとってはよからぬことを話しているのだろう。 


ここは本当に日本なのだろうか?日本だとしたら何故彼らは日本語を話さないんだ?理解できない。


山奥を根城にしている外国人グループに捕まってしまったのだろうか?


日本の山奥にそんな組織があるなんて聞いたことが無い。。。それとも、まさかここは外国なのか?


そんなことを考えていると、また男が怒鳴り声を上げた。


「ほだがでみーあ、がーあーあ、あらぽっちゃ!」


一体何を喋っているのだろうか?何を言ってるか分からない。意図が伝わってないことを示すため、首を振った。


「ほだがでみーあ、がーばぁーが、でらばっちゃ!」


男は怒ったように、先程より大きな声で同じような言葉を発した。


しまった。どうやら、この男は俺に、何か指示を出したが、俺が首を振って男の指示を拒否していると思われたのか?


どんなに大声で話しかけられても、言葉が理解できないので、何も通じない。単純な事実を伝えたいのに、伝える方法がない。


険悪な雰囲気の大声に、怖くて身体がすくんでしまった。そんな俺の顔面を、男が力強く殴りつけた。


痛みで息ができない。一発で鼻血が出た。鼻の骨が折れたかもしれない。


「ほだがでみーあ!がーべがーあ、ばらばっちゃ!!」


「は、はい!」


これ以上殴られたくなくて、返事をしながら首をガクガクと上下に動かした。鼻血がダラダラと口元を伝わった。


情けない俺の姿を見ているのだろう。男達がゲラゲラと笑った。


突然腹を思い切り蹴られ、うつ伏せにさせられた。そして男が一人、うつ伏せになった俺の背中に飛び乗ってきた。息ができない。


「うぅーーー」


声にならない唸り声を上げる。


「がーあーば、あらぱっちゃ!!」


「は、はい。。。」


何が何だか分からないが、とりあえず同意を示すため返事をする。


「ぐれでぃ、もるぼーだ!」

「がるがん、がんぐるーだ」

「もっこりっそ、がるぼーげ」


男達はゲラゲラと笑いながら大声で何か話している。当然だが、話の内容はさっぱり理解できない。


「ぐぎゃーーーー」

背中、右肩の辺りにこれまで感じたことのない激痛が走った。あまりの痛さに体がエビゾったが、屈強な男達にキツく抑え込まれた。


ジュージューと肉を焼く音で、俺の背中が焼かれていることが分かった。


焼印。。。猿轡をギュと噛み痛みに耐える。涙がトメドナク溢れた。


暫く激痛と闘っていると、再び担がれ運ばれた。おそらく元いた場所に戻されたのだろう。


乱雑に地面に転がされる。


顔を殴られ、腹は蹴られ、背中に馬乗りにされ焼ごてを当てられた。傷害罪だ。医師の診断書がいる。


俺を縄で拘束するのは監禁だ。監禁罪、そんな法律があったと思う。あればそれにも該当するだろう。


ファーストコンタクトでは、矢尻に薬を塗った弓を射られた。尻に命中したとはいえ、殺人未遂に該当してもおかしくない事案だ。弓がボーガンなら銃刀法違反に該当するかもしれない。


ついでに言うと、あの罠は鳥獣保護法違反だ。


法律のことはそんなに詳しく無いが、思いつくだけでもこれだけ違反している。もしこの事実がメディアに明らかになったら、日本中が暫くこのニュースでもちきりだろう。


だが、順法精神を持ち合わせてない奴等に対し、法律は無力だ。ここには警察もいない。残念なことに、法律は何の抑止力にもなっていない。


世論ならどうだ?流石にマスコミは恐れているのだろうか?しかし、取材なんてしたら、カメラごと持ち物は全て奪われ、聞いたことが無い言語でまくし立てられ、裸にされて縄でキツく縛られた上、最後は殺されるだろう。


ここはマジでやばい。


俺がまだ生かされているのはなぜた?身代金でも取ろうとしているのだろうか?だか、どうやって警察にこの場所がバレずに身代金を受け取気なんだ?不可能だ。一体奴等は何を考えているのだろう?


だんだん、警察にも腹が立ってきた。こんな危険な犯罪者集団を野放しにしているとは!日本の警察は使えない!


税金を毎年いくら払ってると思ってんだ!まぁ税金は給料から勝手に引かれてて、いくら払ってるかは知らないんだけどな。


ただ、内心いくら腹がたっても、それを表に出すことは出来ない。対応を間違えるとマジで奴等に捻り殺される。 


アイツらは人を殺すことを何とも思ってない。それは確信を持って言える。奴等には人を殺すことに対する心理的な抵抗感や嫌悪感などない。ゼロだ。最強すぎる。


腹が減って思考がまとまらない。イライラする。


ここから逃げなければならない。だがどうやって?例え逃げられたとしても、水がなければ、再び森の中で地獄の苦しみを味わうことになる。


だが、ここで生きていくのも難しそうだ。野蛮で暴力的かつ意思疎通が出来ない。


水を一度与えられただけで食事はまだ与えられていない。


どうすればいいんだ。


そんなことを何度もグルグルと考えていると、いつの間にか眠ってしまった。


ーーー


気づくとまた森の中にいた。


あー、俺はアイツらから逃げ出したのか。


周囲を見渡す。自由だ。目隠しもされていない。


だが喜びは長く続かなかった。薄暗い。夜が来る。ヤバい!


隠れないと!


急いで茂みを探し、その裏に隠れ縮こまった。


どうかバレないでくれ。


森が暗闇に包まれる前に隠れることができた。きっと大丈夫だ。


徐々に太陽が沈み、やがて漆黒の闇へと包まれた。


緊張を解き、背後の木に体重を預ける。


そのときだった。耳元で何者かの息遣いを感じた。


いたのだ。木の裏側に。奴はここに俺が隠れることを知っていたのだ。殺される。恐怖で硬直して動くことがてぎない。


「コンバンワ」


奴が背後から話しかけてきた。緊張で脂汗が噴き出す。逃げなくては。


「コンバンワ」


再び、話しかけてきた。もう逃げることは出来ない。


口の中がカラカラで話すことが出来ない。俺は一度頷いた。


「コンバンワ」


コイツ、こんばんわしか言わない。それがプレッシャーだった。何がしたいのか全く分からない。


再び俺はゆっくりともう一度、頷いた。


「コワイノカイ?」


死ぬほど怖い。頷いた。


「コワクナイ。コワクナイ」


そういうと、奴は背後から俺の耳に、ゆっくりと息を吹きかけた。


たったそれだけで俺の背筋が凍りつくには十分だった。


「ネッ、コワクナイ」


いや、怖いよ、普通に。我慢の限界だ。気が狂いそうだ。コイツはヤバい。


「ネッ、コワクナイ」


同意を求めているのか?だとしたら頷くしかない。俺は首を動かすことに意識を集中させた。そうしなければ恐怖で首すら動かない。本能が俺に頷かなければ殺されると訴えかける。


「アァー。ヨカッタ。ソレデヨカッタ」


何が良かったんだ?


「シナナクテスンダネ」


恐怖で震えが止まらない。意識が飛びそうだ。


頷かなければ死んでいた。何なんだコイツは。


「オマエニハコレヲヤロウ」


えっ?突然背中に焼きごてを当てられた。


熱い、痛い、熱い!焼かれたんじゃない、刺されたんだ。


俺、死ななくて済んだんじゃないのか?アイツが何か呟いている。だが聞き取れない。意識が飛びそうだ。


「ソ…ウ……チ…ト」


そこで俺は限界に達した。


〈目次に戻る〉

https://kakuyomu.jp/works/16816700427207084097



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る