第3話 生と死の狭間
周囲が薄らと明るくなるとともに早速行動を開始した。
一晩中、無理な姿勢で暗闇に潜むであろう猛獣に脅え、縮こまり、蚊に纏わりつかれたため体はヘトヘトだ。
喉の渇きは限界を超え、気分が悪く頭痛がする。
生命の危機。自分に残された時間は後僅かだ。
どこか、この極限状態における生存を諦め始めた自分もいた。死ねばこの苦しみから解き放たれるのだろうか。
どうあがいても生きられないなら、いっそのこと早く楽になりたい。
それでも僅かな可能性にかけて、生き延びるために立ち上がり歩き始める。やれることがあるうちは、苦しくてもやれるだけのことをやろう。
もう少し歩けば水にありつけるかもしれない。僅かな希望に縋り付く。
まだ周囲は薄暗く歩きにくいが、日が登ると暑さで余計に体力を消耗してしまう。少しでも生き延びる確率を上げるために、ふらふらと木に寄り掛かりながら足を一歩一歩前に出し続ける。
立ち止まれば最期、もう歩く気力も出てこないだろう。疲れからもう倒れたいという願望と、立ち止まると確実に死ぬという恐怖が極限状態で攻めぎあう。
何とか足が動いているが、限界は近い。
瞳の焦点は合わず景色が二重、三重に見える。ゆらゆらと揺れながら、それでも足を前に出す。
その時だった。突然地面が大きく揺れた。バキバキと木の枝が何本も折れる音とバサバサと激しく木が揺さぶられる音に、朧気だった意識が瞬時に覚醒する。
視界がグルグルと気持ち悪くなるほど回る。無理な姿勢で宙にぶら下げられた。
縄、いやこれは網か?網が身体を締め付ける。
これは、、、罠?
誰がこんな罠を設置したのだ?こんな大掛かりな罠を?一体こんな罠で何を捕まえつもりなんだ?
身体が網に絡め取られ、首を動かすことも出来ない。呼吸をするにも苦しい姿勢だ。
こんな罠は違法だ。猪や鹿を捕まえるなら、普通は足をくくる縄か、餌を設置した鉄の檻を使う。
そして人が誤って怪我をしないように、罠が設置してあることを警告する標識を目立つように掲げなければならない。
歩いている時はヘトヘトで思考も纏まらなかったが、今は妙に思考がクリアだ。
身動きできない以上、罠を設置した人間が見回りに来るのをただ待つしか無い。
喉はカラカラ、おまけに無理な姿勢で宙吊りにされているこの状態では、1時間ももたないだろう。恐らく、自分は罠を仕掛けたハンターに死体で発見される。
こんな山奥に違法な罠を仕掛ける人間だ、死体は埋めてしまうだろうな。
再び朦朧とし始めた頭でボンヤリと考えた。もはや打つ手はない。いよいよ諦める時が来たようだ。
目を瞑りボンヤリとしているとガサガサと音がした。まさか罠を仕掛けたハンターがタイミング良く戻って来たのか?助かるかもしれない!
宙ぶらりんにされて相手の顔は見えないが、複数人がこちらを見て何かギャーギャーと話しているようだ。何と言っているかは聞き取れない。
生きていることを分からせるため助けを求める。か細い声しか出ない。必死で身をよじりモゾモゾと身体を動かし、生きてることをアピールする。
とにかく助けて欲しい。水だ。早くここから降ろして、水を飲ませろ。
助けてくれたら勿論、この違法な罠のことは警察には黙っておくつもりだ。命の恩人を陥れることはしない。できる限りの謝礼もする。
だから早く助けてくれ!
そんなことを考えていると、ヒュ、と何かが飛ぶような音がした。突然、尻が火をつけられたかのように熱くなった。
尻に火がつけられたのか?反射的にモゾモゾと尻を振ると、尻に激痛が走る。
「ゔぁぅぅぅあー」
余りの痛さに叫びたいが声が出ず、苦悶の声を上げる。もしかして、尻に矢を射られたのか?
相変わらず何を言っているかは分からないが、ハンター達がギャーギャーと騒いでいる声が聞こえる。煩くて不快だ。
もう矢は撃ってこないだろうか?それとも、また矢を撃たれるのだろうか?
どちらにせよ、俺はここで死ぬんだな。再び意識が混濁し始め、そのまま気を失ってしまった。
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