第358話 即心是仏その九 即心是仏についての問答②

 「師曰、「若然者、与彼先尼外道、無有差別。彼曰、我此身中有一神性、此性能知痛癢。身壊之時、神則出去。如舎被焼舎主出去。舎即無常、舎主常矣。審如此者、邪正莫辦

孰為是乎。吾比遊方、多見此色。近尤盛乎。聚却三五百衆、目視雲漢、是南方宗旨。把他壇経改換、添糅鄙譚、削除聖意、惑乱後徒、豈成言教。苦哉、吾宗喪矣。若以見聞覚知、是為仏性者、浄名不応云法離見聞覚知、若行見聞覚知、是則見聞覚知非求法也(師曰く、「し然らば、彼の先尼外道と差別有ること無けん。彼が云く、「我が此の身中に一の神性しんしょう有り、此の性能痛癢つうようを知り、身壊する時、しん則ち出で去る。舎の焼かるれば舎主出で去るが如し。舎は即ち無常なり、舎主は常なり」と。しんすらくはかくの如きは、邪正辦べんずるなし、いかんが是とせんや。吾れそのかみ遊方ゆほうせしに、多く此のしきを見き。近尤いまもっとも盛んなり。三五百衆を聚却あつめて、目に雲漢うんかんて云はく、「是れ南方の宗旨なり」と。の壇経をって改換して、鄙譚ひたん添糅てんじょうし、聖意しょういを削除して後徒こうとを惑乱す、あに言教を成らんや。苦哉くさい、吾が宗喪ほろびにたり。若し見聞覚知を以てこれを仏性とせば、浄名はまさに「法は見聞覚知を離る、若し見聞覚知を行ぜば是れ則ち見聞覚知なり、法を求むるに非ず」と云ふべからず)」。

 南陽慧忠禅師は言った「もしそのようであるならば、先尼外道(仏教ではない考え方)と何の違いもない。先尼外道の言うことには「自分のこの身体の中に一つの神性がある。この性は痛いとか痒いを知ることができ、身体が滅ぶ時、神は身体から出て去る。家が焼けた時家の主人が家から出て去るようなものだ。家は無常だが主人は常である(不変不滅である)」。考えるならば、このような考え方は正しいか間違っているかについてきちんと取り扱えていないのだ。どうしてそのような考え方をよしと言えるだろうか。私がかつてあちこちを旅していた頃、多くのこのようなことを説く者に出会った。近頃はこのような考え方がもっとも盛んになっている。三百、五百というような大勢の人たちを集め、天の川を仰ぎ見て言うことには「これが南方の考え方の重要なところだ」と。あの六祖大鑑慧能禅師の伝記とされる壇経を取り上げて色々書き換え、卑俗な話を付け加え、大鑑慧能禅師の真の教えを削除してこれから仏教を学ぼうとする人たちを惑乱している。そのようなことでどうして教えを言葉で伝えることができようか。苦々しいことだ。釈尊直系の我々の教えは滅びてしまったことだ。もし見聞覚知を仏性だと言うのなら、維摩詰ゆいまきつ維摩居士が「法は見聞覚知を離れている。もし見聞覚知を実際に行うのならばそれは見聞覚知であるにすぎない。法を求めるものではない」と言うはずがない。」」

 維摩詰とは釈尊の在家の信者で仏教についての理解がとても深く、釈尊の出家の弟子からも一目置かれていた、畏怖されていた人物だそうだ。維摩居士の言っていることは見たり聞いたり感じたりするのはそういう事実があるということであって、心=性=神性=仏とは関係無いということだと思う。

 六祖大鑑慧能禅師についてちょっと書いておく。釈尊直系の教えはインド(西天)で第一祖摩訶迦葉が嗣ぎそれから二十八祖菩提達磨に嗣がれていく。菩提達磨は中国に渡り中国(震旦)の初祖となる。そこから六祖大鑑慧能禅師に法が嗣がれていく。

 南陽慧忠禅師は大鑑慧能禅師から法を嗣いだ方である。釈尊直系の方である。その方が、心=性=神性=霊知・霊魂=仏は不変であり身体が滅んでも心は永遠不滅であるとするのは仏教の考え方ではないと否定されている。

 しかし当時もこのような考え方が仏教であるとされ、それが盛んであったようだ。さらに仏教ではない考え方の根拠として六祖大鑑慧能禅師の伝記と言われる壇経が換骨奪胎されて使われていたという。南陽慧忠禅師は苦々しく釈尊の教えが滅んだとおっしゃっている。

 今の世の中でも経典について訳のわからない、とんちんかんな解釈をして人を惑わしている人間がたくさんいるようだ。気をつけないといけない。

 この後道元禅師が解説をされる。

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