第232話 仏性その七十六 人天を惑乱する

 「龍樹未廻心みういしんのさき、外道げどうの法にありしときの弟子おほかりしかども、みな謝遣しゃけんしきたれり。龍樹すでに仏祖となれりしときは、ひとり提婆を附法の正嫡しょうちゃくとして、大法眼蔵だいほうげんぞうを正伝す。これ無上仏道の単伝なり。しかあるに、僭偽せんぎの邪群、ままに自称すらく、「われらも龍樹大士の法嗣ほっすなり」。論をつくり義をあつむる、おほく龍樹の手をかれり、龍樹のぞうにあらず。むかしすてられし群徒の、人天にんでんを惑乱するなり。」

 龍樹尊者がまだ仏教に転向しておらず仏教以外の考え方であった時の弟子は多かったけれども、仏教に出会ってからそれらの弟子とは離れた。龍樹尊者が仏教とは何かがわかり仏祖となった時にはただ一人迦那提婆尊者を教えを伝える正しい後継者として偉大な法を伝えた。これが最高の仏道が伝わったということである。そうであるのに自分をわきまえない偽物の者どもは往々にして「自分たちも龍樹尊者の法を継いだ者だ」と自称する。龍樹尊者の名を借りて文書を作っているが、龍樹尊者のものではない。その昔龍樹から見放された者どもが人間界、天上界を惑乱するのである。

 世の中には怪しげな奴が一杯いる。なんだかもっともらしいことを言う。有名な人から教えを受けたとか、有名大学を出たとか、色んなことを言う。

 あるいは金儲けに成功しただけなのに人間として優れているかのように威張る人間も一杯いる。人間としての価値と金儲けとは関係ない、全く別物だ。しかし今の世の中そこがごちゃ混ぜになっている。

 だから訳のわからん奴らが訳のわからんことを吐き散らかしている。

 現在世の中にある言論で聞く価値があるものなどあるだろうか?実に浅薄、実に下品としか言いようのないものばかりに見える。まさに「人天にんでんを惑乱する」ものばかりだ。

 坐禅し正法眼蔵を読んで正しさ、真実・真理をこの身心に取り戻しましょう。

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