第128話 現成公安その二十七 理屈じゃ生きられない

 「仏法の証験しょうけん正伝しょうでん活路かつろ、それかくのごとし。常住なればあふぎをつかふべからず、つかはぬをりもかぜをきくべきといふは、常住をもしらず、風性をもしらぬなり。風性は常住なるがゆゑに、仏家ぶっけふうは、大地の黄金おうごんなるを現成げんじょうせしめ、長河ちょうが蘇酪そらく参熟さんじゅくせり。」

 仏法による真実・真理の実現・実証のその現れ方、仏法を正しく伝えて活き活きと現実の世界の中で展開させることは今書き記した宝徹禅師と僧とのやりとりのとおりである。常に存在するのだから扇を使う必要はない、使わないときでも風にあたることができると言うことは、常に存在する(常住)とは何かを知らず、風というものはどういうものか(風性)も知らないのである。風というものは常に存在しているからこそ、仏の教えを学ぶ者の行動は大地をその真実の姿である黄金として現れさせ、揚子江を蘇酪(牛乳から作る美味な飲み物)として今この世界に現すのである。

 傍観者として理屈、能書きだけ言うのは簡単だ。しかし、理屈、能書きだけいくら並べ立てても人間は生きていけない。瞬間瞬間直面する現実に対して必死に行動しなければならない。

 私が働いていた時、企画はとても立派で論理的で格調高い文章で書いてあるのだけれど、じゃあ現実にどこで誰がどのように実行するのか、それを実現するための人・物・金はあるのかということになるとはなはだ心もとないものが多かった。

 理論は知っているけれど現実を知らない。現実の泥水の中で藻掻いて何とかかんとか実現するという経験を持っていない。そういう人間が企画を作ると大体こういうことになる。

 ロシアの防衛相は軍務の経験がないという。それじゃあうまく戦えないわな。

 今の世の中、立派な理屈、論調が溢れている。しかし、この現実の中でどう行動するかという点になるとはなはだ心許ない。

 社会が人間が薄っぺらな観念的なもので上滑りしているような気がしてならない。理屈だけじゃ生きていけないのだよ。

 坐禅して大宇宙を体感し、真実・真理と一体となって瞬間瞬間行動しましょう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る