第113話 現成公安その十二 今この瞬間がすべて

 「たき木、はひとなる、さらにかへりてたき木となるべきにあらず。しかあるを、灰はのち、たきぎはさきと見取けんしゅすべからず。しるべし、薪は薪の法位ほういに住して、さきありのちあり。前後ありといへども、前後際断せり。灰は灰の法位にありて、のちありさきあり。」

 薪は燃えれば灰になる。そののちさらに元に戻って薪になることはない。そのようのことであることを、灰は薪の後のもの、薪は灰の前のものと見てはいけない。知らなければいけない。薪は薪として大宇宙の中に位置を占めており薪としてその前の状態その後の状態はある。そのように前後の状態はあるとは言ってもその前後は切断されており重なることはない。灰は灰として大宇宙の中に位置を占めており(薪と同じく)前の状態後の状態がある。

 薪は薪として今この瞬間に存在する。灰は灰として今この瞬間に存在する。諸行無常ですべては変化するが、問題は今この瞬間だ。

 過去は過去として存在するけれども、生きているのは今この瞬間だ。過去に引きずり回されてはいけない。ましてや過去に戻るなどということはありえない。ありえないことに拘り続けても今この瞬間の生命を削るだけのことだ。

 未来はあるだろう。しかし今この瞬間を一生懸命に生きずに未来は無い。

 因果の法則は絶対だ。自分が行った行為の結果は必ず発現する。

 判断を誤れば辛い結果が発現する。これは避けようがない。しかし今悪い結果が現れたのならそれに対して今この瞬間に精一杯のことをやるしかない。その今行ったことが新たな結果を生む。因果は連続する。しかしその連続は今この瞬間瞬間の行動の結果の連続だともいえる。因果の法則は絶対だが、今この瞬間は前後と切断されているのだ。今この瞬間を生きる。それが全てだ。瞬間瞬間の積み重ねが生きるということだ。どう生きたらいいか。今この瞬間どう行動したらよいか。それは坐禅した身心ならば直観的にわかる。

 坐禅しましょう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る