第112話 現成公安その十一 乱想

 「人、舟にのりてゆくに、めをめぐらして岸をみれば、きしのうつるとあやまる。目をしたしく舟につくれば、ふねのすすむをしるがごとく、身心を乱想して万法を辦肯はんけんするには、自心自性は常住なるかとあやまる。もし行李あんりをしたしくして箇裏こりに帰すれば、万法のわれにあらぬ道理あきらけし。」

 船に乗って進んでいくときに、目を岸の方に向けていれば岸の方が動いて移っていくと誤ってしまう。目を乗っている船にちゃんと向ければ船が進んでいるのだとわかるように、身心を乱して頭の中で様々に存在するものを取り扱おうと想いを巡らせるならば自分自身は動かず一定の状態にあるのだなどと誤ってしまう。もし、自分自身の日々の行動、あり方をしっかりつかんで一つ一つの事象に向き合うのならば、あらゆる存在、森羅万象は自分自身とは別に存在しているということが明らかであることがわかる。

 自分が自分がと自分に固執している人間は世の中で起こっていること、様々な存在を「自分」というフィルターを通してしか見れなくなってしまう。自分は正しくゆるぎない存在だと妄想し世の中のことを歪んで捉えてしまうが、自分は正しいと思っているからそのことに気付くことはない。

 しかし坐禅した真実・真理と一体となった身心となれば、この世の中、世界の森羅万象をありのままに見ることができるようになる。

 日本で世界で起こっていることを見ると「身心を乱想して」様々な悲惨なことを引き起こしているのがわかる。妄想に憑りつかれ真実・真理を見失い、妄想の実現のために人を殺し、破壊を行って、それが正義だと信じている。自分自身に惑わされ事実が見えなくなってしまっている。ありのままの姿がわからず、妄想に憑りつかれた眼で幻想を見ている。

 坐禅しましょう。

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