22.エントリー者の演奏
審査員の席でも複雑な現象が起こっていた。審査員は15人いる。美咲の両親と、石垣先生、そして妹の支援者でもある倉石さんが座っていた。
「ほんとうに美咲だけ輝いていて、一時はどうなる事かと思いましたが、今宵で双子が脚光をあびるのですね」
他の人々はうなずいても石垣さんは賛成していない。
「さて、どうなることでしょうね」
演奏の順番は、金山進、未奈、美咲という順番になっている。
進の前に12人の発表者がいたが、いずれも失敗と呼べるほどの目立った失敗は見受けられなかった。どのような結果になるのか楽しみである。
進の演奏
やはり派閥のようなものはあるらしく、彼の番にはガヤガヤとうるさかったり、移動が始まる。どうでもよいものの出番はトイレ休憩となるようだ。
彼が弾き始めると場内はしんと静まり返った。
ほんの少し隣のケンを触れてしまい、雑音となる。
しかし一点を残して滑らかに演奏しきる。
情景が浮かぶようで作曲者の意図をくみ取っている。
「意外でしたな。これほどのものが偏差値の低い大学に居るとは」
「彼は証明しましたな。芸術に関係しなくても日本を代表できる芸術家になりえることあるのだということを」
「それはどうでしょうか。他の者の演奏も最後まで聞きませんと勝敗は出せないですわ」
未奈の演奏
細くしなやかな指が弾き始める。高音部から低音部までグランドピアノの限界まで使う。目立ったミスもなく演奏しきる。
未奈が終わりの例をした瞬間に拍手が沸き起こる。スタンディングオベーションをしている観客もいる。
未奈は勝ち誇ったように美咲を見るが美咲は一向jに気にした様子はない。
美咲の演奏
同じように曲を演奏し終わるとスタンディングオベーションが沸き起こる。
安定感もあり強弱もある。その道の人には作曲家が楽譜を書いた意図まで表現できるように聞こえているだろう。
さて審査員の評価がでたようです。光希の評価には全員が8点以上をつけた。未奈は恐怖を感じさせる曲にしたのがひびいたのか8点から6点までの点数をあげる人もいた。そして美咲は9と10点の札しか上がらなかった。
結局総合点数はご覧の通りだ。
美咲138点、進が126点、未奈が112点。ちなみにほかの出場者は100点前後のせいせきが平均であった。
表彰は3位まで。美咲、進、未奈となった。未奈は4位とは僅差ではあった。
もう美咲の評価は確立していたが、点数をみてほかの人とは違うと改めて認識された。そして進にもインタビューが舞い込むようになった。
指導者が同じということでツーショットをとることになったのだが、進は嫌で嫌でたまらなかった。今までにインタビューにも答え慣れているし、写真に写ることだって抵抗がない。ただ単に性格のせいもあるだろうが、進は違うと思っている。
長年父親を見てきたことと美咲自身が自他共に認める美人だということだ。インタビューはともかく、雑誌や新聞に載るであろう写真に対してどうしたらいいのか分からない。
「おろおろしていなくていいの。みっともない写真は除いてくれるものなのよ」
澄ました顔で彼女は言うが、顔のつくりが良い人だからこそ通じる言い分だ。見目麗しい人はどんな角度でとっても麗しいままだが、普通以下の人になると角度が重要になってくる。
進の場合、角度を間違えると強面に見えるらしく、初対面の人には良い印象を持たれないことが多い。
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