クリスマス
21.クリスマス
12月25日。寒い中でも開催された。ここは東京都内で一番広いコンサート会場と言われている。
美咲と進の指導担当は今日のコンテストを控え、黒ドレスで気合を入れている。
時刻は9時ジャスト。開演は10時だ。
「今日はライバルがきます。彼と一緒だからって油断なさらないように」
ライバルとは無論、双子の妹。そのほかにも優秀な弾き手がいる。
「はい」
深紅色のドレスに身を包み、情熱的な雰囲気を演出している。上半身はコルセットのように引き締めて、下のスカート部分は豪華に広がったデザインだ。中世ヨーロッパの貴婦人が来ているようだ。
美咲を指導してきた人たち渾身のドレスだ。
なにしろ同じ年の彼女だから。双子なの。対決の時がついにきた。
妹の方は病気がちで両親の教育に耐えられる体ではなかった。だから親戚の家で彼女なりのペースでレッスンを重ねてきた。
いままでおなじ舞台に立つことはなかったけれど今回は違う。彼女はこのコンクールに出る為に一年間練習してきたという。
「先生には表現力はあなたのほうがあるのだから自信を持ってといわれているわ。でも彼女は私よりも頭がいいの
もうすこし成長したら私を追い越すわ。焦っているのに成長できない」
先生は優れている人の方が苦しい時もあるって言うわ。それに自分を高めるための発表会であって、そんなにこだわるものではないって。
2位の時までは他者が目標になる。あの人よりも優れたい。しかしどの分野であれ1位になったら争うのは過去の自分になる。きっと1位になった人にしかわからない。
目標を見失うことは多々あるし、自分を越えられない苛立ちをぶつけることが難しくなる。
妹から話しかけてきた。美咲と瓜二つの容姿。
「お久しぶり。はじめて会場で会うわね。――負けないから」
未奈は群青色のドレスを着ている。体にぴったりフィットする妖艶さを感じる。
闘志をむき出しにされた美咲はといえば、きょとんとしていた。いつの間にか双子対決とタイトルをつけて盛りたてているようだが、美咲はこだわっていない。むしろ剛腕だと評価されている演奏者ばかりの中で彼がどれだけ評価をうけられるのか楽しみだったのだ。
(平常心っ!)
美咲は揺れない揺らがない。音楽は人間の競争ではない。音を奏で楽しむものだ。音楽は祈り歌うものだ。
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