20.彼女の実力

 彼女の集中力は半端ではない。

 1時間もすれば用意したように紙はびっしりと

 彼女の綺麗で小さな文字に埋め尽くされた。


「きっと完璧を求めすぎていたのだわ」


 彼女はこの結論に達したときに戸惑っていた。


「そんなことないはずなのに」


 世間には天才少女と評されることもあった。しかし彼女は初めからうまく引けたことはなかった。最低3回は1楽節を繰り返して、だんだんと長くしていく。幼い時にはもういやだとだだをこねることも多かった。


 でも泣きながらピアノを弾いたのは音が好きだったからだ。

 絶対音感も最初から持っていたわけではなく練習して言い当てられるようになった。

 でも最初は1 音が大好きだったからなのだ。


 自分の思いついた音と実際聞こえたものがあっているかどうかを

 確かめることが面白く、あっていることが多くなりやめられなくなった。



「幼いころは失敗しても次に行けたのに」



 今は1音のミス裏許されない世界にいる。それは入った時にはうれしかったが、

 同時にミスできないプレッシャーとしてのしかかった。

「もう一度、引いてみたい」

 間違ってもいい。無邪気に間違えることができる世界に戻りたい。

 ピアノの前に座りそう思うと指が勝手に滑り出す。

 子供のころ大好きだった楽曲を。


 彼女は彼に笑って報告をした。

「スランプの期間は長かったわでも私この世界に帰ってこれたわ。今は何より引いていることが楽しいの。面白いの。さぁこれから勝負よ」

 彼女が苦しんだのは四年あまり。スランプと表現するには長い期間であるが、生気を取り戻すことができた。


 薄暗い部屋で、彼女はピアノを弾いていた。

 情熱的な曲調からおどろおどろしい曲に変わった。

 彼女は一層曲にのめりこんでいく。有名な演奏家たちが興奮してくると体を揺すってみたり、髪の毛を振りみだしてみたりすることがある。彼女も例外ではないようで、

 上体を健盤に近づけて、激しさを表現する。

 彼女が両手で健盤をたたくように弾き終わったとき、拍手が聞こえた。

「すばらしいよ。これならお姉さんにも勝てるよ」


 彼女は日に当たらないことが多く、ピアノしか触ってこなかったからか、指が以上に細い。そして彼女は色白だ。


 彼女は汗をかいていて、顔色は白い。今にも倒れてしまいそうだ。しかしそれが彼女の普段の健康状態なのだろう。くろいおとこは彼女に水を渡した。

「もっとも音楽とは神にささげるべきものであり、優劣を競うためのものではいのだ。そこの所を石垣氏は履き違えている」


「そうですわね。それに御姐さまも」


 世界で活躍する美咲とそっくりな顔立ちをしている。しかし彼女よりも暗いオーラを放っている。それを魅惑的と表現するか、恐ろしいと表現するかは人によって違うことだろう。


「さあ仮眠をとると良い。これから移動するのだからね」

「はい。おじさま」


 答えた彼女の手にはインタビューに笑って答える美咲の写真があった。教師によって世間の露出度をコントロールさせて創作活動に専念することができる。


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