19.疑惑の記事
疑惑の記事は三つ見つかった。
マスコミの力を知っているお父さん
実は教師とお父さんは幼馴染で親友関係だったそう。
もちろん実力も拮抗していて、どちらが賞をとるのかが見ものだったそうだ。
「おに教師とお父さん」
「え? 知り合いだったの?」
「今さら何を言い出すのですか?
私は彼から誘いをうけて貴方を指導してきたのですよ」
彼女は驚いた。
なにせ教師の方から指導に関わりたいと申請があったからだ。
「お母さんのコネなのかと思ってた」
「マスコミの力とは恐ろしい。あることないこと書かれたりゴシップのためには嘘を書かれることもあるだろう」
彼女はしりたい。
何時も私の能力に満足しなかった父なのにどうしてそんなことを言ったのか
「先生にお聞きしたいことがあります。とても失礼なこと聞きます。この記事は本当ですか?」
先生はひどく驚いた顔をした。
教え子からそのことを言われるとは思わなかったのだろう。
「本当なわけないわ。
今の時代ならばそんなに深くは追求されなかったかも知れません。
聞きた事あるかしら?
アイドルは一日中アイドルでなければならないというのが通説だった時代もあるの」
「もちろん私はアイドルではないわ。ただの演奏者だった。彼もまた演奏者だった」
二人はその晩何をしていたのか。
その質問に彼女は笑ってこう言った。
「彼と音楽に関わる討論をしていました。知っているかしら? あなたのお父さんはショパンが大好きなの。
私は大嫌い。あなたのお父さんとはなにもないから安心して」
奥さんとまともに話せないようなやましい関係ではないのだろう。しかし時折見せるさびしげな横顔は物語る。
ほんの一時でも好きという感情を持っていたこと。誰にも言うまいと隠す決意をしたのであろう。其の時だけは彼女は少女に見えた。
「もしかして先生が演奏者を辞めたのは――」
「あなたが創造しているよりも理由はいろいろあるわ。一番大きかったのはコンクールをとれなかったことかな。
自分の実力のなさにショックだったし、ゴシップネタの影響もあって、純粋には音楽を聴いてくれないと思ったし。何より人を育ていることに楽しみを見出せたのは事実だったし」
彼女は後悔をにじませて語りだした。
「本当はあの子を育てたかったのよ。でもあなたのお父さんからお前は才能を育てている方が合っているといわれてね。
小さなころから才能あるなしで区別されたのでは感受性が乏しい子になってしまうわ。でもわたしはおくさまではないし、あまり口をはさめなかったの。彼女には謝りたいわ」
師はふと顔を挙げた。つい生徒の雰囲気に乗ってはいまいか。
「そんなことを詮索している暇はありません」
「そうですか」
師は机をたたいた。
「あんたは失敗して挫折してこの世に悲観的になっているだけなのよ。だからおんがくにみがはいらないのではなくて」
見抜かれていたのかと生徒は驚く。
「あんたは身近に支えてくれるものがあるはずよ。人間だれしも完璧ではないし、誰しも得意なことはある。その反対に苦手なことだってあるわ。それをどう乗り越えていくのかが重要なのであって、他人の過去を詮索して批判することが有益だとは思えないわ」
師は今週の課題を告げた後、足早に教室を去った。
「どう乗り入超えていくかが大切」
家に帰って初めて学校の先生の言を取り入れてみることにしたのだ。
その先生曰く自分の考えていることは案外不安定なものだ。
神に書いてみると自分が望んでいることを整理できたり
おもいもよらなかった自分の本音が見えてくるものなのだというものであった。
そうかもしれない。
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