18.両親の疑惑

 ある日彼と公園で話をして、帰ってきたときのこと。


 白山田と別れて寝室に帰ろうと、階段を上りかけたときだった。


 めったに明かりがついていない父親の寝室から明りが洩れていた。


 母親がかたずけをしているものかと思っていたらそうでもないようだ。


 男の声がしたからだ。


 仕事の電話であったのならば、彼女にも関係があるかもしれない。


 どうせ父親とかかわるイベントは彼女に直接知らされることはない。


 母親か、白山田に告げられるか、教師である石垣さんにいくかのどれかである。


 どうして自分の意思で情報を得ることが悪いといえようか。

 彼女は罪悪感に駆られながらも、しばらくの間、ドアの前で耳を澄ましていた。


 どうやら電話での会話らしく、相手の声は聞こえない。


「ああ。そうだ。相手は? ……そうか。スキャンダルにならないようにすれば問題ないな」


 相手の人は一気に話すタイプであるらしく、しばらく聞き役をしていた。


「そうだな。フミ。ああ。気をつけるようにしてくれ」


 長い間石垣先生から指導を受けてきた。父との関係はまったく気にならなかった。それが今の会話を聞いただけでふと疑問となった。


(お母さんの知り合いではなく、お父さんの知り合いだったから指導を引き受けてくれたのかも)


 自分の寝室に戻ってもなんだか気になって眠れない。明日は折りよく休日だ。


 ネットで1時間ほど検索してみたが、掲載されているのは最終経歴である大学名と、受賞したコンクールの名前くらいだ。

 こういうときは彼の知恵を借りてみよう。私は彼に電話してみた。

 彼はすぐに電話に出た。


「世界的に有名はピアニストは、普通に調べるだけで経歴くらいわかるだろ」

「うん。普通ならね。でもネットや音楽界では徹底的に圧力をかけたみたいで、あたりさわりのない経歴しか載っていないんだ」


 彼は少し考えてこう言った。


「世界に力のある人がどれほどの力を持っているのか

 俺にはよくわからないんだけどさ。一つ方法はあるぜ」


 なにやら彼の声は自信に満ちていた。


「お父さんの年齢とコンクール受賞時の年齢がわかれば調べやすい」

「わかったわ。また明日ね」


 彼女は数字は嫌いなのだが、年号だから大丈夫と言い聞かせる。そうしてサイトに乗っているプロフィールの西暦を年号に直していた。

「あ、もう一つ調べなくちゃいけないのがあったんだ。

 サイトでのっているかな?」


 ついてこいと彼はいい従って1時間ほど電車に揺られたところに県立の図書館があった。


 県立というだけあって私の県では一番大きい書館だった。


「大学みたいな毎日最新の情報が更新されるものに関しては、ネットのほうが信頼度が高いものもあるかもしれない。でも過去に起こった事を調べるのは印刷物だろ」


 彼が調べたのは新聞の縮刷版が保存さている場所があった。


「十九年前の四月に獲ったコンクールが父の人生を変えた大きな出来事よ」


 今は世界に通用する音楽家といっても当時はまだ脚光を浴びることはなかったはずだ。

 規模は小さいが、音楽新聞は彼女の父親兄ついての特集を組んでいた。


「流出される恐れのある情報には注意を払ったようだが、小さいメディアの情報には無頓着だったんだな」


 彼が手を止めたページは4月28日の新聞記事だった。

 写真が載っていた。


 とはいっても学生時代のころの写真であるらしく、二人とも制服を着て、廊下を歩いているシーンだ。

 一見したところでは甘い恋愛関係という風には見えない。

 むしろ張り合っているライバル関係に見える。

 しかし書かれている文章は、

 肉体関係に及んだのではないかとウワサされる記事だった。


「綺麗な人だな。これが厳しい鬼教師だなんて」


「もう少し詳しく知りたいな」


 彼女たちは図書館が閉館するまでの間、調べ物をしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る