10.彼の嫉妬
「きてくれてよかったわ」
「何の用だよ?」
「貴方が音楽が出来るのなら
私にも書けるのではないかと思って。
コンクールのスケジュールの合間を使って書いていたの」
彼に印刷物を見せると彼は絶句したらしく、
暫く冊子を見つめていた。
「どうぞ。よんでみて」
彼女が勧めたからか、奪うように受け取って読み始めた。
今日は雲の多い夜だから、
月明かりもさして強くはなかった。
電灯の光だって文字を読むのに適した明るさではない。
なのに彼はぺらぺらと速読しているようだ。
暫くすると彼は何も言わずに冊子を閉じた。
「どう?
これをある賞に送ってみようかと思うんだ」
「ありえねぇ」
彼はぽつりと一言だけつぶやいた。
「ちょっと。なにそれ。ちゃんと感想くらい頂戴?」
「だからありえねぇっていっただろ」
彼の声は今までに聞いたこともないほどに鋭くて、
彼女を凍りつかせてしまうほどだった。
彼女に冊子を返して帰ってしまった。
☆☆
彼は早足で帰りながら呟いた。
「あり得ない」
なんで音楽に人生をかけていて、あれだけの文章が書けるのだろう?
経験の差?
彼女が立ってきた舞台が大きいから?
彼の頭の中には疑問符が浮かぶばかりだ。
自分だって書けるようになりたい。
でも本当に何をしていても自分じゃないみたいなんだ。
本当に浮かばない。
文章なんて書こうと思えばかけるから。
なんて思った時期もあった。
はじめの頃は少し書けない時期があるだけだと深刻に考えようとはしなかった。
だからゲーセン行ったり、友達と談笑したりして過ごしていた。
2か月を過ぎた時、書いている感覚ってどんな感じだっけ?って疑問に思った。
次第になんか書きたいけど描けない状態になって行って。
「俺っていつから書いてないんだっけ?」
初めて書いた小説が高校生部門で佳作に選ばれて。
賞状を受け取った次の日から何故かペンもキーボードも止まってしまった。
「アイツみたいになれるかな」
真剣に取り組んでいて、
これしか生きる道がないと確信した道で成果が出なくて、
もどかしくて苦しい。
高校自体文化系に力を入れていなくてあなどられがちの部活だったけれど、
うまい後輩の書き手が入ってきて、余計に焦る。
「先輩みたいに賞をとりたい」と言ってくれるようになった。
でも文章表現はすたれていくばかり。
でも過去にそれなりの実績があるから今さらできないと投げ出すことも出来ない。
苦しみぬいて、結局高校のときは行動できないままに卒業した。
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