彼の葛藤

11.進の葛藤

 気がつけば真っ暗の部屋にひとりでいる。

 ベットに横たわり、何時間か目をつぶり思案にくれる彼。


「ごはんだから」

 そんな声にやっと反応した彼は今までの彼とはちがっていた。


「かあさん。ヴァイオリンってどこにあったっけ?」


「ああ。納戸にしまってあるよ。もう一度使うんだったら大切にしな」


 そんなこと、言われなくても分かっている。


 五歳の誕生日の時に父親が買ってくれたものだ。


「今は絵本を見ている方が多いが、

 こいつは音楽のセンスがある。だからいつか弾く時がくる」


 やけに自信満々だった。中学の3年間は1日中弾いていたものだった。

「あの頃をもう一度」

 それか2週間は大学から帰って、ずっと弾いていた。

 親にうるさいと言われても何ともなかった。

 父さんはいちど驚いた顔をしたけれど、

 その後は何も言わず自分の持っている楽譜をくれた。


「今ウチにあるのは父さんが集めていたものだ。

 だから本当に古いんだ。あとは自分で何とかしろ」



 ☆☆


 彼女はレッスンも終わり、ベッドに寝転んでいた。


「今日もメールなし。あれから2週間か。本

 当に投稿してみようかな」


 彼女のプランでは、

 彼女の行動に触発されて何らかの形で音楽に係るだろう

 と思っていた。


「すぐに連絡があることを期待しているのに。

 なんでこんなに遅いのよ」


 あの人を示す受信音がなった。

 俺だけど。と遠慮がちに話し始める彼。


「明日、あんたの使っているホールに行ってみたいんだけど」


「明日じゃないとダメ?」


「別に。借りられればいつでもいいけど」


 会っている時ははっきりモノを言うし、

 環情が態度に出やすい彼だけど声だけだと

 自信のない男に見えるのだから不思議なものだと

 思いながら彼女は提案する。


「なら明後日にしてほしいな」


「それはいいよ。なんか理由あんの?」


「明後日は先生がいらっしゃる日なの。

 だから君にも指導うけてほしいなって思ってね。

 その先生ファッションに理解ないの。

 髪染めてる人を見ると露骨に態度変わるから。

 ぜひ染め直して来てほしい」


「流石おじょうさま。かかわっている人の格が違うわ。了解した」


「そして今日のよる実力みさせてほしいの。宜しくね」


 流石おじょうさま。

 力がないと紹介さえ許してくれない

 徹底した実力主義には頭が下がる。


「りょーかい」


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