6.音楽室
こっちこっちと彼に案内されたのは音楽室。
扉が透明になっていて、中の様子が少しだけ見える。
グランドピアノが一台置いてある。その他は特に置いているわけではない。
壁にぶつぶつと穴が開いているから防音設備がある部屋のようだ。
ドアは引き戸タイプになっていて、案内人の彼は数センチドアをずらして、
中が見えるようにした。
「アイツ、人の目線が嫌いみたいだからこっそり見てくれ」
覗き込んで彼女は息をのんだ。彼は楽器を弾いていた。
演奏しているのはJPOPの曲。
きっと彼の前に置かれているのは市販の楽譜なのだろう。
しかし彼なりにアレンジを加えている。アーティストには悪いが、元の曲よりもこの上なく綺麗に仕上がっている。
「見つけた」
曲が終わるまでの間、彼女は彼の奏でる音色に聞き入っていた。
彼女が知る中で本当に三指の指に入るほどの音色だったから。
「売れない小説家希望なんてもったいない。私と同列の音を出せるわ」
彼女の判断はいつも即決。
その決断は間違ったことはない。
彼女は振り返ってここまで案内してきたやつに頼み込む。
「彼に手紙を渡してもらえませんか?」
「オーケー」
☆☆☆
「なんだよ。これ」
彼は悩んでいた。
サークル仲間から渡された手紙にはこんな詩が書かれているだけで、
何が目的なのか分からなくて困る。
紙は大学ノートサイズのルーズリーフで4行のみ。
「わたくしのために奏でてください。
わたくしはあなたのために書きましょう。
わたくしはあなたの為に動きましょう。
どうかわたくしにあなたの音色を授けて下さい」
意味が分からない。何で俺のことを知っているのか、謎ばかり。
そんなにもてることもしていない。
だらだらと生きられればいい。
文章が認められないのならば何をしていても死んでいるのと同じなのだ。
だからこんな紙破って捨ててしまえばそれでいい。
「それなのに気になるのはなぜだろう?」
もう一度紙面を見やる。
「奏でる。音色……」
この単語を聞いて思い出す人物と言ったら一人しか思い浮かばなかった。
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