5.検索とキャンパスへ
彼女は週に4回のレッスンがあるためにそれほど外には出ていられない。
だから彼の行動範囲内にある大学が効率よくわかる方法というのは限られている。
「まずは検索っと」
彼女の前にはパソコンが一台。そこからネットにアクセスして、キーワードを入れて彼に関する情報の糸口でもあればいいと思った。
言葉を打ち込もうとして、彼女の指がふと止まった。
「あれ、何で調べればいいんだろ? 彼のこと何も知らないや」
彼の名前も口頭で言われただけでどんな字をかくのか分からない。
たとえば、どのサークルに入っていそうとか、バイトしているとか。
分かるのは理系のクラスに在籍していたこと。
県内、理系、大学という3つのキーワードを入力すると面倒なことになる。
「該当件数は400件。これでは無理じゃない」
相当に骨の折れる作業だと知ったのだった。
☆☆☆
颯爽とあるくモデル並みの美女がいた。
サングラスをかけて腰までの黒髪をなびかせる彼女には
道行く人々の好奇な視線が送られる。
ある大学キャンパス付近まで来ると、十代後半から二十代前半の学生しか居なくなる。
彼らは目ざとい。すぐに彼女の正体はばれてしまう。
「あれ、美咲じゃないの」
「本当だ。近くでコンサートでもやるのかな」
美咲はにこりとほほ笑む。
それは男に媚びる笑顔ではなく、同性もクールと評す笑顔で、憧れる女子も多い。
彼女のそばを偶然通りかかった男子四人のグループに彼女が話しかける。
「
「う~ん。聞いたことないな。ウチって学部沢山あるし」
「そうですか。ありがとう」
その後、数人に聞いても分からないという返事だった。彼女が引き返そうとした時に引きとめられた。一人の男子だった。学生のようで音楽のやっているのかギターが入るようなバッグを担いでいる。
「心当たりないわけじゃないけど」
「それって実名じゃないんじゃないの?」
「え?」
「俺らのサークル、あだ名をつけてんのが伝統ってとこなんだけどさ」
「そうそう。カサオカミツルって名乗っているやつは居る。
他はMISAとかKAORIとか名乗ってるのにさ」
「つうか、教えて」
彼が何を知りたいと思っているのか分かった彼女はため息をつき、了承した。
「いいよ」
彼女はアドレスを書いた小さな紙を彼に渡した。
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