答え合わせ

7.答えあわせ

 そのとき、鳴ったのはメールの受信メロディー。


「ほんとに変な音大生だな」


 メールに書いてある集合時間は今日の午後七時だった。


 自転車で五分かかる公園へ急いだ。

 大抵彼女は電灯の下で待っている。


 彼はそこにゆっくりと近づいていく。


「なあ、俺の大学分かったのかよ」


 まだ顔もはっきり確認できていないだろうに彼女は声を弾ませて答える。


「色んな所に聞いたわ。ネットで理系の大学調べてみたり、

 少ない時間を割いて見学してみたり。二校目で見つかってよかったわ」


「で?」


 彼女はお気に入りのブランコに座る。


 足をブラブラさせながら、滑らかに答えていく。


「▼▼高校卒業後**大学工学部に入学。学籍番号2201、

 吹奏楽サークルに所属している金山進カナヤマ ススムくん」


「あたり。ネットとか使ったとは言え、よくそこまで広げられたよな」


「近い大学っていったら限りがあるし、

 大した学校じゃないって言ってたからね。

 失礼とは思ったけど、

 偏差値の低い大学から調べて行ってたの二番目でヒットしたわ」


 彼は頭を抱えた。

 自分の大学が低いことは知っていたが、下から二番目の低さだったとは。


 将来が不安になる事実である。

 そんなことで病んでいても仕方ないと彼は気持ちをきりかえようとしたが、

 さっきの会話での悲しい事実に気づいてしまった。


「つか本名知られてなかったほうが悲しかったね。もっと周りの興味持てよ」


「友達はいろんな人と繋がりあったみたいだけど。

 私は高校自体に興味もてなかったから。

 大学内でもしかしたら知っているかもって

 案内してくれた人にアドレス聞かれたから、

 知っていること教えてって返してみたらあっさり教えてくれたのよ」


「さすが美人」


 彼女にも人並みにモテるという自覚はあるようだ。

 少し容姿についてからかうこというと、眉を寄せてものすごく渋い顔になる。

 相当に嫌な出来事があったらしい。


「男の人って馬鹿ね。すんなりアドレス教えるなんて。悪用されたいみたいね」


 彼女は自分のスマートフォンをさす。


「あんただって教えただろ? 乃木が嬉しそうにしてたぜ」


「私は紙にアドレス書いて渡したの。

 そのアドレスの持ち主は近所に住んでるニューハーフのお姉さん」


 ちなみにそのお姉さんとは、顔は整っていると表現できるものの、

 いかんせん体型がよろしくない。


 身長一六七センチで九十キロという体型をしていて、

 きれいなのになんか残念な人ということで話題となっている。


 フレンドリーな性格をしているから一度電話がかかってきた相手とはお友達になる。もしくは友達以上の関係になることもあるらしい。


「見かけによらず……鬼畜だな」

「それよりあなた、楽器が弾けるじゃない」


「それがどうした? あんたには負けるさ。こんな芝居がかった言葉書いたって無駄なんだよ」

「そんなこともないわ。同じ舞台に立ったら、同じ賞賛を受けることができるわ。私の断言って外れたことないのよ」


「たいそうな自信だな。俺に人前は向かない」


 そういって彼は私の前から消えてしまった。

「乗り悪い人。っていうよりも頑固なだけかしら。

 凄い才能があるのにもったいないこと」


 彼女は人の悪い笑みを浮かべた。人のモチベーションを左右するような仕掛けを施すことが好きな性格なのだ。



 


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