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第四章
「加鳥さんが疑われてる?」
放課後。おれは都倉に風紀委員室で見つけたファイルのことを話した。加鳥は嘘の申請をした教唆犯として風紀委員から疑われている。嘘の申請が通用しなくなった今となってはどうでもいい話だが、生徒会の仲間を疑われては寝覚めが悪い。
加鳥はまだ生徒会室に来ていない。今なら話せる。
「それって実行犯の下駄箱を開けたと決まったわけじゃないんでしょ?」
「そうだ。あくまで、他人の下駄箱を開けただけで、誰の下駄箱かは分かっていない」
「それじゃ、何か事情があったんじゃない? ……他人の下駄箱を開けるのは滅多にないことだけど」
おれと同じ考え。内心、ホッとした。客観的に考えても、加鳥を犯人と決めつけるのは時期尚早だ。
「一応、このこと加鳥に聞いても大丈夫だよな?」
「いいと思うけど。……どうして私に聞くの?」
「いや、女心的に犯人扱いされるのはどうなのかと気になってな」
都倉はため息を吐いた。ひどく呆れているようだった。
「男だろうが女だろうが犯人扱いされて、いい気する人はいないよ」
「たしかに……」
「あー、新入部員がこないよー」
と、加鳥よりも先に天見がやってきた。すっかり、生徒会に入り浸っている天見はそのまま、ソファに寝っ転がった。始めは追い返していた都倉だが、もう相手にしなくなった。
「部員集めは上手くいってないようだな」
うー、とうな垂れる天見。
富久田が嗜好部に所属することが決まって以来、入部希望者は現れなかった。
掲示板への張り紙、知人への呼びかけ、あらゆる手を使って希望者を募ったが、これといった成果は得られなかった。どうやら、部員集めは膠着状態に陥っている。
崎野森学園は他校と比較しても生徒数が多い。その分、入部してくれるような人材が現れる確率も比例して高くなる。
天見もおれも期待していた部分はあった。だが、現実はそう甘くはなかった。
「こうなったら、加鳥さんを嗜好部に誘っていいかな?」
「ダメに決まってるだろう」おれはいった。
「どうしてさ」
「天見と違って加鳥は一般人だ。嗜好部のことを聞いたら気絶しちゃうだろ」
「それは言い過ぎでしょ……」
定めた期日まであと二週間をきっていた。普段、あっけからんとしている天見だが、焦燥感は伝わってきた。
「切羽詰まってるのはわかる。だが、他を当たるんだな」
「そういえば、加鳥さんって嗜好部のこと知ってるの?」
「知らないはずだ。おれも都倉も話していないからな」
「失礼します」
加鳥が生徒会室に来た。寝っ転がっていた天見も起き上がる。
先ほど都倉としていた話をするチャンスだ。都倉の視線がおれに突き刺さる。
加鳥、とおれは呼びかけ、
「四月二十六日に誰かの下駄箱を開けたりしなかったか?」
加鳥を除く三人に緊張が走る。加鳥の反応に釘付けになった。だが、期待とは裏腹に「はい」と明るく返事をしただけだった。
「内履きを返してきて欲しいと頼まれて、そのときに」
「そうか。……加鳥が他人の下駄箱を開けてた噂を耳にしたからな。気になって」
「確かにそうですよね。他人の下駄箱を開ければ怪しまれますよね」
「あはは、全くだ」
嘘をついている素振りはない。嘘をつくのが上手いのか、それとも事実を語っているだけなのか。しかしながら、加鳥と話せば話すほど嘘の申請をした教唆犯と同一人物とは考えられなかった。
ところで、と加鳥は話を切り出した。
「天見さんは最近、生徒会室に来てますけど、どういう用事があるんですか?」
「それは――」
「聞かれた以上、答えないわけにはいかないよね!」
おれは誤魔化そうとしたが、天見に阻まれた。もっとも、これ以上誤魔化しきれないという懸念はすでにしてあったのだが。
「私の知らないところでそんなことが……」
天見は嗜好部の活動内容やこれまで行ってきた活動のことを話した。気絶することはなかったが、話を聞いている加鳥は思いのほか平然としていた。
「余計な心配をかけさせたくないから隠してたんだ」
「それって誰でも入部していいんですか?」
「興味がある人は大歓迎だよ」加鳥の質問に天見は答えた。
「でしたら、私も入部させてください」
「なっ……!」声が漏れた。
生徒会関係者のなかで、数少ない常識人であるはずの加鳥が嗜好部に興味を示した。
「どうかしましたか?」
「どうかしてるのは加鳥のほうだ。天見が話したとおり、異性にパンツ嗅がせたり、スクール水着を着せたりする部活だぞ」
「それが?」
「おかしいと思わないのか?」
「活動が理にかなっていますから、さほど気になりません。むしろ、興味深いです」
「やめた方がいい。何をされるかわからないぞ」
天見に協力している立場のおれが言うのもおかしな話だが……。
会長、と都倉は異議を申し立てた。
「どうして、私の入部はよくて加鳥さんはダメなんですか?」
「それは都倉の適性を踏まえれば入部するのは妥当かなと……」
「それって天見と同類って言いたいの?」
「…………そういう認識だ」
おれは席を立った。都倉と距離をとるため。
そうしなければ、今頃かかと落としを頭にくらって意識を失っていた。蹴りを外した都倉は「チッ」と舌打ちをした。
「とにかく、これで四人集まったね!」
あと一人、と天見は視線をおれに向ける。次いで、都倉と加鳥も続いた。
「なんだその目は」
「後上君、今なら間に合うよ」
「おれは入らないぞ。生徒会があるからな」
「えぇー、ケチ。……嗜好部の活動と偽って美女三人といいことできると思わない?」天見はおれの耳元で囁く。
だが、
「そういうことがしたいなら、富久田にでも頼むんだな」
「簡単には挑発に乗ってくれないか」
「嗜好部に入るのは構わないが、生徒会の活動が疎かにならないようにな」
「はい、わかっています」加鳥はいった。
「別に生徒会を辞めて、嗜好部に専念していいんだよ?」
「生徒会は辞めませんよ。私の大切な居場所ですから」
「ふぅん。それって生徒会に入っていることと関係あるの?」
「私が生徒会にいるのは会長がいるからです」
おれか、と思わず反応してしまった。天見も都倉も予想していなかったらしく、驚きを隠せない。
「それって、恋心とかそういうものじゃなくて、尊敬とかそっち系だよね!」都倉は急いで真意を確認する。
「一年のとき会長とはクラスが一緒でしたよね」
おれは頷くと加鳥は当時を思い返すように目を瞑った。
「学級委員長が後上さんで、副学級委員長が私。そのときから後上さんのリーダーシップがありましたし、かっこよかった」
「……単に他にやる人がいなかっただけだ。入学して直後の役割分担なんて下手すれば変なレッテル貼られるかもしれないからな。みんな慎重になってるんだよ」
「それにこの間のことも……」
「何かあったの?」
「朝の通学のとき、知らない男の人からお尻を触られていたんです。そのときじ助けてもらって」
おぉ、と天見から感嘆の声があげる。
「やるねぇ、後上君。まさに、ピンチに駆けつける主人公だね」
「早めに気づけたからよかったんだ。もし、同じような目にあったら周りに助けを求めなきゃな」
「はい」と加鳥は弱々しい返事をした。
俯き、自信ない様子だ。加鳥の性格上、声を上げるのは厳しいのかもしれない。
「都倉さんはどうして生徒会に?」天見はいった。
「私はね――」
「やっぱいいや。どうせ、下心でしょ?」
「ストップ! ストップ!」すぐ手が出そうになる都倉を止める。
今のは天見が悪い。完全に煽ってる。
「後上、いるか」
生徒会室に突如現れた襟白。部屋を見渡し、こちらに気づくと一目散に近づいた。
「ついてきなさい」
「急にどうしたんだ。これから生徒会の仕事があるんだが―」
「つべこべ言わない」襟白はおれの手を掴み、そのまま外へ連れ出した。
クラブ棟の五階。ある部室の前まで連れ出された。
「これから、不正受給者の摘発を行う」
「……そんな予定は組まれてなかったが?」
生徒会から承認された部には学園側から毎年百万円が支給されるが、部員の数が多ければ多いほど支給される額が大きくなってくる。その制度を悪用して不正にお金をもらう生徒を摘発することも風紀委員の仕事だ。
生徒を検挙するときに逃げ出す、もしくは暴れる生徒もいるので危険を伴う。もしものときのためにおれを連れ出したのだろう。
襟白によるとこれから超常現象研究部という部を摘発するようだ。
「部員の数は百名在籍しているそうだ」
「あからさまに嘘っぽいな。……ところで、良水はどうしたんだ?」
「良水にはまだ早い。だから置いてきた」
「超常現象研究部部長の浜野、いるか」襟白は部室のドアをノックした。
大きな声で呼びかけたが、返答はなかった。
「いないんじゃないのか?」
「いる」
襟白はマスターキーを使ってなかへ進んだ。おれも後に続く。
眼鏡をかけた細身の男が椅子に座っていた。足をだらりと伸ばして、だらしのない印象を受けた。入ってこられると思っていなかったようで、すまし顔でスマートフォンをいじっていた。
「浜野ですね?」襟白は冷めた口調で話しかけた。
「君たち! 勝手に入ってくるとは何事だ!」
「いるならちゃんと返事をしなさい。……ここに来た理由はわかってるでしょう?」
「いや、まったく」
「あなたの部には幽霊部員による部員の水増しの疑いがあります」
「そんな馬鹿な」
「部室にはあなた一人しかいませんが……ほかの部員は?」
「今日はお休みだよ。……ずる休みじゃなくてちゃんと申請はしてるからね」
浜野は書類の束を見せる。部員が部活を休む際に用いる学園独自の申請書だ。
「ふむ。確かにこの申請書は本物みたいですね」襟白は書類を受け取り、虚偽がないか確認した。
浜野はニヤリと笑うと、
「わかったなら、とっとと出て行ってくれないか。僕は部活動で忙しいんだ」浜野は机の上に足をのせて、雑誌を読み始めた。
「この部室を出入りしているのはここ最近、あなただけという情報が入ってきている」
「そんなのデタラメだよ」
「……幽霊部員はいないと主張するのですね?」
「いないよ」
襟白は改まって、
「……ところで、先日のテストの点数はいかがでしたか?」
「なんだよ急に……そりゃあ、よかったよ。勉強してたから」
「なるほど……では、この動画を見てください」
襟白はタブレットを持ち出して、動画を流した。
教室の天井の隅から見下していた視点から、授業の風景が映しだされる。教師がプリントを配り終わり、椅子に座る。しばらくすると、視点がズームして、ある生徒のフォーカスを始めた。
眼鏡をかけた細身の男――浜野だった。
浜野は筆箱から取りだした紙を見ながらプリントに回答を記入している。
「カンニングご苦労さま」襟白は動画の再生を止めた。
「ぐっ……! なんで教室に監視カメラなんか仕込まれてんだよ!」
「……カンニングをした生徒は停学処分を受けるのは知っていますよね?」
「やめてくれ! それだけは……」
浜野は椅子から転げるようにして地面に跪き、必死に許しを請う。
「どうする? 罪を認めるか、それとも、停学処分を受け入れるか」
浜野の顔は苦悩に満ちた表情を浮かべた。
やがて、覚悟を決めたのか、
「部員数の水増しを認めます。だから、許してください」
「早く非を認めればいいものを。……それで今回も手紙で指示されたのか?」
「手紙? 何の話ですか?」
「……ということは、部費の水増しはお前一人の計画だったのか」
「僕一人で計画したことじゃありません。話を持ちかけられたんだ」
「誰からだ?」
「二年二組の天見さんです」
風紀委員室に訪れた。以前、侵入したときに比べて、物の配置は変わっていない。おれは応接用のソファに座り、淹れたてのお茶を頂いた。
襟白はパソコンを起動して、事務作業を始めた。摘発した部の後処理があるらしい。
「あの程度なら一人でもよかったんじゃないか? 相手の人数は把握してたんだろう?」
「必要だ」襟白は真っ向から否定した。
「話を中立に聞く人間が必要だからな」
「ま、それもそうか。……あの部長はどうするんだ?」
「部費の返済をしてもらう。もっとも、彼の財産からではなく、部活の備品を差し押さえて回収する。足りない分は浜野をコキ使って回収するさ」
「えげつないな」
「コキ使い終わったら、あの動画を教師に渡す」
「浜野との約束は守らないのか?」
「風紀を守るのが風紀委員だ。約束なんて関係ないさ」
そう言い放つ襟白の目に迷いはなかった。
大義のためなら情をかけることは一切しない。
なんとも、襟白らしい。
「とにかく、今日は助かった。何かお礼できればいいが……」
「嗜好部はあと一人揃うと創部が決定する。入ってやったらどうだ?」
「お断りだ」
「冗談だよ」
襟白と話すいい機会だ。偽造申請の件に進展はあったのか。それとなく、探りを入れてみる。
「……風紀委員でも偽造申請について調べているそうじゃないか」
「良水から聞いたのか?」
「そんなところだ」どうやら、パソコンにアクセスしたことはバレていないらしい。
「目撃情報だけで加鳥を疑うのは感心しないな」
「疑う? 何言ってるんだ?」
「え?」
「……ちょっと待て」
襟白は良水が使っているパソコンにアクセスすると、「やっぱり」と呟いた。
「更新が止まってる。良水のやつ、忘れてるな」
「どうしたんだ?」
「つい先日、昇降口に設置されてる監視カメラの解析が終わってな。もう、犯人は判ってるんだ」
「誰なんだ?」
「加鳥で間違いない」
「……その監視カメラの映像を見せてくれ」
襟白はパソコンを操作して、動画ファイルを開いた。監視カメラの映像は鮮明で人相もしっかり認識できそうだ。
無人の昇降口。しばらくすると、制服を着た女子生徒が下駄箱に手紙を入れている。
加鳥だった。
「……しかし、妙だな。生徒会から加鳥に対する処分は下したという知らせを受けていたんだが」
襟白に風紀委員の受信フォルダを見せてもらう。
メールの文面を読む。確かに加鳥に対して口頭による厳重注意と一年間の学内行事の従事が決まっていた。送信者のアドレスは生徒会のもので間違いない。
「返信したのがおれじゃないとすると、都倉か加鳥になるが……」
「どう考えても加鳥だろう」
加鳥が偽造申請の犯人で間違いない。けれども、納得するには時間がかかりそうだ。
どうして? 理由は? 何のために?
クエスチョンマークが頭のなかを支配する。
対照的に襟白は落ち着いていた。
「証拠はすべて揃っている。加鳥はもう言い逃れできない。どうするかは後上が決めるんだな」
「わかってる」
さてと、と襟白は腰を上げた。
「私はこれから天見に話を伺いにいくよ」
「浜野との関係についてか?」
「そうだ。まだ学校にいるかわからないが……」
「待ってくれ」
口が動いた。
本来なら襟白の管轄する案件だ。けれども、天見に事情を聞きたくなった。直接、顔を合わせて。だから、襟白には待ってほしかった。
「その役目、おれに預けてくれないか?」
「天見はいるか?」
生徒会室を訪れた。が、都倉しかいない。都倉はスクールバックを持って、これから帰ろうかというタイミングだった。
「もう帰っちゃったけど、どうしたの?」都倉はいった。
「ちょっと話があってな」
(明日にするか? いや、できる限り早いほうがいい)
天見に電話することも考えたが、変に警戒される可能性もあった。学校にまだ残っているなら、捜したほうがいい。
「そうか。それじゃ」
「待って……なにかあったの?」
「少しな……」
あえて明言を避けた。
部員の水増しの件に天見が絡んでいる可能性があることを話したら、間違いなく天見への不信感が高まる。たとえ、事実でなかったとしても。
不必要に天見の印象を悪くすることもないだろう。
「天見と二人きりで話したいだけだ」
「それってどういう意味?」
都倉は真剣な顔つきになる。いや、鬼気迫っていた。
「大事な話だ。あいつの将来に関わることだからな」
「将来に関わる……!」
「……どうした?」
「二人きりで話したくて、将来に関わる大事な話……。話があるのは私じゃなくて天見。私じゃなくて天見……!」
もう、おれの声は届きそうになかった。ぶつぶつとひとり言を呟きながら都倉は帰っていった。
(もしかして、あらぬ誤解を与えたんじゃないか?)
深く考えるのはよそう。おれは生徒会室を出て、昇降口へ向かった。
天見の下駄箱を確認する。外履きはまだあった。
とりあえず、高等部の校舎を全て見て回る。が、いない。クラブ棟も手当たり次第に捜す。
クラブ棟の六階の一室――申請室のドアが開いていた。
ドアから申請室を覗く。
窓を開け放ち、外を眺める天見がいた。
夕日も暮れ、薄暗がりのなか佇んでいる。天見の憂い顔に夕日の影が差す。絵になるような幻想的な光景にしばらく眺めていたい気持ちになった。
「天見……!」だが、声をかけた。
「ここに来ると三週間前のことを思い出すよ」こちらに気づいた天見は微笑んだ。
天見はおれの顔をまじまじと見つめて、
「……どうしたのそんなに汗かいて」
「天見を捜し回ってたんだよ!」おれは汗を拭い、話を切り出す。
「単刀直入に聞くが、超常現象研究部と関わりがあるのか?」
「もしかして、浜野君、ゲロちゃった?」
「それじゃ、やっぱり……」
「部員の水増しでしょ? アドバイスしたのは私だよ」
事実を隠すそうとせず、堂々と認めた。悪びれる様子もなく、淡々と話す天見に憤りを禁じえない。
「動機はなんだ?」
「もし、水増しがバレなかったら私も試してみようかなと」
「そんなことが許されるとでも……!」
「痛いよ、後上君」
無意識に天見の腕を掴んでいた。すまん、と謝って手を離す。
掴まれた部分が痛むのか、天見は腕を擦っている。
「悪いことをした自覚はないのか」
「私はアドバイスしただけだよ」
「悪事の手助けをした奴も同罪だぞ」
「やっぱり、そうだよね」
あはは、と笑う天見。罪の意識は薄い。
「……とにかく、この件についての処分は追って連絡する」
天見が超常現象研究部との関わりを認めた。あとは、襟白に報告しておれの仕事は終わりだ。
残すは加鳥の件だ。
おれが生徒会室を出る前、天見と加鳥は一緒にいたはず。
「加鳥がまだ学校にいるかわかるか?」
「加鳥さんなら、一緒に生徒会室を出て、そのまま帰っていったけど。……どうかしたの?」
天見も偽造申請のことは知っている。
話しておいてもいいだろう。
「嘘の申請をしていた連中の協力者は加鳥で間違いない。実行犯の下駄箱に手紙を入れていたところが監視カメラに映っていたんだ」
天見は驚かなかった。顎に手を添えて考え込む。
「で、加鳥さんも処分するの?」
「可能性はある」
「本当にそれでいいのかな?」
「……何が言いたい」
「事件の真相は知りたくないのかな?」
「馬鹿馬鹿しい。真相はもう判っているじゃないか」
「犯人が誰かなんて大した問題じゃないよ。大事なのは犯人の動機じゃない?」
「動機なんて、あとでいくらでも聞けるだろ」
「加鳥さんなら事実を認めたとしても、動機までは話してくれるとは限らない。……でしょ?」
可能性は十分にあった。おれたちは警察じゃない。尋問なんてことはしないし、できない。ただ、事実や事件に対して処分を下すだけで動機を調べたりはしない。
加鳥の動機が気にならないと言ったら嘘になる。
「真相を知るためにはどうしたらいいんだ?」
「加鳥さんに自白させる」
「どうやって?」
おっと、と天見は口を塞ぐ。
「ここからは私の出す条件を二つ飲んでからじゃないとね」
「条件?」先を促す。
「一つは浜野君にアドバイスしたことを大目にみてほしい。私への処分は実刑じゃなく、執行猶予ありで」
「もう一つは?」
「後上君の嗜好部入部の確約」
五月下旬。部員を揃える期限は一週間前まで迫っていた。
嗜好部の活動はこれまでに近くで見てきた。決して悪ふざけや部費目当てなんかじゃない。真っ当な部だと思う。天見の人柄も十分わかった。
「……いいだろう。その話、乗った」
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