第6話 装置改良その1&須川妹と熊さんパンツ

 僕は無事に部室に戻る事ができた。




「この装置って意外に電気食うんだな。まあ、俺が電気代払うんじゃなくて、学校持ちだからいくら使っても知ったこっちゃないけど」




 部長は、消費電力チェッカーの表示を見ながらぶつぶつ呟いていた。




「とはいえ、今回みたいにブレーカーが落ちたり、停電が起こった時の対策は考えないとな。俺が部室にいたから何とかなったけど、もし二人同時に向こう側に行ってたら危なかったな。どうしようもなかった」




 不幸中の幸いというやつだろうか。 


 森にいた時は、部長がいないことを呪ったが、冷静に考えれば部長まで一緒に来ていては本当に詰んでいた。僕たち二人以外に装置の存在をしる人はいなし、仮に部室に来たとしてもまさかワープホール発生器だとは思うまい。携帯電話で助けを呼ぶこともできない。一つのトラブルが致命的になることを改めて自覚しよう。




「よし、俺に考えがある」




 そう言い残すと部長はどこかへ行ってしまった。






 数分後。


 部室でぼーっとお茶や部長の買ってきたお菓子をむさぼっていた。


 人感センサーに反応があった。


 部長が帰って来たのだろうか。




「ただいま」


「おかえりー。ってどうしたんだ。そのパソコン」




 部長はディスクトップ型のパソコンを持って戻ってきた。かなり重かったらしく、額からは汗が流れ、腕まくりをしていた。




「見たい感じ相当古いパソコンだな。サイズも大きいし」




 ノートパソコンが一般的な現代からすると、かなり大きなディスクトップだった。その上型式もかなり古そうだ。




「パソコン部が新型に買い換えて処分に困っていたからな。交渉して譲ってもらったのさ」


「へー。これ、ちゃんと動くの?」


「HDDが壊れてるから、新しくSSD積もうと思ってる。他の部分は大丈夫かな。OSもサポート切れてるから、ネットからフリーのやつ入れてみる。これから、モニターとキーボード、マウスも譲ってもらえることになったから、取りに行くの手伝ってくれ」




 という事で、僕は部長と一緒にパソコン部の部室を訪れた。メガネをかけた優しそうなパソコン部の部長さんは、




「あ、ええで。ええで。どうぞ持ってください。どうせ、うちらはもう使わんさかい。これ、マウスとキーボードやで」




 ご丁寧にキーボードとマウスを紙袋に入れてくれていた。モニターもケーブル類をガムテープでまとめてくれている。卓上を見ると除菌シートとエアダスターがあった。紙袋内のプラスチックが光沢しているので、恐らく、僕らの為に綺麗にしてくれていたのだろう。なんていい人なのか。


 二人でモニター等を運び終えると、部長は、『SSDを買いに行くから今日の部活はおしまい』と活動終了を宣言すると僕を残して、そそくさと帰った。


ワープホールとパソコンに何の関係があるか分からない。単に部長が自分用に新しいパソコンが欲しかったのだろうか?


理由は翌日になると判明した。








翌日。


 登校すると教室に部長の姿はなかった。しかし、カバンは置いてあった。


 と、いう事はトイレか?


 だが、いつまで経っても部長は現れなかった。


 部長は何をしているのだろうか?


 早めに登校したので始業にはまだ時間がある。


 僕は何となく部室に行ってみることにした。




「よぉ。早かったな」


「なにやってるの部長?」




 エナジードリンクの缶を片手にキーボードを叩いている部長がいた。早速昨日もらったパソコンを使っている。




「あーあ。こんなに散らかして……」




 部室は昨日よりも更に散らかっており、ケーブルが増えていた。加えて、何本かはなぜか窓の外に垂れていた。配線に日光浴でもさせているのか?そんな事をしても無意味だと思うけど。




「それに、パソコン部以外パソコン使ったら校則違反だろ?」




 部長の自分用にもらったと思っていたパソコンは部屋の隅で完全にセットアップされていた。モニターや電源のコード、LANケーブルも配線は完了しているらしい。


 会長が見たら発狂しそうな程、堂々とした校則違反だな。




「まあ、大丈夫だって。普段はモニター含め段ボールで隠すから」




 用意周到に、部長の足元にはミカン箱が落ちていた。目隠しにするのだろう。ご丁寧に排熱ファン用に穴があけられていた。


 かたかたとキーボードを打つ部長。数分後、パーンとエンターキーを叩くと、満足気に笑みを浮かべた。




「よし、できたぞ」


「何が出来たんだ?」


「ワープホール専用サーバー」


「サーバー?」




 サーバーと言えば、ウェブページなどを動かすための運営用コンピューターだ。これの集合体でインターネットは成り立っている。


 でも、サーバーとワープホールなんて関係のない物だろう。


 だが、確かにワープホール用サーバーは装置と数本のケーブルでつながっていた。




「この装置をスマホを使ってネット回線越しに操作しようと思ってな」




 部長は自慢げにスマホを見せてきた。画面には、今の装置の消費電力や変圧器の温度等がグラフになっていた。




「でも、向こうの森は圏外だったじゃないか」


「だから、無理やり電波を通すんだよ」




部長のスマホの背面を覗くと四角いプラスチックのケースが取り付けられている。見た目はモバイルバッテリーっぽい。端から飛び出したコードは、スマホの端子に刺さっていた。




「これは、ワープホール発生装置の超小さいバージョン。物理的な移動が可能なら、ごく少のワープ装置を作り、そこから電波を送信すればネット回線につながるんじゃないかと考えたんだよ」


「ほー」




 部長の考えは分かる。持ち運び可能な大きさのワープホールが作れれば、スマホの電波を通す事が出来るかもしれない。しかし、現実的に上手くいくのか?




「俺もダメ元で作ってみたんだけど、意外なことに成功してしまってさぁ。さっき、森に行って試したけど、アンテナマックスでビンビンに立ってたよ」


「マジか」


「ネット回線への接続も、電話も大丈夫。まだ試してないけど、ネットにつながるという事は、向こうから部室の装置を遠隔でコントロールできるはずだ。装置をつけっぱなしで行って、うるさいだの振動が酷いとかの理由で須川が勝手にコンセント抜いてしまったら帰れなくなるからな。ほかにも、昨日みたいに手芸部のアイロン使用とバッティングしてしまっても、ブレーカーが落ちてアウトだからな。往来の必要な時だけ装置の電源を起動させればいい」




 要するにリスク軽減だ。長時間電源を付けているとコンセントを勝手に抜かれたり、故障、ブレーカー等のリスクがある。だから、その時間を最小限度にとどめようという作戦らしい。森にいても、遠隔操作が可能であれば、装置の電源を付けっぱなしで行く必要はない。




「なるほどな」


「ただし、欠点もある。この電波用ワープホールは使用時の消費電力が大食らいなんだ。待機モードだと大した事ないけど、電話したり動画見たり、通信量に比例して消費電力がアップする。こいつの電力はスマホのバッテリーから供給される。だから、バッテリー残量に注意しないと、装置を動かすだけの電力がなくなって帰れなくなる可能性もあるから」


「ってことは、向こうでのネットの使用は最小限度にとどめた方がいい?」


「モバイルバッテリーがあって、電力に余裕があるんだったら多少無駄使いしても良いけど、それ以外は自粛した方がいい。スマホの内臓バッテリーなんて大した事ないからな」




 電力問題は今後の課題か。幸い、今日はモバイルバッテリーを持ってきた。充電残量も満タンにしてある。部長に貸せばそれで大丈夫だろう。


 しかし、昨日も徹夜をしたのか、部長の隈はますますひどくなっている。今もふらふらといつこけてもおかしくないふらつき具合だ。こんな調子で森になんていけるのだろうか?




「部長、大丈夫か?」


「サーバーパソコンのセットアップと、遠隔操作用ソフト制作でまた徹夜だよ」


「じゃあ、今日は部活中止にして早く帰るか?体調崩したら大変だろうし」




 もしかしたら、もう崩れているのかもしれないが。




「いや、授業中爆睡するから大丈夫。せっかく装置も改良したんだ。早く試したい。それに、あの森や平原についてお前ももっと探索したいだろ?」


「それは、そうだけど……あんまり寝てテストで赤点取るなよ。文系教科で落としたら、部活できなくなるんだから」


「ま、まあ、それは何とかなるさ……」




 自信がないのかあからさまに声が小さくなった。


 この人、ただでさえ文系教科の点ひどいのに、授業寝てたらますますついていけなくなるのでは?


 森の探索もやりたいが、目先ばかり追えばあとから苦しくなるのは明白だった。




「とにかく、今日は部活をやるぞ。放課後駐輪場にて集合だ」


「なぜに駐輪場?」


「それは来てからのお楽しみだ」




 ちょうど予鈴がなる。まもなく授業開始だ。教室に戻らないと。


 僕と部長は部屋のカギを閉めると、教室へと向かった。








 授業は無事に終わり放課後。


 僕は荷物を手早くまとめると駐輪場に向かう。多分、部長よりも先に着くだろう。なぜなら、あいつは宣言通り今日の全授業を寝て過ごし、終業のチャイムが鳴っても起きる気配がなかった。揺さぶって起こそうとしたが、深く閉じたまぶたが開くことはなかった。


 まあ、そのうち起きるだろう。


 僕は一足先に行くことにした。


 途中で購買があったので、飲み物やお菓子を購入して向かう。


 どうせ部長が来るまでに時間があるのだ。暇つぶし用のつまみぐらいは用意しないと退屈しそうだ。


 と、予想していたが、意外なことに、僕が駐輪場に着くと部長は既にいた。




「よお。遅かったじゃん」


「なんで、先にいるんだよ……教室でいびき掻いてたんじゃないの?」


「起きたら授業が終わってたからな。慌ててここまできたんだよ。起こしてくれないとは薄情者め」


「起こしましたよ。けど、あなたのまぶたは天岩戸の如く開きませんでした」


「天岩戸ってなんだ?」




 こいつに、文学的な比喩を使った僕がばかだった。


 ああ。次の国語のテストが心配である。赤点取ったら部活できなくなるからな。






 五分後


「で、なんで僕らはこんなことをしてるんだ?」


「こんな事って?」


「なんで、旧校舎の階段をチャリンコ担いで登ってるのかって聞いてるんだよ」




 駐輪場で部長は自分達の自転車を部室まで運ぶと宣言した。


 理由を聞こうとしたが、部長はそそくさと行ってしまった。


 仕方がなく僕は追いかけ、旧校舎正面玄関を経由し、階段を上っている今に至る。




「そりゃ、あの平原を探索するからだよ」


「探索で自転車使うの?」


「そうさ。見たところあの平原はかなり広い。ちんたら歩いてたら下校時刻までに帰ってこられなくなる。それで時短のための自転車だよ」


「でも、それだったら人のいない時間帯に運び入れるとかにしろよ。今なんて、放課後で部活動の生徒が溢れてる。会長に見つかったら怒られるぞ」




 日中は寂しい旧校舎はこの時間になると、部活目的の生徒で混雑する。そんな中、自転車担いで階段上りをするなんて恥ずかしすぎる。現に、数人がこちらを怪奇な目で眺めていた。        


心が痛いね。




「大丈夫。あいつはさっき職員室で見かけた。生徒会は今日駅までの見回りを行うそうだ。わが校の生徒がたむろしてるって近隣住民から通報が入ったらしい。それで注意しに行くんだと」


「なんで、部長がそんなこと知ってるんだよ」


「天敵の情報は事前に察知しておくものだよ。邪魔が入ったらかなわないからな」


「なにそれ。ストーカーみたいで怖い」


「おい。距離を取るな。どういうつもりだ」




 二階へ差し掛かろうとしたときに、部長が手で止まれと合図を出す。




「どしたの?」


「シっー」




 口に人差し指を加えながら僕の口を押える部長。


 壁からそっと廊下を覗くとその意味が分かった。


 風紀委員と腕章をつけた女子生徒が歩いていた。




「ああ。そういうことね」




 いつも文句を言うのが会長であったから忘れかけていたが、この学校には風紀委員会が校内にウロチョロしているのだ。敵は会長だけではなかった。


 校舎内に自転車を持ち込んでいる今の状況を考えれば、見つかれば間違いなく咎められるだろう。




「正直、須川以外だったら何とか言いくるめる事は可能だけど……できれば波風を立てずにやり過ごしたいんだよ。二年になってから妙に風紀委員の奴らも厳しくなってきてるし」




 部長が一年生だった頃はこれまで手荷物検査で引っかかっても言い込めてもみ消したり、自販機で飲み物でも買って買収してやり過ごしていた。しかし、そのざる具合も最近では変化してきているようで、たまにゲーム機を没収されているらしい。


 風紀委員が背中を見せた時、部長は合図を出した。




「今だ!一気に通りすぎるぞ」


「ちょっ。待てよ」




 唐突なスタートダッシュに僕はついていけずにワンテンポ遅れる。




「何してる。早くこい」


「無茶言うな」




 ママチャリは二十キロほどあり、重い。そんなものを持って軽快に動けるわけがないのだ。


 あたふたしていると、




「おい!そこで何をしてるのですか」




 風紀委員の少女に見つかってしまった。


 最悪だ。


 ちなみに部長は僕を残して階段の陰に隠れてしまった。


 汚いぞ。僕はあんたの命令でやっていたのに、そのフィクサーは雲隠れしやがった。




「えっと、その……」


「校内に自転車を持ち込むとは不良ですか。イキって廊下でも爆走するつもりですか。学生書を出しなさい」


「これは、部活で使うために持ってきたので、決して不良では……」


「いいから早く学生証を出すのです!」


「は、はい。すみません……」




 小学生と見間違えるほどの低身長の少女はこちらにずばずば寄ってくる。その圧は大したもので、僕は言い訳をする暇もなく、学生書を取り出してしまった。


 少女はそれを奪い取る。




「米山清ですか。どこかで聞いた事のある名前ですね。まあ、いいです。ともかく委員室に来て反省文でも書いてもらうのです」




 ぶつぶつといいながら、手にした画板に何か書き込んでいた。僕の悪事でも記録しているのだろう。


 こちらに視線が向いていない内にダッシュで逃げてしまおうかとも考えたが、学生証が手元にない以上できなかった。


 そうだ、こんな時こそ、悪友の知恵を生かせばいいのだ。




「あの……これで手を打ちませんか?」


「なんですかこれは?」




 僕は購買で買ったスポーツドリンクを差し出す。


 部長直伝の賄賂である。彼は幾度となく、この方法にて危機を切り抜けてきた。部長にできるなら、僕にだってできるはずだ。


 しかし、目論見は外れた。少女は僕の手をはねのけ、こちらを軽蔑に満ちた目で睨んだ。




「己の罪を反省するでもなく、買収を目論むとは、とんだ悪党です。これは、きっちりと指導する必要がありそうです」




 墓穴を掘ってしまった。


 僕をこの状況に陥れた諸悪の根源である部長は、陰でくすくすと笑っていた。ノートに走り書きをするとこちらへ向けた。




 ありがとう。君の犠牲は忘れないよ。




 ふざけんな。僕だけおいて逃げる気か。


 そろりそろりと立ち上がると部長は自転車を持ち上げる。忍び足で階段を上がる。


 しかし、スタンド部分が床と接触し、ギ―っという嫌な音が流れた。




「ん?そこに誰かいるのですか?」


「やばっ」




 慌てて階段を駆け上がろうとする部長。だが、時すでに遅し。見つかってしまった。




「一人だけ難を逃れようとするとはとんだ悪党です。こっちの人の方が飛んだ悪党です。これはみっちりと教育しがいがありそうなのです」


「くっそ。清を人柱にして逃げれると思ってたのに……」


「へっ。悪党には天罰が加えらるんだよ。やっぱり神様はちゃんと見てるんだな」


「いや、両方とも校内に自転車を持ち込んでいる時点で十分に悪党です。さあ、学生証を出すのです」




 詰め寄られた部長はしぶしぶ財布から学生証を取り出す。


 僕の時と同じように、少女は奪い取った。




「ふむふむ。今井直正。姉さまからよく聞かされてるです。とんだ悪党だと……」




 彼女がじろじろと学生証を眺めている間、部長が僕に耳打ちをする。




「(なあ、この風紀委員、どこかで見たような顔してないか?)」


「(どこかでみたような顔?)」




 身長差があって、顔はよく見えなかったが、のぞき込むとある人が思い浮かんだ。




「(会長か)」




 目の大きさ、眉の位置。どれをとっても会長そっくりだ。違うのは体格と身長ぐらいか。


 会長は小柄で中学生並みの身長だが、目の前の風紀委員はさらにミニサイズ。


 会長が小学生ぐらいだったらこんな感じなのかね。


 会長の妹さんかな?と思っていると、




「須川。もともと小柄だったけど、更に小さくなってどうした?変な薬でも飲んで体が縮んでしまったか?」




 と、部長は笑いながら言った。


 こいつはどうやら、須川本人が小さくなったと考えているらしい。薬で子供になるとか、某探偵漫画であったような設定だな。


 そんなあり得ない設定より、なぜ妹の可能性が先に出てこないかは謎である。部長の思考回路はよくわからない。




「それとも、日頃からぐちぐち文句言ってると、ストレスでホルモンバランスが崩れて体がおかしくなるのかな?いくら偉そうにしても、そんなチビに何を言われた所で、言う事聞くやつがいるかっつーの」




 いつぞやのお茶事件の時のように、部長は腹を抱えながら笑っていた。




「おい、部長それぐらいにした方が……第一、体が縮むなんてありえないだろう。妹さんか何かだろ……」


「大丈夫だって。こんなチビに何かされた事で大したことは……グハッ」




 部長が抱えていた腹に向かってストレートパンチが叩き込まれた。


 部長はその場に崩れ落ち、痛そうに這いつくばっていた。




「痛え……」


「お、おい大丈夫か」




 これまで部長は会長に何度も言葉で噛みついたことはあったが、物理攻撃をされたことはない。


 しかし、目の前の小さな女の子は何のためらいもなく、部長の腹に拳を入れた。




「人の気にしているコンプレックスを茶化すからいけないのです。私は姉さまほど手ぬるくないのです。こいつのような悪党には躊躇なく鉄拳制裁を下すのです」


「姉さまって言う事は、君はやっぱり」


「はい。風紀委員長を務めさせていただいております、須川南那スカワナナと申します。須川友理奈会長の妹です」




 一年生で委員長をしているとは珍しい。


 普通委員長は二年生以上が担当するのが慣習となっているのに。


ほら、部長。お前の大好きな妹だぞ。よかったな。喜べ。


 しかし、喜ぶ様子もなく、部長は顔を青くしながら腹を抑えてうなっていた。腹パンがよっぽど痛かったらしい。




「去年、姉さまが学校の風紀改善の為に尽力を尽くしておりましたが、人手が足りておらず、なかなか上手くいきませんでした。しかし、今年から私も入学したのでより一層学校改革ができるのです」




 委員長は小さな小さな胸を張りながら、自慢げに語った。


 部長が言っていた『今年に入ってから風紀委員が厳しくなった』というのはこいつが原因だろう。


 思い返せば、僕も制服の着方がだらしないだの、廊下を走るなと咎められる機会が今年度になって増えたような気がする。


 理事長の孫娘である須川姉妹はどうやら、この学校の改革を本気でやるらしい。




「須川が二人居ただと?汚いぞ。そんな話聞いてない……」




 のたうち回っている部長は不服そうにしていた。


 部長としては、警戒しないといけないのは会長だけだと思い込んでいた為に、不意を突いた隠し玉にはさぞ不満があるだろう。


 その気持ちはわからなくはない。だが、汚いという表現はおかしい。わざわざ会長が部長に妹がいると伝える義理はない。


 顔を青くしていたと思うと、部長は突然にやけた。まるで何か反撃のチャンスでも見つけたように。




「だけどそれで納得できた事はあるよ」


「?」


「須川(姉)が可愛いくまさんのパンツなんて履くわけないもんなぁ?」


「!???」




 委員長の顔が一瞬で赤く染まる。慌てて彼女はスカートを押さえつけるが間に合わず。


 床に倒れた部長はニヤニヤしながら「そっかー。まだ一年生だもんね。くまさんでも仕方がないか」とぶつぶつ呟く。言い方はまるでエロおやじのようであった。




「ど、どこを見ているのですか!この変態」


「ちょ、痛いって」


「変態に発言権などありません!」




 部長の頭を踏みつける委員長。こういう時、一部の界隈ならご褒美というのかもしれないが、部長の場合は(たぶん)そういう趣味はないので普通に苦痛だと思う。


 さて、この男は馬鹿なのだろうか?いくら、相手の弱点を見つけた所で、更に反撃を受けるのは分かっていたはず。なのに直情的に口を開くのは実に愚かである。




「この変態!死ね!」


「ちょっと待て。マジで痛いって」




余計な発言をした部長の自業自得と言えばそうかもしれないが、少しかわいそうに思えてきた。あんなに踏まれて部長死なないよね?


そして、僕は彼の犠牲を持って、やはり自分より強い者には逆らってはいけないと悟った。










 その後。


 ボロボロになった部長が委員長に自転車を持ち込んだ理由について弁明した。もちろん、ワープ先の平原で探索に使えますとは言えるはずもなかったので、「自転車を使った発電機を作る」などと適当に理由をつけて誤魔化した。


 すると、委員長は、「なんだ。部活で使うなら始めから言ってくれればよかったのに」とあっさりと引き下がった。


 いや、君がものすごい圧で迫るから、言えなかったんだけどね。


 少し遅くなったが、僕と部長は無事に到着した。


 いや、部長は無事と呼べないかもしれない。例のくまさんパンツを馬鹿にした件で身も服もやつれている。


 こっぴどくボコボコにされていたからな。


 さすがに部長も反省したようで、「スカワイモウト、コワイ」とぶつぶつ呟いていた。


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