第3話 そして伝説へ(完)

「アレス!アレスはどこだ!」

ワルザックが声を荒げる。


「何ですか工場長……今、手が離せないんですが……」

「どうなっとるんだ!このペースじゃ間に合わないぞ!」


「いや、そうは言いましても……これが限界ですよ」

「お前は二級錬金術師だろ⁉三級のあいつに出来て、なぜお前に出来ないのだ!」


「チッ……だったらあんたがやれよ!」

「な、何だと⁉貴様誰に口を利いている!」


「あんた一級なんだろ⁉なら、この程度の量なんて簡単に作れるはずだ」

「……う、うるさい!いいからさっさと作れ!必ず明日の朝までに間に合わせろよ!」


ワルザックはそう言い捨てて逃げるように帰って行った。


「ふん、やってられっかよ!」


アレスはポーションの空き瓶を投げ捨てた。



* * *



す、すごい……高そうな調度品がいっぱいある……。


「こちらでお待ちいただけますか?」

「あ、はい……」


「うぉっ⁉」

吸い込まれるような座り心地のソファに驚き、思わず声が漏れた。

周りを見渡しながら待っていると、部屋の扉が開き、身なりの良い白髪の紳士が入ってきた。


「おぉ、これはこれはディミトリ様、お会いできて光栄です。ギルド長のワイズと申します」

「え……あ、どうも……」

俺は深く頭を下げる。


「いけませんディミトリ様、頭をお上げ下さい」

「あ、え?はい……」


何だろう、この……妙な感じは。

もしかして、俺って……大事に扱われているのか?


「さて、早速ですが……本当にガーゴイル・カンパニーをお辞めになられたのでしょうか?」

「あ、はい、実は……」


俺は工場で起きた一部始終を説明した。


「な、なんですとっ⁉あ、あの……馬鹿共は、ディミトリ様の一体何を見てきたというのか……」

「え、信じてもらえるのですか⁉」


「何を言っているのです、当然です!我々錬金術師ギルドは、帝国のポーション製造法に則り、流通するポーションの品質チェックを初め、工場の勤務態勢、製造工程のチェック、不正の有無などを監視、教育しております。中でもディミトリ様の仕事ぶりは、ギルドの調査員達の間でも噂になるほどでして、あのような高品質ポーションをあの人数でお作りになられるとは……いやはや、脱帽としか言い様がありません」

「あ……でも、ガーゴイル・カンパニーではずっとワンオペで……勤務表も改竄してましたから……」


「ま、まさか……そんな……⁉」


ワイズさんは顔面蒼白になり、言葉を失っている。

やっぱりそうだよな、悪いことをすれば報いを受けなければならないんだ。

ちゃんと罪を償って、一からまたやり直そう……。

そう思っていた矢先――


「エルザ!エルザ!」


ワイズさんが声を上げると、すぐにさっきのお姉さんがやって来た。


「何かございましたか?」

「大至急、ガーゴイル・カンパニーへ抜き打ち検査に向かいなさい!」

「え⁉ギルド長、いったい何が……」

「説明は後でします、貴方の仕事は徹底的に彼らの不正を洗い出すことです!」

「わ、わかりました、直ちに向かいます!」


エルザさんは姿勢を正すと、胸の前に手を当て会釈をした。

そして、俺にも一礼すると、どこかへ走って行った。


「ディミトリ様、申し訳ございません……全て私の責任です。かくなる上は、このワイズの名に賭けて、必ずや彼奴らに報いを受けさせます!」

「え?あ……は、はい」



* * *



ギルド長の言葉通り、ガーゴイル・カンパニーに対して大規模な検査が行われた。


すると、出るわ出るわ不正のオンパレード。

俺が一番驚いたのは、何と工場長が錬金術師の資格を持っていなかったことだ。


あの工場でポーションを作れたのは俺とアレス主任だけ。

しかもアレス主任は資格の更新試験を受けておらず、実質無資格状態だったそうだ。


今回の件は公爵様の耳にも入った。

公爵様は大層お怒りになり、工場長とアレスに過酷な地下魔石鉱山での強制労働を命じた。

もう、二度と二人が太陽の下に出ることはないだろう。



そして俺は――


「ディミトリ・オーエン、そなたの類い希なる能力は、この帝国の誇りである!よって、ここに特級錬金術師の称号を授ける」

「は、ありがたき幸せ」


そう、俺は公爵様に認められ、特級錬金術師の称号を賜った。

国中のポーション工場の指導役、後進の育成、錬金術師ギルドの顧問、やることは増えたが充実した毎日を送っている。


「オーエン、何を考えてるの?」

「うん?エルザは可愛いな~って」

「もう、からかわないでよ!」

「ホントだって、俺に家族ができるなんて……信じられないよ」


それともう一つ、俺はギルド職員のエルザと結婚した。

まさか俺がこんな綺麗なお嫁さんと結婚できるとはな。


「ふふ、もうすぐ一人増えるわよ」

「え⁉ホントに⁉」


これはもう、頑張るしかないよね!


その後、ディミトリ・オーエンの名は伝説のポーションマスターとして、後世に語り継がれた。

そして彼の息子も希代の魔術師としてその名を残すのだが、それはまた別のお話……。





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ブラックポーション工場をクビになったら、伝説のポーションマスターとして後世に名を残すことになった件 雉子鳥 幸太郎 @kijitori

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