冒険の扉
ケイが目を覚ますとそこは見知らぬ部屋のベッドだった。
清潔なベッドで、普段の寝床とは比べられないくらい上質なものだ。
状況を掴み切れずに困惑するケイだったが、ノックと共にカオルが部屋に入ってくる。
「起きたわね。具合はどう?まだ目眩する?」
「いえ、大丈夫、だと思います。それよりここはどこでしょう?」
「ダイバースクールの来賓用客室よ。単純な魔力切れだったから医務室よりもこちらの方が良いかと思って。」
「魔力切れ、って、そうか。僕魔力注ぎ込みすぎて魔力切れ起こしたんですね。。。」
ようやく経緯を飲み込めたケイ。
カオルがケイの様子を見ながら話す。
「そうね、ギンの指示通りに全力でやったわね。」
「すみません、ご迷惑をおかけしました。」
「何を言ってるの。普通魔力切れ起こすほど全力では注げないものなのよ。止めるか迷ったんだけどね。ギンはあなたに期待してるみたいだから。」
「本当、だと嬉しいんですが。。。」
ギンは技師としても色々教えてくれるが、ケイには期待されるようなことをできた記憶がない。
「まあ、そこから先は本人に聞きなさい。立てるかしら?」
「あ、ギンさんいるんですか?大丈夫だと思います。」
寝ている間に魔力も回復した様子で体は動く。
カオルに連れられて隣室に移動すると、そこにはギンとゴルドン、ワンが座っていた。
「おお、坊主。復活したか。」
「とりあえず良かったのう。」
「体ハ大丈夫カ?」
「はい大丈夫です、心配おかけしました。」
3人に声をかけられ、返事するケイ。
「気を失っちゃってすみません。あの後どうなったんでしょうか。」
「それは儂から説明しようかの。」
ゴルドンが話し始める。
「お前さんが気を失った後、アースドラグでスクールのドッグまで戻っての。助けた遭難者を病院に届けた後に、遭難者が参加テストを受けていたチーム大地の牙の代表を呼び出して説教してやったわい。」
「遭難した人は助かったんですね。」
「おかげさまでな。そうじゃ、早く渡しておかないとな。」
言うとゴルドンは懐から小さな袋を取り出した。
「これがメタルギルドからの今回の報酬じゃ。」
「え、いいんですか。」
恐る恐る袋をあけるケイ。中には金貨が10枚入っていた。
この世界での金貨は大体一万円程度。以下銀貨が千円程度、銅貨が百円程度となる。
ケイが2ヶ月ギンを手伝って得られる給料くらいの金額だ。
「こんなに。対してお手伝いできていないと思うんですけど。」
「お前さんが遭難者を担いだりピンガー打ったり、アースドラグを起動したり色々してくれたからかなり助かったんじゃ。胸を張って受け取って欲しいのう。」
「ありがとうございます!いただきます。」
ケイに戸惑いはあるが、評価してもらっているようなのと単純に臨時収入は嬉しい。
ホクホクしながら懐に入れると、今度はギンが声をかけてきた。
「なあ、坊主。」
「なんですか、ギンさん。」
「アースダイバーになりたいって気持ちはまだ変わってねえか?」
唐突な質問に戸惑うが、すぐにケイは答えた。
「はい、変わってないです。今回のことでもっと地中を見てみたいと思うようになりました。」
「そうか、そしたらな。」
お茶を口に含み、改めてギンが問う。
「地潜艇のクルーとして活動するアースダイバーを探しているチームがいるんだ。興味はないか?」
「え。。。それって。。。」
「変わり者のジジババばっかなんだがな。魔力が無くてダイブできない人間と地底人、魔力はあっても地の精霊と相性が悪くて潜りたがらないエルフ、地の精霊と相性はとてもいいが泳げないので潜れないドワーフ、とアースダイブできるやつがいなくてな。」
「そうだったんですか!?」
無表情のワン、都度頷きながら話を聞くゴルドン、ババの単語に納得いってないカオルが見守る中、ギンは話続ける。
「そもそもアースドラグは、潜れなかった俺たちが地中冒険するために作ったんだ。アースダイブできるなら多分作ってねえよ。」
「作ったんですか。。。」
「今回とかも一人アースダイバーがいれば、わざわざ蟻の巣に船を浮上させなくても良かったんだ。船は地中に待機して、アースダイバがシンクロアースをかけてやればいいんだからな。」
今回は空洞に浮上したが、真下から近づいて要救助者も同地させ地中に引きづり込むことを言ってるようだ。
「救助というより拉致の手口に見えますね。。」
「ともあれ、アースダイバかつ信用できる奴を探していてな。坊主なら任せられると思ってるんだがどうだ?」
申し出はとても嬉しいがこのメンバーの仲間として務まるかの不安はある。ただ、もうケイの心は決まっていた。
「無理かどうかは結果が決める、ですよね。」
「ああ、そうだな。」
「おねがいします!力になれるよう頑張ります!」
「そうか、じゃあよろしくな、ケイ。」
名前を呼ばれ、言葉に詰まるケイ。
今までギンに名前で呼ばれたことはなかった。
「けい、歓迎スルゾ。」
「そうか、ケイというのじゃな。よろしく頼むの。」
「ケイね。いい名前じゃない。よろしくね。」
ワンは(老人に偽装して)工場に来ていてケイとも話したことがあったが、今の今までゴルドンとカオルには名前も伝えていなかったことに気づいたケイ。
歓迎がひとしきり済んだところで、ギンが声をかける。
「ではケイがメンバーに加わったところでケイには最初のミッションがある。」
「な、なんでしょうか。」
「お前、スクール行け。金は俺らで工面してやる。」
「え、でも。」
「ケイ、お前アースダイバとして活動するには知識が足りなさすぎるんだよ。潜ったこともないだろう。スクールならその経験を効率よく学べるからな。それにスクールには寮がある。孤児院から出るお前には色々都合がいいだろう。」
望外な申し出に狼狽えるケイ。スクールには行きたかったが、金もなかった。
金の問題をクリアしたとしても、他にも問題があった。
「え、いいんですか?お金以外にも入学基準とか色々難しいって聞きましたけど。」
「ねえ、ケイ。そこの学校の校長が誰だかご存知?」
「そうでした。。。」
校長のお墨付きだったら問題があるわけもない。
「あと、今まで通り俺の工場手伝いは続けろ。時間がある時でいい。」
「スクール行きながらでも手伝えるんですか?」
「稼ぎながら通っている生徒もいるのよ。問題ないわ。」
「それにアースドラグのメンテも付き合え。メンテできるのが俺一人だと不便もあるんだよ。」
「わかりました、お願いします!」
地潜艇に触れる、というのは最高の申し出だった。
「じゃあ、アースドラグのクルーに一名追加だ。20年振りのルーキーだからな。今日は歓迎会と行くか。」
「ここはダメよ!?スクールじゃ思いっきり飲めないじゃない。」
「ギンの工場でよかろう。食い物はギルドから持っていくわ。ケイ、一緒に来て手伝ってくれ。」
「飲物ハ準備シトク。」
「よし、宴会だ。楽しくなってきたな。」
四人が話しているのを見ながらケイは高揚感を抑えられなかった。
目の前の光景が信じられない。今まで見えてすらいなかった冒険の扉がおもむろに開いていくのを感じていた。
地潜艇アースドラグ 花里 悠太 @hanasato-yuta
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