蟻の巣からの脱出
「目的ポイントに到着。蟻の巣に浮上する。」
1分ほどのアクロバティックな操縦を終えギンが宣言し、地潜艇は停止。かなり大きい空洞に浮上した。
ケイがマップモニターを見ると1つの大きな空洞に地潜艇が停泊している様子だ。
空洞に停泊したため、外部表示モニターが起動、地潜艇の周辺を外部ライトが照らし、周囲が見える。カメラの先には一人の男性が倒れていた。
それを見たケイが思わず声を上げる。
「あ、この前の!」
「坊主、知り合いか?」
「ギルドで試験受けた後に声をかけられました。。」
「ああ、あの絡んできたってやつか。合格したてって言ってたし遭難者で間違いなさそうだな。」
ギンがカオルとワンに外部状況を確認する。
「カオル、空気確認頼む。」
「外部空気確認。心持ち薄いけど大丈夫ね。」
「ワン、蟻は?」
「今ハ蟻イナイ。タダスグ来ルト思ウ。」
外部に出るなら今のうちだと判断したギンはゴルドンに声をかけた。
「ゴルドン、見てきてくれるか。」
「了解じゃ。ただ、気を失ってると抱えるのは苦労するの。丁稚、付き合ってくれんか。」
「わ、わかりました。」
ケイはゴルドンに連れられて出口に向かう。梯子したまできたところでハッチが開いた。
瞬間、土臭い匂いが流れこむ。ゴルドンはさっさと梯子を登っていく。
遅れないように登ったケイが外に出た瞬間、息を飲んだ。
「真っ暗だ。。。」
そこは地中。
地潜艇のライトが照らしているが、あまりにも光量が足りない。
圧倒的な闇がケイを包み込む。
「おう、丁稚。足元気をつけるんじゃぞ。」
「は、はい。」
ゴルドンはさっさと進む。
ケイはついていくのでやっとだ。
「すみません、暗闇に慣れなくて。。」
「そうか、潜ったことがないんじゃったな。地中は視界なんぞ役に立たんぞ。まあ、儂は夜目が利く。離れずついてこい。」
「わかりました。」
ドワーフは種族的に夜目が利く。加えて地の精霊との相性もよく、ゴルドンは暗闇の地底空洞を全く苦にしていない様子だ。ケイはゴルドンを目標に対象遭難者の元に向かった。
ゴルドンはたどり着いて息の確認や身体チェックを始めた。
「動きませんけど大丈夫でしょうか。」
「数カ所打撲しておるし、骨もいっとるな。ただ、動かないのは魔力切れじゃな。滑落した瞬間に魔力切れでシンクロアースが解けたってところじゃろう。」
この空洞は天井まで3、4mある。だが、同地率が高すぎたんだとすると、地表かそれに近いところからかなりのスピードで落ちてきた可能性もある。
相当な痛みを想像してケイは眉をひそめた。
「ついてないですね、シンクロアースしてたら怪我しなかったかもしれないのに。」
「何を言っとる。ラッキーも大ラッキーじゃろう。地中で解けたらただの生き埋めじゃぞ。」
ケイはそれを聞いてゾッとする。助かるための究極の選択だったかもしれないと言うことだ。何はともあれ生きているのは間違いない。
二人で意識のない男性を掲げて回収しようとすると、船から声が響いた。
「急イデ!蟻ニキヅカレタ!」
「ゴルドン、坊主、そいつ抱えて撤収!乗り次第すぐに潜航するぞ!」
ワンとギンの言葉を聞いて、ゴルドンとケイは急いで船内に戻ろうとする。
男を担いで船の元までたどり着いたときにケイの耳には変な音が聞こえてきた。
その音は、だんだん大きく、多くなってくる。
キャシャシャシャシャ。。。
ライトが照らしきれない暗闇に蟻が見え隠れしている。
「蟻。。。?」
ケイが呟く。確かに姿形は蟻なのだが、サイズがおかしい。
体調1mを超えている。しかも数がおおい。地潜艇が照らす範囲の外側を取り囲むようにいる。
しかもまだ増えている様子で、見える数も鳴き声もどんどん大きくなってきている。
その時、地潜艇がライトの光量を上げて蟻を威嚇するように照らし始めた。
「蟻は光で少し戸惑うわ!でも時間は持たない。ギンが出航準備してるから急いで船内に戻って!」
カオルの声に反応してゴルドンがケイに指示を出す。
「丁稚、こいつを担いで先に登れ」
「でも」
「言うとる場合か。儂じゃタッパが足りん。急げ!」
「わ、わかりました。」
急いで登るケイだが、その間にもライトに照らされている中、蟻が近づいてくる。
「ゴルドンさん!」
ケイが思わず叫ぶ。
ゴルドンは無造作に近づいてきた蟻の頭部目掛けて拳を振るう。
鈍い音がしたと思うと蟻は痙攣して動かなくなった。
「え。。。?」
「早く船内に入るんじゃ。後がつかえてるんじゃぞ。」
ケイの動揺をよそに、落ち着いた様子で蟻を痙攣させていくゴルドン。
慌ててケイはなんとか入り口に到達し、船内に入った。通路に無理矢理設置された簡易ベッドに救助者を寝かす。
するとゴルドンが戻ってきた。ワンが声をかける。
「殺サナイデクレテ、アリガトウ」
「ああ、数が多かったので骨が折れたがの。」
「どういうことですか?」
話についていけずに質問するケイ。
だが、ギンが話を遮った。
「話は後だ。潜航したいが何体か取りついてるな。坊主!」
「はい?」
「思いっきりでかく魔力ピンガーを打て。」
「え、なんでですか?」
「あいつらピンガーの魔力音が嫌いなんだ。船体から離れたらすぐ潜る。」
「了解です、さっきと同じでいいですね?」
「おう、ぶっ放せ。」
五列目の席に座り直し、また魔力をこめなおす。
先ほどまでよりもっと深く集中してうねる力を体に留め、更に渦巻きを大きくするイメージでためる。
カオルが何か言いたそうに見ているが、ギンの目線を受けて何も言わずに首を横に振っていた。
(これが、今の僕の、全力だ!)
ケイは力を黒板に叩き込んだ。
今までの数倍の魔力音が外部に照射され、蟻たちは蜘蛛の子を散らすように離れた。
瞬間、ギンが叫ぶ。
「ゴルドン、同地率95まで上げろ!」
「了解じゃ!同地率95%!」
船体が鈍い光に包まれ、地中に落下する。
地中に完全に潜ると同時に落下が止まる。
ギンたち四人は状況整理がてら話をしている。
「同地率90%まで低下させたわい。地中に逃げられたかの?」
「ああ、問題ない。さすがだな。」
「とりあえず、遭難者は命に別状はないわ。あとは帰れば良いわね。」
「すくーるどっぐマデノまっぷ展開。」
「よし、戻るか。」
ケイは、椅子に座って話を聞いていたのだが、どこか遠くで話されているように感じていた。
ギンがケイの様子に気づき声をかける。
「坊主、よくやってくれた。戻るぞ。」
しかしケイは返事できない。
カオルがその様子を見て話す。
「この子、本当に全力出したみたいよ。オーバーヒート起こしてるわ。」
「おお、ほんとうにか。まさかそんなに力注げるとはな。」
「なかなか将来有望だとは思うけど、今日はもう無理かもね。」
ケイの意識がスーッと遠のいていく。
魔力切れの症状だ、と最後思ったところで気を失った。
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