大地の龍

ギンが操縦する地潜艇が地中に沈む。先ほどの自動航行時とは明らかに違う動きで船は潜航し始めた。ケイは急に浮遊する感じに襲われる。


「うわああああ。」

「坊主!舌噛まないように気をつけろ!」


黙ってうなづくケイをよそ目に、四人は声をかけあって船を操る。


「ゴルドン、同地率93まであげろ。」

「おう。」

「ワン、ナビを頼む。」

「了解。コノママふたまるまるマデ降下。ソノ後、30度ノ方向ニ直進。」

「了解。カオル、気圧調整頼む。周囲の状況は?」

「気圧調整完了。周囲に特異物なし。異常ないわ。」

「よし。とりあえず13番ポイント下まで行くぞ。5分だ。」


打てば響くような連携を見せる4人。

ケイは舌を噛まないように歯を食いしばりながら彼らの連携に圧倒されていた。


地潜艇は200m急速潜航した。ただ、実体は沈下に近い。

同地率を上げると、90%を超えたあたりから抵抗がなくなってくる。

100%になると何も引っかからないので空から落下するのと同じことだ。

あっという間に鉱石や水脈、マグマなどに突っ込んでしまう。

そのため、同地率を上げて急速に潜ることはアースダイバには禁じられていた。


あっという間に200m付近まで沈下したところで転舵しながら目的地点に向かって進む地潜艇。スムーズな運転に見えるのだが、固定したベルトがなければ飛んでいってしまいそうで、ケイは耐えるのに必死だった。


5分ほどたっていったん地潜艇が停止する。

「13番ぽいんと下到着。」

「了解。カオル、探せるか?」

「魔力ピンガー打つわね。」


魔力ピンガーとは、地中を通りやすく変換した魔力音を周囲に照射する装備だ。跳ね返ってくる魔力音を元に周辺に魔力を捜索するためのもので、耳当てには小さく複雑な音が流れ込んでくる。

カオルが耳当てに手を添えて集中しつつ、操作盤に魔力を注入したようだ。

直後、ケイは地潜艇中心に周囲に魔力が照射されるのを感じていた。

しかし、思うようにいってないようで、顔をしかめながらカオルが言う。


「ちょっとノイズがひどくて生体魔力拾えないわ。」

「ここより上にいる可能性はあるか?」

「ホボナイ。コノウエニ複雑ナ暗礁ハナイ。」

「そうじゃな、それに上はダイバー達が探しとるはずじゃ。もっと下を探すべきじゃろう。」

「ってことは、蟻の巣か。面倒だな。」

「蟻の巣?」

思わず呟いたケイに、ギンが答える。


「お、そういえば坊主がいたんだったな。」

「あ、すみません。。喋っちゃって。」

「蟻の巣っていうのは、巨大蟻が作った空洞群のことでの。大きな空洞がたくさんあるのじゃよ。」

「空洞は魔力音を散らばらせるからわかりにくいのよね。蟻の巣に突っ込まないとだめかも。」


ゴルドンとカオルがケイに説明するのを見ながらギンが言う。


「とりあえず。だ。時間もない。このまま蟻の巣に突っ込んでいこう。」

「とりあえずわしは同地率調整をしておく。」

「蟻ノ巣、まっぷ展開済。」

「私はソナーに集中したいわね。。そうだ、お手伝いさん?」


ゴルドンとワンが準備してる中、おもむろにカオルがケイに話しかけた。


「ぼ、ぼくですか?」

「そう、あなた魔力あるのよね?」

「は、はい。」

「じゃあお願いがあるのだけど、脇の時計で100カウント毎にその黒板に魔力注入してもらえるかしら。黒板の接続先をピンガーに変更したわ。」


ケイの座っている席の目の前には先程起動に利用した黒板と、その右側に時計があった。カオルの言っていることは理解できたが、なにぶん初めて見る計器でできるかどうかわからない。


「無理、」


ケイは言いかけて先ほどのギンの言葉を思い出した。


『俺はできると読んだんだ。やってみろ!無理かどうかは結果でわかる。』


ここでやれるかどうかで、この船の仲間に入れるかどうかを分ける。勝手にそんな気がしていた。そしてカオルはできると思っている。ならばできる。よぎった弱音は噛み殺して返事する。


「黒板と時計ありました!起動の時と同じやり方でいいですか?」

「あ、そんなに力入れすぎないでね。さっきのと同じくらいなんだけどわかる?」

「やってみます。」


先ほど広がっていった魔力量を意識して、魔力を注ぎ込む。

すると、地潜艇から魔力が広がっていくのを感じた。


「今のはちょっと弱いけど十分ね。気持ち強めにお願い。」

「わかりました!」


ケイは10、11、12、、、と時計を見つめながら100カウントを真剣に数え出した。

その様子を見ていたギンは笑いながら、操縦桿を握り直す。


「坊主が役に立つかもしれんな。よし、負けちゃおれん。こっちもジジイなりに仕事をするか。」

「了解。ひとまる下ゲテ。」

「同地率92じゃ。いけるじゃろ。」

「おう。行くぞ。」


急にまた沈下を始める地潜艇。


「まっぷ作成。展開。」


ワンがいうと、前方に立体的な地中地図が展開された。

蟻の巣という名にふさわしく、複雑に入り組んだ空洞の間に無造作に地潜艇は突っ込んでいく。空洞を縫うように潜航している地潜艇から何回目かのピンガーが打たれた時、カオルがはっと顔を上げた。


「正面右15度下10度、500mの位置に生体魔力反応!」

「ソノ位置ダト穴ニ落チテル。」

「しかし生きとるな。遭難者なら助けられるかもしれん。」

「急ぐか。全員体固定しとけよ。」


ギンが言うやいなや、船の動き方が変わった。

濁流に放り込まれたように上下左右に激しく押しつけられる。

どんな動きをしているのかモニターを見たケイが息を飲む。


(落ちる!落ちる!落ちる!)


先程までは空洞に触れないように慎重に航行していたのだが、今は船体の一部が空洞に飛び出ている。アースダイブの常識で言えば、空洞に向かって落ちてしまう。これを滑落と呼ぶのだが、船は滑落寸前で空洞をかすめてエリアを抜けていた。次の空洞もかすめ、滑落前に抜ける。それを見てケイは気づく。


(落ちる力を利用して加速してる?)


ギンは時々蟻の巣の空洞に触れながら、引っ張られる力を利用して進行方向を変え、加速しながら目的ポイントにむかって操縦している。大地の龍と名付けられた船はその本領を発揮し、凄まじい勢いで目的地に向かっていった。

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